2015.07/09 シリコーンゴム(2)
(昨日からの続き)シリコーンLIMSを使用した定着ローラで品質問題が発生した。問題を解析するには一つの真理が保証される科学的方法が便利である。そこで科学的に原因を推定すると可能性のある3つの原因が考えられた。真理は一つなので、発生している問題の現象を科学的に解析するとこの3つ以外に無い、と考えたが、定着ローラを製造している会社の技術者から、この3つの原因を否定された。製造現場で技術的に何か複雑な現象があるのかもしれないと推定した。そこで、急遽現場を見るために単身赴任してすぐに福建へゆくことになった。
福建の工場の現場で新たな発見があった。定着ローラメーカーの技術者がシリコーンLIMSと言う材料を単なる経験だけでとらえており、過去に問題が無かったので今も問題が無い、と経験主義の技術者がよく陥る誤りを犯していた。
加硫工程のトンネル炉の中を覗いたところ、空気のゆらぎがおかしい。温度が均一ならば対流は簡単な目視で観察されないはずだが、空気層に明確な境界が存在するかのようなゆらぎが観察された。あきらかに下側数cmの領域の温度が低い!と直感で思いつき、トンネル炉の出口に指を突っ込んでみた。
180℃に設定されている、と聞いていたが熱くない。おそるおそる指を高い位置に移動してみたところ、30cm程度の高さで我慢ができなくなった。コンベアベルトを触ってみたところ生暖かい。そこで思い切って腕を突っ込んだところ、現場監督者が慌てて飛んできた。
やけどはしなかった。直感が正しく、ベルトから15cm程度は生ぬるい程度である。トンネル炉内部にはファンがついており空気を攪拌しているのでそれはおかしい、と一度否定されたが、目の前でほほえみながら腕を突っ込んでいる当方を見て、それ以上の議論へ発展しなかった。
なぜだ、ということになり、現場観察を行ったところ、エアコンの風向きが怪しい、と言うことになった。エアコンはその年の始めから設置されていたらしい。反対側にあるトンネル炉の入り口のコンベアベルトは、きわめて冷たかった。
トンネル炉内部の温度分布が不均一のため、定着ローラの端部において加硫不足が起きる現象を考慮しなければいけない。加硫不足は科学的に推定していた原因の一つだったが、技術者の経験では起こり得ない現象だった。エアコンが技術者の経験を狂わせていたのだ。定着ローラの品質故障が必ず端部で起きているという市場の問題と一致し、さらに故障した端部が濡れたようになっている現象を裏付ける大発見である。
科学で真理は一つだが、その真理を技術者の経験から否定したくなる場合がある。その時は現場で、科学の真理を頼りにその原因を探ると早く見つけることが可能となる。データとともに確定している科学の真理は揺るぎない。トンネル炉を覗いたら技術者の経験のように空気が揺らいでいた。