活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2015.09/10 イノベーション(3)

I総合研究官からチャンスを頂いたので、人事部長との面談後、プリカーサー法による高純度SiCの合成実験に着手した。そして実験を開始して4日目にはI総合研究官が驚かれるような真っ黄色のSiC粉体が得られた。このあたりの詳細は以前の活動報告を読んでいただきたい。
 
当時高純度SiCは2-3回昇華法を繰り返さなければ得られない高価な材料だった。それが1kgあたり500円以下のフェノール樹脂と1000円以下のエチルシリケートから合成されたのである。STAP細胞に近い騒ぎになるところだったが、I総合研究官は冷静に特許をまず書くように指示された。
 
当方は、すぐにゴム会社の人事部長に実験の成功と特許を無機材質研究所で書くことをお話しした。人事部長は研究所にも連絡するように指示された。当方はその後研究所へ同様の連絡をして基本特許を無機材質研究で出願する許可を得た。許可は簡単に下りた。そして、がんばって2件でも3件でも書いてこい、と励まされた。
 
ブリヂストンの状況を総合研究官にお話ししたところ、特許出願後この研究を進めるためのプロジェクト計画を文部省で進めることになった。この計画はゴム会社にも伝わったが、研究所は動かなかった。しかし、本社で動きがあり、一時期頻繁に本社から当方へ電話がかかってきた。また、業界新聞やヘッドハンティングの会社からも自宅に電話がかかるようになり、周囲が騒がしくなった。
 
翌年初めに本社から呼び出しがかかり、社長へのプレゼンテーション資料作成のために一日本社に缶詰状態にされた。現在のような便利なプレゼンソフトが無かったので、手書きと切り貼りで、できあがった時には夜の八時を回っていた。翌日午前中に練習があり、午後社長の前で10分間のプレゼンを行った。プレゼンが終わったところで、社長からいきなり、いくらいる、と聞かれた。
 
当初質問の意味が分からなかった。事業計画における予算についてはプレゼン資料に書いていた。「今いくらいるのだ」と社長はさらに問いを具体的にされた。当方はプレゼンがうまく言ったと思い、Vサインを人事部長に送った。
 
すると社長は2億円か、と言われた。事業計画から2億円は少ないと感じられた人事部長は、もっと上だ、と合図を送ってきたので、Vサインをやめて、あやふやな手の形になったところで、2億4千万円で決めた、と社長がすぐに用意していた決裁書に数字を書き込み当方に渡された。この時高純度SiCの事業がスタートした。
 
 

カテゴリー : 一般

pagetop