活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2014.09/15 技術者教育(1)

転職して最初に出した成果は、透明金属酸化物を用いたフィルム用帯電防止層である。この技術はその写真会社の基盤技術であったが、社内の誰もその技術を知らないだけでなく、その分野においてライバル企業に1000報以上も特許出願されていた。

 

その膨大な量の特許を整理していて昭和35年に公告となっていた特公昭35-6616という特許を見つけた。透明金属酸化物を帯電防止層に用いた世界初の特許で、その特許が出願された後、ライバル企業2社から同様の特許が大量に出願されていた。特公昭35-6616という優れた特許が自社の特許であるということやその存在が社内で忘れ去られるような状況は、技術の伝承がうまく行われていないということだ。

 

当方の最初の成果は、この特許を軸に技術を再構築し、特許に抵触しない帯電防止層を金属酸化物を用いて設計した仕事である。しかし、この技術を開発しているさなかにリストラされ、転職したときの開発部門は無くなった。過去にもこのようなことがあり、その結果大切な技術が消えていったのだろう。

 

開発部門は無くなったが、一担当者としぶとく開発を続けこの技術を印刷感材の新製品に実用化することができた。優れた帯電防止層のおかげ(注)で、その商品は印刷学会から賞を頂けたが、帯電防止層をいっしょに担当した部下や当方はその賞に名前を連ねることができなかった。

 

社内で評価されなかったので、日本化学工業協会へ推薦書を提出し部下とともに技術特別賞を受賞した。デジタル化の波が押し寄せてきたときで、この技術は熱現像医用感材にも必要な帯電防止層として用途が広がっていったが、当方は二回目のリストラを受け、それまで倉庫として使われていた部屋へ、いわゆる世間で言われている「座敷牢」へ入れられた。

 

理由は分からなかった。ただ心当たりは、帯電防止層を担当した部下の育成のために学位取得を勧めたり、その会社では行われていなかったスタイルの技術マネジメントなどが批判されたのではないかと反省している。帯電防止層以外にも多数成果を出していたが、リストラされる時代である。技術者教育など不要という経営者もいるかもしれないが、厳しい時代だからこそメーカーは技術者を育てる努力を惜しんではいけない、と訴えたい。

 

(注)印刷の校正刷り用感材で、重ね合わせて使用するために現像処理後も帯電防止性能が残っている永久帯電防止層が不可欠である。すなわち透明金属酸化物の帯電防止層はこの商品の重要な機能の一つであった。

 

カテゴリー : 一般

pagetop