活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2014.12/30 学ぶ(2)

高純度SiCの発明や、カーボンだけでSiCを焼結する技術以外に、教科書に書かれていない、いわゆる定説からはずれた現象を大小幾つも経験をした。その中で大きなものと思っているのは、PPSと6ナイロンの相溶現象であり、某大学の先生から推薦された学会賞の審査の席で本当か、と言われた。

 

推薦してくださった先生にはご迷惑をおかけし退職直前で学会賞を取り損ねたが、製品が市場に出てすでに6年以上になる。学会賞は落ちても生産量は増加している。PPSと6ナイロンの相溶はフローリーハギンズの理論に反する現象であるが、技術として完成しカラー複写機の中間転写ベルトとして機能を発揮している。

 

この技術は左遷された5年間に温めていたアイデアを実行して完成させたものである。サラリーマンの左遷は暗い出来事として捉えがちであるが、学ぶための自由な時間ができる大切な時期でもある。定年を前にじたばたしても仕方がないし、早期退職を決意すれば怖いものは何もない。

 

腹をくくれば、人生の中で最も幸せに学べる機会となる。少なくとも退職までは給料ももらえるのである。給料をもらい学べる時間を多くとれる機会は、選抜された留学のチャンスか左遷され閑職となった時ぐらいしかない。

 

周囲から期待されず会社に貢献する大きな成果を出すと、様々な人間模様を観察でき楽しいものである。高純度SiCの成果もきっかけは、ゴム会社設立50周年記念で募集のあった論文コンテストで落選したことだ。論文にはゴム会社の基盤技術である高分子を前駆体として用いてセラミックス事業に進出することを書いた。

 

社長の全社方針としてファインセラミックスと電池、メカトロニクスが掲げられながら、その方針に最も忠実で実現可能性の高かった作品が落選したことを祝ってくれた友人が当方の気持ちを最も よく理解してくれていた。

 

その友人はコンテスト投稿前に当方の論文を一読し、この内容ではこのゴム会社で絶対に受けないし今回佳作にもならない、自分が見本を書いてやる、といって投稿し最優秀賞を受賞した友人である。

 

落選したことは悔しかったが、これがきっかけとなりセラミックスを学ぶ意欲は高くなった。この悔しさ以外にも様々な悔しさが重なり、それらがエネルギーとなって高純度SiCの技術を開発できた。挫折はそれを力不足ゆえに”学ぶ”機会として捉えることが大切で、真摯に努力を重ねれば必ずその成果はでる。社長から気合い一発の2憶4千万円を先行投資として受けた経験からそう信じている。

 

会社を起業して3年以上過ぎ、来年度末には5周年記念事業でもしたいと頑張っている。サラリーマン時代よりも挫折する機会は多く、学んだ項目の密度は若い時よりも高いような気がしている。ドラッカーはもう古い、と言われているが、経営者の道徳という観点では不変で、再度読み直している。

 

 

 

カテゴリー : 一般 連載

pagetop