2022.11/13 高純度SiCとデータサイエンス(2)
ホウ酸エステル変性ポリウレタン発泡体の難燃化機構について、データサイエンスによる証明では非科学的とゴム会社の研究所で評価されただけでなく当時の学会でもあまり関心が示されなかった。
当方もデータサイエンスの手法が科学的とは思っていなかったが、科学で答えられない問題あるいは現象について、科学で問う方法として関心があり、1980年からアイデアを練ったりする時だけでなく、科学的証明が難しい時にデータサイエンスを活用していた。
燃焼という現象は、急激な酸化反応であり非平衡状態で進行するので、科学で問うことはできても完璧な科学的証明は困難である。未だに非平衡で進行する現象の取り扱いについて形式知がまとまっていない。
40年前の1980年代ならさらに科学の状況は遅れていたので、科学的な証明が困難と言っても良い時代だったが、それでも科学的に完璧な証明を上司は求めてきた。アカデミアよりもアカデミックな研究所ゆえの疑問の残る仕事である。
仕方がないので、熱重量分析装置を活用して、各温度における変化を観察したのが最初の研究である。そして、50℃間隔で熱重量分析装置を停止し、サンプルの状態を観察したり、発生ガス分析をしたりもした。
この結果に合わせて、実際の燃焼試験における発生ガス分析や燃焼後の燃焼面の分析を行ったりもしている。そして、ポリウレタンに添加されていたホウ酸エステルとリン酸エステルが反応して350℃でガラス状のボロンフォスフェートが生成していることを確認した。
また、ホウ酸エステルが添加されていない時には300℃でオルソリン酸の揮発が観察されるが、添加されているとそれが抑制されることも明らかになった(恐らく300℃からホウ酸との反応が始まっていたのだろう。実験で得られた値には50℃の差異が存在した)。熱重量分析の結果は、燃焼時の現象でも再現されたので分析手法も含め機密事項とされた。
1980年代は高分子の難燃化研究について、技術が完成した時代であり、1970年代からその開発競争が激化していた。当方は大学院でPVAの難燃化をホスフォリルトリアミドのホルマリン付加体で成功していたので世界の研究動向を知っていた。
ゆえに製品化されなかったホスファゼン変性ポリウレタン発泡体の研究論文の発表許可は下りたが、製品化されたホウ酸エステル変性ポリウレタン発泡体については、学会発表のみ許可された(ただし学位論文には学会の予稿集にも書いたデータサイエンスの成果を掲載している。)。
ただ、一連の解析データについて、特に動的な燃焼時のガス分析手法についてはノウハウとされ、発表許可が下りなかった。燃焼現象の解析技術は当時先端技術であり、発表に制約がついたが、データサイエンスの成果については、非科学的という理由で容易に許可された。
カテゴリー : 一般
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