2012.09/13 樹脂補強ゴム(2)
今ではゴムと樹脂のブロックコポリマーや熱可塑性樹脂(以下TPE)を手軽に入手できますが、30年以上前は研究開発が始まったばかりの先端材料なので、価格が高いだけでなく、種類も豊富ではありませんでした。それゆえベースゴムにうまく分散する樹脂を頭で探す、というよりも、TPEも含め市販されている樹脂を全て集め、ベースゴムに分散し、物性データを集める、という肉体労働100%の作業を進めていました。
しかし物性データは当時最先端の粘弾性スペクトロメーターという世界に1台しかない装置で損失係数の周波数分散を計測していましたので、ただ指導されたとおりの操作で測定しているだけでしたが、モラールが高かったことを記憶しています。
二週間ほど物性データを集めましたが、シミュレーションからほど遠い実験結果しか得られませんでした。すると指導社員の方から、実験時間を短縮するために、ある特定の周波数のデータだけで良い、との指示が出ました。指示通りの実験では、それまで3時間かかっていた測定が15分未満で完了します。指示は出なかったのですが、サンプル作成水準を特定の1水準に絞ることを小生から提案しましたところ、条件付きでOKが出ました。大幅に実験効率を上げることができるので、集中的に実験を行い、当時入手可能な樹脂すべての評価を5日ほどで完了し、よい結果が出そうな樹脂2種類について、細かいデータを取りました。
驚くべきことに、その2種類の樹脂を用いたポリマーブレンドでは、シミュレーションと同じ動的粘弾性の結果が得られました。この2種類の樹脂の1次構造(分子構造)は異なっていましたが、開発目標と異なる実験結果であった大半の樹脂の物性と大きく異なる結晶化度という因子などの共通した物理的特徴がありました。
大学では合成化学の研究を3年間してきましたので、分子構造ではなく物理的特徴から高分子をながめ作業を進める毎日は新鮮でした。また、この開発を始めたときに、シミュレーションから目標となる樹脂物性が予測されていたのですが、ゴムへブレンドしたときに樹脂が発現する物性と異なるためでしょうか、少しその予測が外れました。シミュレーション結果があるのに、実際には入手可能な全ての樹脂を評価したり、予測から少し外れた物性の樹脂が最適であったりと、必ずしもシミュレーションのすごさを示す実験とはなりませんでしたが、材料開発の動機付けにはなりました。
すなわち未踏領域の物性の材料開発を行おうとするときに、その物性を本当に達成できるかどうか知る方法があれば、事前に確認することで目標が明確になります。シミュレーション結果があれば、パラメーターの動きから、実験の方向も見えてきます。樹脂補強ゴムの開発で学んだことは多いですが、材料シミュレーションの威力とその効果につきましては、大変貴重な財産となりました。また、指導社員の方が、シミュレーションに投じた時間を最初に説明された理由とその隠された思いも理解できました。
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カテゴリー : 高分子
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