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2015.04/15 科学の重要性(2)

科学は知識を伝承する方法として最適な哲学である。様々な知識が生まれても、それが科学的に体系化されないならば、次の世代への伝承は難しくなる。特公昭35-6616という帯電防止技術の特許があった。パーコレーション転移について科学的に解明されていない時代の酸化第二スズ超微粒子を用いたフィルムの帯電防止技術に関する特許である。

 

不純物を全く含まない酸化第二スズの単結晶が絶縁体である、と科学的に証明されたのはセラミックスフィーバーのさなかであり、ITOやATOの導電性発現機構もその真理を基に、その時初めて理論的に解明された(注)。ゆえにそれ以前の時代には、特公昭35-6616実施例を追試して導電性が発現しなかった時に、この特許に書かれた技術が疑われたりした。

 

理由は不明だが、この特許を補強する出願は、この出願人企業から約30年経過し、当方が転職して気がつくまでされていなかった。ライバル企業からは、技術を実現するためには酸化第二スズが結晶性でなければならないとする特許出願が大量に行われ、酸化第二スズを用いた技術はこの企業が独占している状態となっていた。科学的にその導電機構が不明であったために、この企業の多くの特許は成立した。

 

先に述べたように高純度結晶性酸化スズは絶縁性であり、導電性を出すためにはインジウムやアンチモンのような不純物を加える必要があった。これが現代の科学で解明されている酸化第二スズの導電性に関する科学的知識である。この科学の知識以外にパーコレーション転移という現象に関する科学的知見が加わるとライバル企業の技術を簡単にリベールできるが、特公昭35-6616の技術はそれだけの知見があっても容易にリベールできない。

 

この特許では非晶質の酸化第二スズを用いており、その導電機構は、21世紀になっても未だ科学的に解明されていないからだ。次の世代に技術を伝承するために某大学にお願いし、導電性の測定を依頼したところ、不安定な導電性準位の存在が見つかった。しかしその科学的記述は非晶質という状態の科学が遅れているために不可能だった。しかし、技術者の心眼には、その機構がはっきりと見えており、科学的ではないがその繰り返し再現性を高くできる技術を開発することができ、数100Ωcm程度の導電性を発現できる高純度非晶質酸化スズを開発できた。そして特公昭35-6616の帯電防止技術は実用化された(注2)。

 

もし科学で解明されていたならば簡潔に記述できるはずの手順が、報告書では写真や図などの視覚までも活用した現物説明になっている。科学で解明されていない場合には、どこまで客観的に現象を伝えることができるのか、その配慮が重要になってくる。技術伝承のために科学の進歩は重要である。

 

(注)不純物ドープによる複合酸化物の導電性に関する研究は30年以上前から行われていた。しかしその中身は科学と技術の混在した状態で、論理の脆弱性を補強する論文が多数出ていた。例えばITOやATOについて、その導電性が高いことは古くから知られていたが、高純度酸化スズ単結晶の電気特性が科学的に解明されたのは20世紀末になってからである。しかし透明導電体の技術は、科学として完成していなくても進歩していた。

 

(注2)日本化学工業協会から技術特別賞を受賞している。ただし科学の成果ではなく技術の成果である。

カテゴリー : 一般

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