2014.01/15 熱可塑性エラストマー(TPE)(6)
熱可塑性エラストマーについて大学ではあまり扱われていないようだ。コポリマーの説明のところで出てくるくらいである。客員教授として大学で講義をしているときに、TPEの説明を尋ねても答えられる学生はいなかった。熱可塑性エラストマーのことだというと、熱で可塑性を示す弾性体ですね、という回答が返ってきた。そのままである。語学の勉強ではなく、材料技術の授業中の出来事である。
熱可塑性エラストマーを扱った教科書は高価な本ばかりだ。学生が興味を持ったときに自分で購入できる金額ではない。企業の技術者をターゲットに会社で購入することを前提にした書籍ばかりである。こうした本を安く供給できるように2年ほど前に電脳書店を立ち上げたが、お客が来ないので1年で閉鎖した。戦略を練り直し、近々新たな企画として電子出版サイトを立ち上げるが、ゆくゆくはこの高額の本を少なくとも3000円以下で提供できる環境を作りたい。
技術者にとって本というものは自分の手元に置き何度も繰り返して読む必要のある知識の道具である。繰り返して読むことにより、そして実務の体験と重ねることにより知識が自然と身についてゆく。文学書と異なり、専門書は1回読めばわかる人ばかりではないはずである。どんなに難しくとも100回読めば記憶できるので分かったような気になる。
技術者は学者ではないので、この「分かったような気」が大切である。分かったような気で勇気が沸き、KKDの度胸ができる。技術者に必要な度胸は知識で養われる。そして知識を養うために本を100回読む必要があり、そのためには手元に本が必要である。「読書百遍、意自ずから通ず」とは亡父の口癖であった。
ところが100回読んでもわかりにくいのがTPEの本かもしれない。これまでにTPEを扱った本を数冊1回読んだが、当方の知識と合致する本が無い。30年前、TPEは先端材料のため学術論文や特許で学ぶ以外に手段が無かった時代であり、独学で勉強しなければならなかった。その時指導社員から教わった樹脂補強ゴムのことを書いた本が無いのである。
樹脂補強ゴムの中には熱硬化性のフェノール樹脂を用いた加硫ゴムと同様に熱可塑性の無い材料から、熱可塑性を示す材料まで存在する。例えば結晶化度の高いRBを使用したときには、熱可塑性の樹脂補強ゴムとなる。昔、特許も出願している。
また、TPEについては略称が多い。そしてその略称が同次元で説明の中に登場したりするので説明がわかりにくくなっている。熱で可塑性を示す弾性体が最も上位の概念で、その材料の特徴は樹脂とゴムとの複合体である。複合化が分子レベルの場合にTPO、TPS、TPEE、TPU、TPVC、TPEA、フッソゴム系などがあり、メソフェーズ以上の複合化になると動的加硫技術によるTPE(TPV)や樹脂補強ゴムというTPEとなる。このように記憶している。
弾性体の架橋点が化学反応によるのか、樹脂の凝集部分によるのかで分類している本もあるが、TPVを分類するときに悩むはずだ。これを悩まずに分類しているので読む方が悩んでしまう。TPEの最も大きい「くくり」は、先に書いたように樹脂とゴムの複合体の事である。このように定義すると熱可塑性のRBを用いた樹脂補強ゴムもTPEとなる。
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