2015.11/19 酸化スズと技術者(1)
酸化スズは金属酸化物であり、その高純度結晶は絶縁体である。酸化スズが絶縁体であるらしいことは、昔からわかっていたが、それが科学的に証明されたのは1980年代になってからである。
また酸化スズは、ガラス構造をとらない。すなわち結晶とガラス構造では無い非晶の二つの構造だけである。高純度結晶は絶縁体だが、非晶になると電気を通すようになる。
また、金属酸化物半導体なので、InやSbをドープすると導電体になる。だから液晶などのディスプレーの透明電極としてITOが実用化されている。今では常識であるが、ITOが良導電体であることは、大変なことなのである。
昭和35年に公開された、特公昭35-6616には、非晶質酸化スズを透明導電体として実用化した技術が書かれている。そこには湿度依存性が無いので電子伝導性であることまで確認したデータが記載されている。
この昭和35年頃というのはITOの研究が活発に行われていた頃で、その十年後には透明導電フィルムやNESAガラスなども登場している。しかし、科学的にその導電機構が明らかにされていたわけではない。
正孔や電子を用いた導電性の仮説による説明は教科書に書かれていた(注)が、肝心な酸化第二スズの特性が良く理解されていなかったからだ。高純度の酸化第二スズ単結晶が絶縁体であることは、先に書いたように1980年代に無機材質研究所で証明された成果である。
しかし、それまで、科学的証明が不完全な材料にもかかわらず実用化が先行していた。すなわち、技術が科学よりも先行していたのだ。だからこの期間におかしな特許が、某写真会社からたくさん出ている。残念だったのはその特許群にライバル写真会社の技術者たちが手も足も出ない状態だったのだ。
(注)科学で証明されていないことが、さも真実のごとく書かれていた。だから説明が分かりにくい。大学の授業では科学ではないことを科学として教えていた時代である。非晶質導電体については、ガラスの導電性が真面目に研究されていた時代である。ガラスからの結晶成長と言う研究を当時発展途上であった電子顕微鏡を活用し盛んに研究していた時代である。写真集と言ってよい論文が増産された時代だ。
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