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2022.11/14 高純度SiCとデータサイエンス(3)

ホウ酸エステルとリン酸エステルを併用し、ポリウレタン発泡体に添加しておくと、それが燃焼時に反応してガラスを生成しポリマーを難燃化する。データサイエンスによりその現象を把握することができる。


極限酸素指数(LOI)を目的変数として、ホウ酸エステルだけ添加したポリウレタン発泡体で採取された実験データを単回帰分析するとホウ素の含有率変化に対してほとんど増加しない。すなわち、ホウ素原子単独では、LOIを増加させる機能が無いことを示している。


ところが、リン酸エステルとホウ酸エステルを併用するとホウ素原子の難燃化機能がリン原子の効果に近づく。これが段階式重回帰分析で示された。


段階式重回帰分析とは、説明変数を逐次1変数づつ取り上げながら重回帰式を組み上げてゆく方法で、説明変数間に相関関係があると目的変数への寄与が高い説明変数だけが重回帰式に組み込まれる。


この手法で組み立てられた重回帰式には、必ずしも期待する説明変数が取り込まれない場合も出てくる。ゆえに、当時は期待される説明変数が取り込まれるように、重回帰式の結果を見ながら実験データを取り直すこともしていた。


このような試行錯誤の実験で、重回帰分析の数学的な意味だけでなく、サンプルデータ群の特徴が回帰式にどのように影響するのか、ということも学んでいる。


例えば、塩素原子や窒素原子、芳香環などは、条件が整うと難燃性に寄与する単位である。三酸化アンチモンが存在すれば、燃焼時に塩化アンチモン蒸気が生成して空気の遮断をすることが知られている。


これは、段階式重回帰分析を行うと塩素原子とアンチモン原子が説明変数として取り込まれることからも理解できるが、リン酸エステルには塩素原子を含んでいる化合物も存在するので、リン原子と塩素原子の間に偶然の相関が出てきて、どちらかの原子が取り込まれないことが起きる。


アンチモン原子が存在すると、塩素原子が取り込まれて、リン原子が棄却される。燃焼時のリン酸単位が炭化促進の触媒作用を示すことは形式知なので、これはおかしい。


塩素原子を含んでいないリン酸エステルを用いた実験データを追加してやり、リン原子と塩素原子との単相関係数が例えば0.7未満になると、説明変数としてリン原子と塩素原子の両方が取り込まれるようになり、リン原子と塩素原子、アンチモンとの効果比較が可能となる。


ホウ酸エステル変性ポリウレタン発泡体の難燃化システムの場合にも、難燃剤の組み合わせ等を工夫し、ホウ素原子とリン原子、塩素原子、窒素原子、芳香環それぞれの単相関係数が0.7未満となるようにしてやると、ホウ素原子とリン原子、塩素原子が説明変数として取り込まれた重回帰式ができる。


この重回帰式の説明変数の標準偏回帰係数を比較してやると、それぞれの原子のLOIに対する寄与を知ることができる。驚くべきことに塩素原子が0.1程度に対し、ホウ素原子は0.4程度までになっている。


一番高いのはリン原子で0.6である。この総和が1になっていないのは誤差を含んでいるためであるが、LOIに対するホウ素原子の標準単回帰係数がほぼ0に近いにもかかわらず、塩素原子の4倍の寄与率を示したのは、リン原子との相乗作用の結果であり、燃焼時の熱でホウ酸とリン酸が反応してボロンホスフェートの生成した結果と一致している。

カテゴリー : 一般

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