2022.12/21 高分子の難燃性(5)
PPSの高い難燃性能では、分子構造に含まれるSも寄与している可能性が高い。また、PPSに含まれる芳香環の凝集性に着目するとPH01同様の難燃助剤としての機能を期待できる。
現在のところ、燃焼時に効率的にチャーを生成できる触媒はオルソリン酸を含むりん系化合物以外知られていないが、こうした難燃助剤と呼びたくなる化合物との組み合わせで、リン系化合物の添加量を減らすことが可能となる。
それではリン系化合物の添加量をどの程度添加すると空気中で自己消火性となる高分子材料を設計できるのか。これは高分子の種類と難燃剤であるリン系化合物との組み合わせで変化する。
また、リン系化合物の分散状態にも依存する。高分子材料へ低分子を分散するときに低分子のSP値がそれに関係しているようなデータも得られている。
SP値が関係しているとすると、PC/ABSのようなポリマーアロイの場合の難燃性高分子の設計をどのように行うのか、という疑問がわいてくる。
SUSHIを用いてシミュレーションをしてみると、どの高分子の相に難燃剤が分散するのか、という仮説により設計方針が変わる。PC/ABSの難燃剤としてBDPが良く用いられているが、これはシミュレーションによりPC相に分散しやすい傾向が示されることから納得できる。
このような工夫や思索をあれこれしてもカオス混合を用いるとびっくりする。難燃剤の種類の差をリン原子の含有率を揃えて比較して1%前後の違いとなる現象が観察されるからで、プロセスの寄与に関心が向く。すなわち二軸混練機を用いた場合にはプロセス条件が大きくかかわる。
このような経験知を獲得すると、射出成形条件によりLOIがばらつく現象を理解できる。射出成形では、二軸混練機で不十分だった混練がわずかに進むからである。
これは、過去に東京大学生産技術研究センターの研究において、金型内の樹脂流動の可視化データを見ればわかる。ゲート部分で剪断流動が起きている。
金型の設計により伸長流動も起きる場合があり、剪断流動と伸長流動が発生すれば混練が進行することになる。高分子の難燃性を向上できる金型設計という技術特許を出願することが可能である。
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