2015.02/25 イノベーション(16)戦略2と3のまとめ
製品に何か不具合はあるが、その不具合がスペック上問題がないと、そのまま製品化する場合がある。例えばユーザーに影響のない工程上の問題があっても事業機会を優先し製品化したり、製品の価格から判断し、ユーザーが問題にしない性能が他社よりも劣っていた場合などである。
このような場合に良心的な企業は製品の手直しを開発テーマに上げたりする。そして怪しい部品や部材、素材を変更してその不具合を解消しようとする。この時改良技術がすぐに見つかればよいが、大抵の場合にすぐに見つからない。
あるいは開発過程で採用した技術が他の技術と交互作用を引き起こし、代替技術を探さなければいけない場合に、その技術の目先の機能に目を奪われた探索をしたりする。戦略2(オブジェクトの隠れた機能を探し出す。)や戦略3(オブジェクトの特徴となっている機能を無くしてみる。構造は残す。)はこのような場合に効果を発揮する。
科学的視点に頼れば頼るほど、技術の副作用や隠れた機能に着眼しないものである。理解しているつもりでも技術が組み合わさった時に生じる機能に気がつかない。科学的方法の盲点である。技術者は経験的にこのような問題を学んでゆくが、科学者は論理的に考えようとして、新たな技術や方法を探そうとする。その結果、科学的に解明されていない現象について見落としたりする。
技術者は技術の副作用を幾度も経験した結果、戦略2や戦略3をとるようになる。戦略2や3はある意味試行錯誤で問題解決しようという泥臭い方法となる場合が多い。脱Hの技術では、下引層の上層に来る乳剤の種類により物質Hの添加量が変化していることに気が付いたのが発端である。
思い切って物質Hを取り除き、膜厚を0.05μm刻みで変化させて接着力を調べてみたら、ある膜厚で接着力が極大をとることを発見した。そして物質Hが可塑剤として作用しているのではないかという疑いを持った。また物質Hは3官能の物質として重合する可能性も考えられた。そこで物質Hだけを反応させた物質を添加してみたところ、それでも接着力が向上したのだ。
これらの発想は科学的に見えるかもしれないけれど、物質Hに関する科学的に書かれた報告書にはまったく書かれていなかった事項である。また、物質Hについては、教科書を見ても接着力を増加させる機能が書かれている。教科書を見ているだけでは解けない問題だった。
実務には教科書の内容だけでは解けない問題が結構多いだけでなく、教科書に書かれた内容のために間違った判断につながったりすることがある。一部の人は教科書に嘘が書いてある、といったりしているが、教科書には嘘が書いてあるのではなく、科学的記述がされているだけなのだ。自分で実験を行い現象をよく観察する習慣が重要である。
最初の手掛かりは、戦略2の方針で、泥臭い作業である膜厚を変える試行錯誤の実験から得られた。そして戦略3の方針で物質Hだけを反応させて(すなわち失活させて)ポリマーアロイ下引きのヒントを見いだした。
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