2021.11/20 高分子材料のツボ(5)
相溶という現象が高分子のガラス相で起きることを利用して、水に不溶性の低分子を水分散コロイドにできる新技術を紹介したい。古くからこの技術ではオイル分散法と呼ばれる技術が用いられてきた。
すなわち水に溶けない低分子をオイルに溶解し、これを界面活性剤でミセルができている水溶液に添加し分散する方法である。オイル分がその後のプロセスで不要であれば、オートクレーブをつかいオイルを抜いてやればよい。
例えば色素の多くは水に不溶性なので、これをゼラチンに分散したい時にこの技術を使用する。古くから存在する枯れた技術である。しかし、最近は環境問題があるので、色素を分散したオイルの環境負荷が大きい時には問題となる技術だ。
幸いなことにデジタル化で銀塩フィルムは少なくなりこのような技術も使われなくなってゆくと思われるが、写真業界以外でもオイル分散技術が必要な分野が存在し、この技術開発を5年前に行った。
100円ショップで実験装置を買い集め、新たな技術を開発している。コロイド系の実験では台所にあるような実験装置で技術を開発できる場合が多い。現在審査請求中の技術だが、特別にここで公開する。
それは二種類の高分子を用いる方法だ。片方はゼラチンのような水溶性高分子あるいは、水にコロイドとして分散可能な高分子Hである。もう一種の高分子は、HとSP値が近く低分子を溶解可能な高分子Zである。
少量の水と低分子、HとZを混練機で分散する(混練機が無ければ弊社にご相談ください。混合方法をご指導いたします)。SP値が近い、すなわちフローリーハギンズのパラメーターχが0に近いHとZの組み合わせならば、混練中に単相となる可能性(注)がある。単相とならなくてもWO型のコロイドとして水と低分子、HとZが構造を作る。
この時LもZもガラス相となっている。このコロイド混合物を大量の水の中に添加して高速攪拌すると相の反転が生じ、OW型の安定なコロイドとなる。この時生成しているミセルの内部は、水に不溶な低分子とそれを含有した高分子ZとHの一部である。
このようなアイデアは、高分子のガラス相の知識が無いと出てこないが、皮革の処理剤として利用可能で、皮革の鞣しプロセスに適合した薬液を製造できる。低分子として難燃剤を用いれば皮革の難燃化も可能である。
また、高分子を生体適合高分子とすれば、ドラッグデリバリーの手法としても利用可能で、ワクチン製造技術にも応用可能かもしれない。この技術のツボは、親水性高分子と疎水性高分子の二種類の高分子がガラス相を形成し混ざり合っており、水の量を制御することにより相を反転している技術である。
すなわち、水と親水性高分子、疎水性高分子からなる3成分の組成が持つ機能を活用しているのだが、水の代わりに油を用いれば、反転する系の組み合わせを変えることが可能である。高分子の結晶化速度が速かったり、結晶化しやすい高分子ではうまくゆかない可能性が高い。
(注)Hが水溶性高分子とZとのコポリマーが最も好ましい。
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