2014.02/03 STAP細胞発見の意味(3)
STAP細胞発見のテーマ設定プロセスは、非科学的プロセスで行われている。雑誌「ネイチャー」で最初に不採用とした編集者の見解もそれを指摘している。ところで非科学的プロセスは排除されるべきことなのか?
イノベーションを引き起こすような発明発見を科学的プロセスで行おうと50年以上前にTRIZやUSITが考案されたが、TRIZやUSITでイノベーションを引き起こすような大きな発明発見が成された事例を聞いたことがない。イノベーションを引き起こすようなプロセスは、むしろマッハが指摘しているように非科学的プロセスから生まれている。
非科学的プロセス、例えば「幸運プロセス」を活用して、それなりに努力すればイノベーションを引き起こせる分野の存在を示したのも今回の発明の意味である。もし小保方さんがハーバード大学で若いマウスから幹細胞を取り出す実験を担当しなかったら彼女は今回の発明発見をする役割になっていなかった可能性がある。このあたりは、幸運が作用している、といってもよいのではないか。
ただ、ハーバード大学へ留学するまでの彼女の努力や実験を担当してからの彼女の姿勢は、科学とか非科学に無関係に若い研究者の模範となる。ハーバード大学で今回の実験を担当するという幸運を引き寄せたプロセスについて紹介されていないが、実験を担当した幸運をチャンスに変えるまでのプロセスは新聞情報に掲載されていた。それは典型的なヒューマンプロセスであった。
おそらく彼女以外の人も同様の実験を担当していただろう。そして彼女でなくとも刺激で幹細胞ができている現象を見ていたはずだ。しかし、目の前の現象を従来の科学の常識からありえない現象として認識し、自分の担当している仕事は、若いマウスのリンパ細胞から小さな幹細胞を選び出す作業と納得し、生物化学の大発見となる現象が目の前にあっても気がつかずに作業を行っていたと推定される。
しかし、彼女はマウスから取り出した細胞に幹細胞が含まれていないことに疑問を持ち、細い管を通過した後に幹細胞が取り出されている不思議な現象に興味を持った。そして非科学な考え方であるけれども刺激で幹細胞ができている、とその現象を素直に捉え、それを実証するために研究を始めた。このヒューマンプロセスは、「現物現場主義」という言葉として技術開発では有名な取り組み方である。
すなわち技術開発の現場では、科学的な論理の説明よりも実際に現場で起きている現象が優先される。このあたりは会社により考え方が異なっていることを知ったが、ゴム会社のように徹底して現物現場主義で攻める姿勢の方が技術開発はうまくゆく。周囲から現象の見間違いと指摘されても、彼女は自分の目の前の現象を信じ、現物現場にこだわり成果を出している。
正しい現物現場主義では、非科学的な現象も受け入れなければならない。そのとき、それを誤差あるいは実験の失敗と捉えるのか、非科学的現象でもゴールを実現する有効な現象と捉えるのかにより、問題解決において次に取るべきアクションが異なってくる。現物現場主義というヒューマンプロセスにおいて重要な姿勢を取らない場合に非科学的な現象を否定し排除し、その結果新発見を見逃したり問題解決を困難にする場合がある。STAP細胞は、現物現場主義で発見された成果という見方もできる。
実は生科学分野に限らず高分子材料分野でも「幸運プロセス」でささやかであるが工業的に重要な発明発見の機会が多数存在する。6月に開催されるポリマーフォーラムの招待講演者に推薦されたが、そこで行うプロセシングの講演も「幸運プロセス」で問題解決できた技術成果で、フローリー・ハギンズ理論に合わない現象を紹介する。
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