2014.09/08 防振ゴム(3)否定証明
有機高分子と無機高分子を均一に混合する技術を検討していたので、界面活性剤のキットを常に揃えていた。增粘した電気粘性流体の中にその界面活性剤を一滴ずつ添加した20組以上のサンプルを一昼夜放置しただけで結果が出た。
ある界面活性剤を添加したサンプルの粘度が下がっていたのだ。その界面活性剤と類似した構造の活性剤をいくつか取り寄せ検討したところ、增粘を起こさない界面活性剤を見つけることができた。ただしこの界面活性剤は界面活性剤というカテゴリーで販売されていない添加剤であった。
しかしこの添加剤の構造には親水性セグメントと親油性セグメントが存在したので界面活性剤と分類してもよい。界面活性剤で增粘を防ぐことができるとプロジェクトリーダーに報告したら頭ごなしに否定された。そして一年間の検討成果を丁寧に説明され、検討してもムダと言われた。
もの凄い人だと思った。目の前に問題解決ができている状態のサンプルを見せて説明しているのに、そのサンプルはやがてまた增粘すると理路整然と説明されたのである。状況を担当部長に相談したら、模擬耐久試験をすぐにやろうということになり、担当部長の指導で耐久試験をやることになった。
ある構造の界面活性剤が添加された電気粘性流体が3ケ月間の耐久試験でも增粘しないという結果が出てきて技術として使えることをプロジェクトメンバーに認めてもらえた。但し、增粘を防止している添加剤は界面活性剤ではなく第三成分と名付けられた。当方は3ケ月の耐久試験を行わなくても技術的イメージから使えることが分かっていたが周囲の視線を気にしながらも快く耐久試験を行った。
技術的に可能性あるシーズを科学的観点から懐疑的に見たり、あるいは科学的論理で否定したりすることが何故起きるのか。これは義務教育時代から学んでいる科学的姿勢が大きく影響していると懸念している。イムレラカトシュはその著書「方法の擁護」の中で科学的に完璧に証明できるのは否定証明だけである、と指摘している。さらに「できない」ということを科学的に証明するのは簡単であるけれど、否定証明された事実と反する実験結果がでてきたなら、真摯に新たな仮説で証明をやり直さなければならない、とも述べている。
これは当たり前のことであるが、ものすごく大切な指摘である。これはまた科学のカテゴリーの中で技術を構築することは簡単だが、科学的ではない技術を創り出すことは難しい、とも言っているのと同じである。しかし冷静に考えて頂ければ、科学の無い時代にも技術は生まれ発展してきたのである。科学でサポートされた技術だけで世の中が動いているわけではない。
否定証明を得意とする人は知らず知らずのうちに新しいアイデアの芽を摘んでいることに気がついていない。科学を尊重することは大切である。しかし、科学に支配されその奴隷になってしまうと科学で解明されていない新しい技術を生みだすことが難しくなる。この問題については「未来技術研究部( www.miragiken.com )」で少し説明しています。
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