2014.11/28 問題解決プロセスの事例(2)
靱性の向上手段としてコアシェルラテックスが科学的に考え出されたのだから、それを開発することこそ近道、という考え方が当時主流を占めていた。これは一つの戦術であって他の戦術も検討すべきだ、といっても言葉の遊びとして片付けられた。
担当者を集めて戦略から再検討させてみた。目標仮説は、シリカが凝集すること無く分散し、ラテックスも同様に分散している構造を有するゼラチンが高靱性になる、ということで一致した。しかし、その実現方法となるとコアシェルラテックス以外アイデアが出てこない。
ホワイトボードに目標仮説の図を書いてみた。担当者の一人がコアシェルラテックスの合成に失敗したときに、そのイメージどおりのものができている可能性があると発言した。さっそくその実験を再現し、そこへゼラチンを添加して薄膜を作製してみた。すると驚くべきことにコアシェルラテックスで補強したゼラチンよりも靱性が高いゼラチン膜ができた。
実際にはコーチングプロセスにもう少し時間をかけたが概要は上記であった。高靱性ゼラチン膜ができたとき、皆半信半疑だった。当方は可能性を信じていたのでコーチングで担当者を成功へ導くことができた。
コロイド科学の観点から否定される図を書いたところ、それに触発されて実験の失敗例を思い出し、それを追試したところゴールにたどり着いたのである。この問題解決プロセスは科学的ではない。
さらに、ホワイトボードに書かれたシリカとラテックスが凝集しないで分散している状態は、ゼータ電位の不安定性を考えると、科学的にナンセンスな図である。しかし、この科学的にナンセンスな図が、科学的に取り組んでいては絶対に発想できない新しいアイデアを生みだし開発を成功に導いたのである。
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