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2022.11/20 データサイエンスとトランスサイエンス(3)

当時のゴム会社の研究所は40年先を走っていた。定時になると皆帰宅する、ワークライフバランスを先取りした職場だった。タイヤ開発部隊も同じ8階建てのビルで研究開発を行っていたが、夕方の6時には6階以上の研究所事務所の電気は消えていた。


同期からは羨ましがられたが、当方は勉強のために時間があれば実験をしていた。ゆえに当方が配属された10月から夜中12時近くまで6階以上のどこかの部屋の明かりがついていることが少し話題となった。


指導社員は、毎朝9時から12時まで3時間の座学で高分子の基礎から最先端のレオロジーまで指導してくれた。理論的に混練技術の学習ができた。伝説のカオス混合についても教えてくれて、当方ならばどのように実現するのかと宿題を出されている(注)。


また、午後は自由にテーマを推進していいが、データについては誰にも言うな、と言われた。研究所内では他人の成果を奪っても平気な輩が多かったからである。


気がかりとなったのは、指導社員は学生時代から理学部でレオロジーを学んだ技術者だったが、ダッシュポットとバネのモデルによるレオロジー研究は20世紀で終わりになるから、新たなレオロジーの姿をデータから研究するように、と指導社員の教えてくださっている知識を否定する難しいことを要求されたことだ。


さらに、ダッシュポットとバネのモデルを教えているが、データベースで考えろ、とも言われた。すなわち、ダッシュポットとバネのモデルで仮説を設定できるが、あくまでもデータ中心に考えろ、と。


この考え方は、その後の当方の技術者としての成長にとって重要なアドバイスとなった。科学者は仮説を基に実験を進める。そして、仮説に従った実験データが得られれば満足するが、仮説を否定するようなデータが出ると、否定証明に走る場合がある。


当時タイヤ開発を担当していた役員から、科学ではモノができない、と新入社員研修の発表会で多変量解析による成果を批判された。新QC7つ道具に多変量解析が取り上げられていても、である。


(注)約30年後にこの宿題を完成させることができた。PPS/6ナイロン/カーボンの配合の中間転写ベルトの歩留まりをあげるために必要な技術だった。

カテゴリー : 一般

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