2014.03/16 現物の重要性
理化学研究所の中間報告で明らかになった画像編集の事実はショックであった。科学の世界でも技術の世界でも現物が重要なはずである。多少写りが悪くともその写真が実験結果であれば、そのまま使うのが常識である。
科学でも技術でもくり返し再現性が大切であるが、技術ではさらにそのロバストも問題になる。くり返し再現性については、現物の突き合わせが必ず行われる。デザインレビューにおける品質チェックは厳しく、規定にあるエビデンスのすべてが揃っていなければ現物という評価を頂けない。逆に現物を示すデータが全て揃えさえすれば同じ物という評価を頂ける易しい仕組みとも言えるが。
かつて、A(高分子),B(高分子),C(導電性微粒子)の3成分からなら電子写真のキーパーツの開発を製品化の最終段階で業務を引き継ぎ担当したときには大変であった。3成分の量比まで決まっており、最終段階の開発フェーズのためそれらを変更することができなかったのだ。幸いなことにその材料の特性は品質特性で記述されており、材料の科学的な特性を示すデータは、組成とその比率、力学物性だけであった。このような状況で歩留まりを30%から80%以上へ、そして物性も一部改良するという難問を弊社の問題解決法で解いたのだ。
技術の改良手段として科学的にナンセンスなAとBの高分子を相溶させる方法を選びゴールを達成した。科学的なフローリーハギンズの理論に反する実験結果が得られたが、技術的にはAとBが相溶することによりずば抜けた品質特性の商品が完成した。新しい平面剪断装置によるプロセス再現性も良かったが、その時困ったのは品質特性の一つ靱性を示す物性が著しく改善されたことだ。
すなわちこれまでのデザインレビューで議論してきた商品と同じ物かどうかが、その良すぎる物性から疑われたのである。改良前の材料ではAとBの高分子が相溶していないが、改良後ではそれらが相溶したので科学的には同じ物質ではない。ゆえに疑われることは覚悟していた。しかし、デザインレビューの議論で必要となる「同じ物」を示すエビデンスをそのまま揃えた。
その結果、品質特性が当初予想された設計品質として最高の商品ができていることが明確になり、それで議論になった。「品質を落とすために、もう半年開発を続けます」と発言したら、特例として商品化にゴーサインが出た。技術開発における現物の議論は第三者が見ると奇異に感じるぐらいに厳格に行われるのである。ただしその議論は科学的ロジックを用いているにもかかわらず、議論している人間は専門家ではないので、この例のように科学的には少し奇妙な結論が出たりする。しかし技術では機能をロバストよく再現できることが重要で科学的な厳密性は問われない。
この事例では、AとBの高分子が相溶した場合と相溶していない場合では、科学的に同じ物質では無い。また現代の科学ではAとBの高分子が相溶した状態で安定に存在することは否定される(注1)。ゆえに商品として新技術で創られた物質は科学的に大いに怪しいが、技術的にはタグチメソッドでそのロバストが証明されており、会社の品質基準も靱性以外全て満たしている。靱性も上限を決めていた品質基準がおかしいわけで、靱性というパラメーターは高ければ高いほど壊れにくくなるので良い方にはずれる分には問題ない項目である(注2)。
ただし、品質特性が良すぎるから、といって悪い品質データに改竄しデザインレビューにかけることは、たとえ副作用が生じないと分かっていても行わない。あくまでも現物のデータをそのまま議論の場に提出するのがデザインレビューのルールである。
(注1)科学の世界では科学で明確にされた真実がひっくり返ることが稀にある。また自然現象で科学的に解明されているのはほんのわずかである。STAP細胞の騒動の問題も、植物では起こりうる現象だが動物では絶対に起きない現象である、と科学的に結論づけられた真実があるために騒動になったのだ。またそのような問題であったために日本の学会はつぶす方向へ早くから動いたのである。STAP細胞の騒動で科学の正体を垣間見たことになるのだが、哲学者イムレラカトシュはすでにその点、科学の方法論の問題を指摘している。但しだからといって科学的方法が否定されるものではない。科学に代わる方法が無いのである。だからイノベーションという事象に対して科学と技術をどのようにマネジメントすべきか、という問題である。弊社の問題解決法では一つの答を提案している。
(注2)商品によっては壊れなければ機能しない場合がある。その時は逆になるか、あるいは靱性の許容範囲を厳密に守る必要が出てくる。例えば電気のヒューズはそれに近い商品である。
カテゴリー : 一般
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