2014.01/10 熱可塑性エラストマー(TPE)(1)
射出成形可能なゴムを熱可塑性エラストマーという。1930年代に軟質塩ビを用いて実用化されて以来、主に樹脂メーカーで開発が進められ、1980年前後に動的加硫技術が登場するまで様々なゴムと樹脂のコポリマーが開発された。すなわち古典的なTPEは、一次構造がゴムと樹脂のコポリマーであり、室温で樹脂の凝集部分が架橋点となってゴム弾性を示す。
これに対して30年経った現在も活発に研究開発されている動的加硫技術を用いるTPE(これをTPVという)は、加硫されたゴムが樹脂に分散され、加硫ゴムが島で樹脂部分が海となった海島構造となっている。二軸混練機の中で樹脂とゴムを分散しながらゴムの加硫を進めるので動的加硫と言う。
古典的なTPEではゴムと樹脂のブロックコポリマーを用いる必要があるが、TPVではこれまで開発された加硫ゴムを用いることができるので古典的TPEよりも経済性が高く、性能も良くなる。ゆえに自動車用の加硫ゴム部品をTPVで置き換える動きが現在市場で進んでおり、隠れた材料イノベーションが起きつつあり、ゴム会社の開発戦略あるいは樹脂会社の開発戦略の見直しが求められている。
すなわちバンバリーとロール混練で性能を造り込むゴム技術や樹脂合成技術が無くても適当な材料技術者(注)を集めれば新規参入可能な分野となっている。二軸混練機を中心としたプロセシング技術と成形技術を新規に揃えれば、技術的知識のある誰でもゴム部品を製造可能になってきた。おそらくTPVの性能向上はどんどん進み、加硫ゴムと差異が無くなる時代が来るのかもしれない。
かつて加硫ゴムは、バンバリーでノンプロ練りを行い、ロールでプロ練りをしなければ材料として十分な性能の製品ができなかった。そしてこのゴム材料を用いて加硫を行いながら成形を同時に進める技術でゴム材料の性能が左右されるので、ゴム会社はその高度な技術的参入障壁に守られていた。しかし、TPVの改良が進み加硫ゴムを置き換えるレベルまでTPEの材料技術レベルが上がるとこの技術的な参入障壁は下がることになる。
(注)動的加硫技術は30年の歴史が有り、特許フリーで適当な材料を製造可能な時代になった。ゆえに安直に考える技術者が増えているが、ゴム材料技術は奥の深い技術である。
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