2021.12/29 試行錯誤
40年以上前に試行錯誤を軽蔑する研究者は多かった。しかし、有機合成の世界は少なからず試行錯誤が必要な世界だった。すなわち新反応を見出すために新しい反応条件に挑戦する必要があった。
有機金属化合物の合成では、その化合物合成が研究目的となったり、反応機構確認のための目標だったり、触媒機能探索の目標だったり、様々だったが、新しい化合物が合成されたときに形式知が誕生している。
鶏と卵の関係よりわかりやすく、そこでは新しい化合物を合成できる技術があって科学の形式知が生まれているのだ。そしてその技術は試行錯誤により生み出されている。
試行錯誤を効率よく行う方法もあり、ラテン方格の利用はその一つだが、このような工夫さえもゴム会社の研究所では否定された。試行錯誤を徹底して嫌ったのである。
その結果、電気粘性流体の耐久性問題では、界面活性剤では問題解決できないという科学的に完璧な否定証明が行われた。それを当方は、効率的な試行錯誤法によりひっくり返した。
効率的な試行錯誤法とは、今でいうところのデータサイエンスに基づく方法である。昔は、データサイエンスは科学のカテゴリーに入っていなかった。
1980年から90年にかけて科学論に関する著書が多数出されている。共通して書かれていた内容は、科学と技術の境界は時代により変化するという哲学だ。
哲学者イムレラカトシュは「科学の方法」という著書で、科学的に完璧な方法とは否定証明である、と明確に語っている。この意味は科学的に完璧を目指したいならば否定証明となり、電気粘性流体の開発ではそれがなされた。
ところが否定証明で見出された科学の真理でも、たった一つの技術によりイノベーションを起こされるとひっくり返る可能性があることを知っておくべきである。ここに技術の本質がある。
カテゴリー : 一般
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