活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2015.09/13 イノベーション(6)

ゴム会社で本業とはかけ離れたセラミックス分野の高純度SiCの事業を立ち上げた。それが先行投資を受けてから30年近く続いている。写真会社ではカオス混合によるコンパウンド工場を立ち上げた。これは子会社のちょっとした新事業である。その後この事業は神戸と静岡の二カ所でコンパウンドを生産するまでになったと風の便りで聞いている。
 
いずれの成果についてもイノベーターに何が報われたのか。会社を訴えて多額の特許報償を獲得したブルーレイの例は極めて希で、企業内イノベーションでは、大きく報われないケースもある。しかし、イノベーションを起こさなければ経験しなかったであろう、高純度SiCの学会賞の推薦書が当方に回ってきたような出来事はじめここでは書きにくい面白い体験を多数している。
 
高純度SiCの事業化を推進しているときに、転職することなど考えてもいなかったが、転職しなければ事業化がうまくゆかない状況になった。一方、カオス混合技術のプラントについては、当初外部のコンパウンダーに立ち上げていただく予定でいたが、「素人はダマットレ」という暴言の前に、ミッション遂行が絶望的になり、責任をとる覚悟でプラントを立ち上げた。
 
いずれもサラリーマンとして無理をしなければ、それなりの結果になっていた仕事である。おそらく後者では高級機の中間転写ベルトを熱可塑性樹脂で製造することは不可能という結果を導き出し、プロジェクト失敗の責任をとってリーダーから改めて窓際へ移り、穏やかに退職(注)できただろうと思っている。成功して早期退職を選ぶよりも平穏なサラリーマン生活として、よかったかもしれない。
 
サラリーマンであるイノベーターが報われない風土では、次第に考え方が保守的になってゆく。さらにはシャープで希望退職者の目標を達成できなかったように、会社にぶら下がろうとする社員も増えてくる。
 
しかし、イノベーションに失敗しても命がなくなるわけではない。どうせ会社にぶら下がるならば、自分の意志を通してぶら下がっていた方が良い。日本の会社ではイノベーションの成功者よりも失敗者を大切にする傾向があることを知っておくとよい。東芝では元副社長は顧問として厚遇されている、と新聞に報じられた。
 
また、写真会社ではかつて磁気テープ事業に大失敗しているが、そのプロジェクトに関わった方たちから役員が複数誕生しているし、ゴム会社ではさすがに会社に赤字をもたらした人が役員になることはないが、ここでは書きにくい人が65歳まで大切にフェローとして雇用された。
 
異なる風土の会社に勤めて見えてきたのは、日本企業において企業内イノベーションというものは、その気になれば失敗を恐れず積極的に行ったほうがよい風土ということだ。成功しても報われる保証はないが、失敗してもうまく立ち回ればそれなりに会社は面倒を見てくれる。
 
ただ成功しても報われない、という負の見方もあるのでイノベーションが起きにくいのかもしれない。仮に報われないとしても、リスクの無い状態で、大きな仕事ができるという魅力が企業内イノベーションにある。
 
無理をしないサラリーマンの生き方が時代の流れかもしれないが、生きている実感を味わえる無理もたまには楽しい。ドラッカーの遺作にもあるように、歴史が見たことのない未来が始まり、ますますイノベーションが求められている。40年弱(当方は早期退職したので32年)のサラリーマン生活である。その中の5年間くらいは無茶をしても大丈夫なので日本のサラリーマンはイノベーションを起こす努力をして欲しい。弊社では個人の相談者も受け付けております。
 
(注)当方は、失敗しておれば定年まで会社で過ごし退職日も変わっていたはずだが、役員から勧められて早期退職を選び2011年3月11日が最終出社日となった。その結果、最終講演も送別会も無くなり1晩会社へ宿泊させていただくことになった。退職のためパソコンもすべて整理し、何もすることのない事務所で一人一晩過ごしてみると、ドラッカーの提言が今でも重要な示唆に富んだ遺言であると気づき、誠実に真摯に仕事をした満足なサラリーマン生活だった、と思えるようになった。

カテゴリー : 一般

pagetop