2014.09/23 高分子の難燃化技術(7)
リン系難燃剤の難燃化機構は、教科書にポリリン酸が生成して脱水素反応の触媒になり、チャー生成を促進すると書かれている。しかし、これは半分ウソである。なぜなら、リン酸エステル系難燃剤を用いた場合には、チャーにリンを含む化合物がほとんど残っていないのである。
ポリウレタンの難燃化に様々なリン酸エステルを試してみたが、燃焼後のチャー面について赤外分光法で分析してみると吸収が何も観察されない。250℃まで加熱処理したTGAのセルの中に残っている残渣にはPOの吸収始めリン系化合物の吸収が観察されるので、250℃から600℃に至るまでに揮発している可能性がある。
リン酸エステル系難燃剤のTGA曲線では、難燃剤の種類により600℃における残渣量が異なる。しかし、セルに残った物質をIR分析してもリンの化合物に由来する吸収は観察されない(1981年の研究結果)。
おそらくオルソリン酸が生成して270℃近辺で揮発している可能性が高い。すなわちリン酸エステル系難燃剤を用いた場合に、高温度で生成した化合物の触媒作用によりチャー生成が促進される、という説明は怪しい。
おそらく大半は気相で空気を遮断し、炭化促進している可能性が高い。アラパホメーターと呼ばれる燃焼試験器でススの量を測定したところ、ホスファゼンを用いた場合にはススはほとんど生成していないのに、リン酸エステル系難燃剤では、大量にススが発生していた(1981年の研究結果)。
最近のイントメッセント系と呼ばれる難燃剤について評価していないので推定になるが、おそらくホスファゼンと同様の結果になるのではないだろうか。
ホスファゼンの熱重量分析では600℃でも大量の残差があり、その残差についてIR分析を行うとP=Nはじめ様々な吸収が現れる。すなわちホスファゼンの高い難燃性と煤発生が少ない理由は、燃焼している高分子内部でチャー生成を促進しているためと推定される。
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