2014.01/07 フェノール樹脂の難燃化
一般のフェノール樹脂は、LOIが21以上の空気中で自己消火性を持った高分子であり、難燃剤を添加しなくともUL94-V2レベルは通過する。しかし、フェノール樹脂の分子構造の違いで、UL94-5VBを通過しないフェノール樹脂も存在する。
30数年前フェノール樹脂を用いた天井材の開発を担当し驚いたのは、フェノール樹脂の合成条件が変わるとLOIが22から35以上まで大きく変化する現象である。
フェノール樹脂にはアルカリ触媒を用いて合成したオリゴマーを酸触媒で縮重合を進め三次元化した高分子となるレゾール型フェノール樹脂と、酸触媒を用いて合成したオリゴマーをアルカリ触媒で高分子量化するノボラック型フェノール樹脂とが存在する。いずれも高い難燃性の樹脂を製造可能だが、合成条件によりその難燃性は大きく変化する。
天井材の開発では、オリゴマーを外部から購入しそれを発泡体に加工していたのだが、品質を満たす難燃性レベルに到達できず、難燃剤を添加して建築基準を満たす高防火性フェノール樹脂発泡体を商品化した。同じ頃、他社から難燃剤を使用しない高防火性フェノール樹脂発泡体が登場しびっくりした。
同一レベルの防火性とその他の物性を実現しているので、商品として評価したときに難燃剤の使用の有無がコストの差として現れるはずだが、販売価格は難燃剤を使用していないフェノール樹脂発泡体が高かった。この難燃剤を使用していないフェノール樹脂の特徴は、パルスNMRで分析したときにソフトセグメントの量が著しく少ないことであり、熱分析を工夫してその定量をすることができた。
分析結果を参考に、同一構造のフェノール樹脂発泡体を合成しようと試みたが、単純にオリゴマーの変更や触媒の変更だけでは実現できなかった。但しプロセスを変更して高分子量化の反応をゆっくり行ったところ、分析結果を再現できる構造のフェノール樹脂発泡体を合成することができた。そして合成された発泡体の難燃性は、他社品と同等レベルであった。すなわちプロセスコストが他社品では高くなっていたのである。
しかし他社のプロセスを実際に見学したわけではないので、これは実験結果からの推定である。このように配合処方は分析技術の進歩で容易にリベールできるが、プロセスについては特許の明細書に書かれていない場合には、ブラックボックスとなっていた。
かつては人材の流動化が進んでいなかったのでプロセスを特許の明細書に書かなくてもブラックボックスにできた。しかし現在は雇用システムも変化しプロセスのブラックボックス化が難しくなってきたので、特許として公開したほうが良いかもしれない。また、研究報告など情報量も増え、容易にプロセスまでリベールできる時代である。
現在は見ただけでは分からないノウハウ以外は、特許で保護する戦略をとった方が良い時代かもしれない。プロセス要因が品質に現れているならばその検出は容易である。高分子材料は金属やセラミックスと異なり、プロセス要因を成形体から検出しやすい。
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