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2014.06/09 カオス混合(3)

カオス混合では混練しようとする物質が急速に引き延ばされて、有限空間でそれがさらに可能となり続けるために細かく折りたたまれ、カオス状態になり、混練が進む。これは混練を有限空間で考えたときのカオス混合の説明である。ロール混練では、ロールに巻きついたゴムはエンドレスの状態なので無限空間という捉え方もできる。

 

例えば少量のゴムをロールに巻き付けただけでもロールでゴムに剪断力がかかれば混練は進む。この時細かく折りたたまれる現象は起きず、急速な引き延ばしだけとなる。ナイフによる返し作業が無くても混練が進むが、返し作業があれば、より早く進む。しかし、作業のばらつきの問題を抱え込むことになる。

 

面白いのは、ロール混練における作業のばらつきに対して鈍感なゴムの配合処方があるということだ。すなわちロール混練の作業を厳しく管理しなければ混練できないゴム処方から、いい加減な作業を行っても、さらにはナイフの返し作業をサボっていても物性ばらつきの出ないゴムの処方まである。後者ばかりのゴム処方を扱っている技術者は不幸である。また前者は作業者を不幸にするが技術者を幸運にする。前者は技術者と単なる作業者を分ける踏み絵となる。

 

新入社員時代にとんでもないゴム処方の開発を担当した。ロール作業のばらつきで耐久寿命試験のデータが10時間から480時間までばらつくのである。それに対して力学物性データはそれほどのばらつきを示さない。そのためハートマークやどっきりマークだけの実験ノートでは何が何だか分からなくなる。現在のSTAP細胞のような生化学分野のテーマよりも難しい開発テーマだった。

 

ナイフの返し回数についてマッチの棒を置いてカウントしたり、ナイフの位置を色ビニールテープで機械にマークしたりして、可能な限りの管理の工夫を行い、正確に実験ノートに記録しないと、ばらつきの小さくなる作業を見いだせなかった。

 

ゴム会社の凄いところは当時アカデミアでも持っていないような電子顕微鏡を備えていたことだ。さらに、その顕微鏡を操作する技術者のスキルも高く、実験ノートに書かれたデータから問題となったゴムの配合処方をすぐに可視化データにできた。樹脂補強ゴムでは、樹脂の分散状態がゴムの耐久性に影響を与えており、そしてその分散状態はロール作業のばらつきの影響を受けていた。

 

 

カテゴリー : 連載 高分子

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