2015.09/21 研究開発で生まれた知
40年前の基礎研究所ブームの時代に比較すると研究開発の方法は大きく変わってきた。故ドラッカーが提案していたオープンイノベーションもブームのようである。今更ステージゲート法を導入しようとしている企業もあるが、効率的な研究開発方法を追究する努力はいつの時代でも求められており、研究だから失敗しても良い、という経営者は、さすがにもう少なくなった。
高純度SiCの事業化で苦しんでいた時に、研究所のテーマだからやめる決断も重要だ、とテーマ中止を勧誘してきた管理職がいた。その管理職は、日本化学会賞を受賞するや否や電池事業をやめてしまった。鮮やかだ、という人もいたが、当方はその「撤退」に賛成できなかった。経営者や他の担当者を欺くような撤退だった。
当方の経験談になるが、ポリウレタンの難燃化テーマで新入社員の始末書問題になったホスファゼン技術は、技術シーズとして大切に継続検討し、電気粘性流体のオイルや電解質の難燃剤として展開された。この経験から細々とでも継続する工夫は、やめる決断よりも難しいが重要なことだと思っている。
研究開発で得られた形式知は、特許や論文などで表現され容易に伝承可能であるが、経験知や暗黙知は属人的あるいは属モノ的になり、その伝承に工夫が必要となる。研究開発をやめたあとに何を残し大切に伝承してゆくのかと言う議論は、このためさらに重要だと思う。事業はやめてしまっても、研究開発で生まれた知はその企業の資産として大切に伝承しておくと、新たなテーマを扱う時に独自の技術展開や問題解決が容易になったりする。
例えば、科学的に解決できないと一度証明された電気粘性流体の増粘の問題も経験知のおかげで一週間でソリューションが見つかったが、この時には解決ができないと結論が出されたところで、当方をこの問題解決に推薦した管理職がおられた。この方は立派な方で研究所のメンバーひとりひとりのキャリアーをよく御存じだった。すなわち独自の経験知に関するデータベースを持っていたのである。
弊社では研究開発で生まれた知の扱いについても32年間のノウハウを整理しており、生み出された知の伝承による研究開発の効率向上について取り組んでいる。研究開発は予期せぬ要因で中断しなければならないことが起きるものである。研究開発の効率を上げる方法として、そこで生まれた知を整理し伝承する努力は研究開発の効率向上に寄与すると弊社では考えている。
故ドラッカーは予期せぬところで発展した技術を適用しイノベーションが起きたことに注目するように述べていたが、失敗したテーマの知が予期せぬ分野の技術ソリューションになることもある。自社で生まれた知が他社でイノベーションを起こす事例に感心していてもしょうがない。大切に伝承する努力をしよう。
カテゴリー : 一般
pagetop