2022.10/30 新QC7つ道具とデータサイエンス(1)
MIのエンジンとなるデータサイエンスが日本で初めて技術開発に導入されたのは1970年代である。日科技連の発表した「新QC7つ道具」の一つとして多変量解析が紹介され、それを解説する専門書籍も発売された。
ただし、この手法を活用するためには、IBM3033のような大型コンピューターとそれに付属する統計パッケージが必要で、コストもかかり不便だった。
それでも、合成後の構造解析と物性測定を経てから用途を開拓する手順が素材メーカーの研究開発スタイルだった時代に、この多変量解析の登場により組立メーカーによる新材料開発が始まっている。
某ゴム会社では、データサイエンスで見出されたタイヤ性能と高分子材料の分子構造との関係を用いたポリマー設計を1980年前後に行っている。この時利用されたのは重回帰分析と主成分分析である。
分子構造や素材物性、配合因子、プロセス因子などを主成分分析し、一次独立が保障された主成分得点による重回帰分析で、各因子の寄与率を評価している。この手順でタイヤ性能を満たすための分子設計が行われ、そのレシピに従い素材メーカーへポリマーの発注が行われている。
1979年の新入社員研修では、技術実習テーマ「タイヤの軽量化検討」において多変量解析が使われている。世界のタイヤメーカーから集められた16種類の165SR13サイズのタイヤを解剖して得られたデータを主成分分析して、同一仕様におけるタイヤの重量を左右する因子を探っている。
当時はバイアスタイヤとラジアルタイヤの混在していた時代であり、ラジアル構造が軽量化に寄与し、その構造の造りこみに必要な材料技術の特徴で軽量タイヤグループが形成されているという解析結果が、ビッグデータではないにもかかわらず得られている。
また、一次独立である主成分得点を重回帰分析に用いて、当時の技術で到達しうる最も軽量化されたタイヤ重量を求めることにも成功した。
この重回帰式で得られた偏回帰係数の値から寄与率の高い変数を選び、主成分得点に対する寄与率を遡りながら、最軽量タイヤの設計因子を導き出してタイヤ試作まで実施している。
驚くのは、世界最軽量の試作品が1カ月程度の短期間にタイヤ設計の素人である新入社員の実験で得られたことである。40年ほど前の出来事である。
社内の基礎研究部隊はこのような手法を非科学的と評価し、それを積極的にとりいれていた当方は異端視された。QC手法が科学者には現場的手法と見なされていた時代である。
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