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2015.08/18 技術を重視した開発

科学は形式知として重要である。しかし、自然現象のすべてを形式知で理解できるわけではない。形式知で理解できる現象は限られている。換言すれば自然現象を科学的に理解するために人間は特殊な条件を設定してそれを見ているにすぎない。
 
これを補う能力として、人間には実践知や暗黙知がある。数年前TVで紹介された映像によれば、カラスでもこれらの知能を少し持っているようだ。カラスでも持っているような「知」なので人類は皆備えているのではないか。また、学校教育を受ける前の幼児が一人遊びできるようになるのはこの知能のおかげであるとも教育番組で放映していた。
 
ところが学校教育では形式知を中心に教育が進められている。アカデミアでは形式知一辺倒である。たまたま実践知や暗黙知を活用した研究者がノーベル賞を受賞しているが、実践知や暗黙知を活用する研究者は少ないようだ。しかし、アカデミアは知を追究するところでもあるので形式知以外の知もそこで扱うべきではないか。アカデミアの役割には真理の追究以外に知の追求と言う仕事もある。
 
企業には実践知や暗黙知の重要性を技術者に指導しているところもある。一方で科学に忠実に仕事を進めることを技術マネジメント(MOT)と勘違いしている経営者もいる。当然そのような企業では事業の企画も科学の美しさに魅かれた企画が中心になる。また、科学以外を排除しようとする極端な管理職も現れる(TRIZやUSITを推進しようとするのもその一例)。
 
ところで、技術開発の使命は自然界の現象から人類に役立つ機能を取り出し、それを製品に組み込み新しい価値を市場に提供することととらえたときに、もしこれを科学の知識だけで行ったらどうなるか。
 
科学情報が普及している現代ではすぐにそのような技術はコモディティー化することが予想される。それを防ぐために特許があるが、保護されるのは高々20年間である。20年後には形式知だけで組み上げられた技術は公知の科学的情報により容易にリベールされ、どこでもだれでも活用できるようになる。
 
自然界には,今でも科学で理解されていない現象が存在(注)している。それらの中には永遠に科学で理解できない現象もあるかもしれない。科学だけに頼っていては、それで理解できない現象を機能として利用できないだろう。
 
一方で、人類には実践知と暗黙知を蓄積できる能力があり、科学誕生以前にはそれらで自然現象を理解してきた。職人は後者を熟練というプロセスで獲得した機能を安定に製品へ創り込んできた。
 
技術者にも暗黙知や実践知は重要であるが、それらをメーカーでなければ学ぶことができない。ところがそのメーカーで科学一辺倒のMOTを行ったらどうなるか。それらを学ぶ機会がなくなる。
 
補足になるが、実践知や暗黙知で問題になるのは、これらが属人的な特性である点だ。また、うまく伝承するにも時間と工夫がいる。一つの工夫として形式知である科学を「利用」する方法がある。詳しくは弊社へ問い合わせていただきたい。
 
(注)PPSと6ナイロンが相溶する現象は、プロセスを工夫すると起こすことができる。通常科学的にはコンパチビライザーを用いる。これを用いていない、PPSと6ナイロン、カーボンという単純な三元系で製造されている中間転写ベルトが約10年近く市場で使われている。この技術のリベールは特許を取り寄せても難しいと思っている。

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