2014.06/22 カオス混合(12)
頭の中にカオス混合を実現できる機能とその装置の構造が浮かんでいても、それを実証できる設備が無かった。本当は東工大の実験装置を借りて実験を行いたかったのだが、6ナイロンでは透明になりません、といわれたので頼みにくくなった。
豊川へ単身赴任してから、毎日カオス混合を実現できる実験装置のことばかり考えていた。単身赴任した同じ頃に面白い男が某ゴム会社から転職してきて部下になった。ゴムベルトの開発を担当していて面白くないから、というのが転職理由だったが、転職先でまたベルトの担当になった、と嘆いていた。面接の時に業務内容を聞かなかったのか、と尋ねたら、電子写真のキーパーツ開発だ、と言われたのでベルトではない、と期待したとのこと。
電子写真のキーパーツに中間転写ベルトがあることを知らない君が悪い、ゴムベルトではなく樹脂ベルトなので面白いぞ、と言ったら、どこが面白いのか、と興味を示してきた。例えば目の前のベルトでは6ナイロンは島になっているが、これが相溶したら面白くないか、と言ったところ、フローリー・ハギンズ理論をご存じですか?と科学的では無いことを言っている上司を疑い、さらに不安そうに仕事のことを尋ねてきた。
単身赴任するにあたり、高分子材料のわかる若手を1名確保するように人事に頼んでおいたが、結構期待できる人材を確保してくれた、とこの時感じた。写真会社では上位に入るぐらいの高分子の潜在能力はありそうである。自分の知識で上司の力量を測り、科学的ではない会話で不安になってきたのだろう。冗談ついでに、目の前のベルトのTg評価を行うと、コンパウンドよりも下がっているぞ、と話したら、楽しそうに、計ってみましょうか、と答えてきた。
翌日の朝、机の上にDSCのチャートが載せられており、!マークが2つも書かれていた。定時後、自発的に現場でサンプリングし、冗談で話した実験を実行したことが,そのマークの力強さから伝わってきた。そして驚くような結果だったのでチャートを上司の机の上に置いて帰宅したのだ。
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