活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2014.01/12 熱可塑性エラストマー(TPE)(3)

30年以上前に開発された樹脂補強ゴムと類似組成および類似高次構造のTPVも存在するが、物性が大きく異なっている。特にTPVは耐久寿命と圧縮永久歪が悪い。この物性の差は、プロセシングも含めた処方設計の違いに由来する。何がどのように異なるか、そしてどのような技術開発を行えばその差を小さくできるかは、弊社のコンサルティング内容である。

 

TPVは、樹脂補強ゴムと同じ頃発明されているが、30数年間その性能差は縮まらなかった。今ようやく肉薄できる(?)ところまできて自動車部品に展開されている。およそ材料技術の進歩はこのぐらいのスピードである。大きなイノベーションが無い限り、飛躍的な進歩をできないのが材料技術である。

 

簡単にTPEの発展の技術史を紹介すると次のようである。1933年頃ゴム会社グッドリッチから軟質塩ビをTPEとして用いた特許が出願される。その後25年間は、射出成形で加硫ゴムなどできない、いやできる、といったような議論がされていた萌芽期と思われる。大した技術的進展はない。

 

しかし、DuPontからTPU(ポリウレタンのTPE)の特許出願がなされ、1959年にTPUの工業化が成功すると樹脂会社で一斉にTPUの研究開発が進む。その2年後DuPontからTPUと異なるタイプ(アイオノマー、サーリン)のTPEが1961年に工業化され、この分野でDuPontが独走態勢に入った。TPEの発展期である。ちなみにサーリンはゴルフボールのカバー材に使用されている硬いTPEである。

 

1970年前後になると、Phillipsからソルプレン、UniroyalからTPR、JSRからRBなど現在でも使用されているTPRが次々と上市された。このころから学術研究も活発になり、各種の樹脂とエラストマーのコポリマーが織りなす高次構造の研究発表などが出てくる。また、加硫ゴムの高い技術による参入障壁に守られていたタイヤ会社は危機感から、TPUを用いたタイヤ開発に乗り出した。すなわちRIMによるウレタンタイヤ開発である。

 

バンバリーから加硫工程まで多くのノウハウが必要なゴム製品の製造工程が、材料技術の進歩で簡単な成形工程に置き換わる、というのはタイヤ会社にとって破壊的なイノベーションである。1970年代は大手のタイヤ会社からウレタンタイヤの製造技術に関する特許が多数出願されている。

 

しかし、実用化されたのは一部の農作業用のタイヤやキャタピラー、遊園地の乗り物のタイヤぐらいである。TPUでは、高度の運動性能と高い品質を求められる自動車用タイヤを実現できなかった。ゴム会社がTPEの開発に本格的に参入した結果、動的加硫技術が生まれる。

 

1980年前後の頃、樹脂会社では動的加硫ゴム(TPV)の開発が、ゴム会社では樹脂補強ゴムの開発が進められた。両者の材料の高次構造は、樹脂が海で加硫ゴムが島である点は似ているが、品質や物性には天と地の差があった。この差は、プロセシング技術から生まれていた。

 

 

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

pagetop