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2012.10/12 熱分解

高分子の難燃化技術から、高純度SiCの新しい合成プロセスが生まれましたが、両者の技術的な共通点は、物質の熱分解反応をどのように制御してゆくのか、という点です。科学的には、現在でも完全に解明されていない現象です。例えば燃焼時に高分子の熱分解をどのように制御するのか、と科学的に考えようとしても、考えなければいけない不確定要因が多く、完璧な議論が難しいためです。通常のリン酸エステル系難燃剤を用いた場合に、燃焼後の残渣にリン酸がほとんど残っていなくても、リン酸のユニットが高分子の炭化促進に機能している、という仮説が信じられているのは、リン酸エステル系難燃剤を用いたときに炭化物の生成が多いことと、縮合リン酸の触媒機能から推定される反応機構が知られているからです。

 

しかし、シリカ還元法、すなわち炭素とシリカの混合物を1600℃以上に加熱して生じる熱分解については、かなり科学的に解明されており、高分子前駆体法が登場するまでは、気相と固相の両方の反応で熱分解が進行しSiC化の反応が起きている、というのが定説でした。そして気相反応でSiC化が進行した場合には、低温度領域が存在すると、SiCウィスカーが生成する現象まで解明されていました。この科学的成果から、SiCウィスカーを選択的に合成できる技術も当時はできつつありました。すなわちシリカ還元法における熱分解反応について、気相を経由する反応の利用は、科学的な情報から技術開発できる段階にありました。しかし、シリカと炭素を化学量論比で反応させたときに気相反応を抑制できる技術は無く、炭素を大過剰に用いてSiOガスを反応系外に出さないようにする工夫以外に方法はありませんでした。

 

シリカ還元法について固相反応だけで進行する系が見つかっていなかったためですが、高分子前駆体法は、その唯一の系を提供できたわけです。これは、高分子前駆体法で合成される、シリカと炭素の混合物が原子レベルで均一に混合されているため、と電子顕微鏡写真から推定しましたが、実際に超高温熱天秤でSiC化の反応をモニターしますと化学反応式通りのプロファイルが得られますので、この仮説は正しいと思っています。

 

高温度における物質の熱分解は、分子の活性が高いために副反応が多くなり解析が難しくなります。しかし、系の純度が上がり均一になるだけで副反応が無くなる熱分解に接したときに、有機合成反応を研究していたころを思い出し、化学反応における系の純度と均一さの重要性を再認識いたしました。

 

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カテゴリー : 高分子

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