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2016.02/10 21世紀の開発プロセス(20)

科学的に問題解決不可能という問題をどのように解いたら良いのか。ゴム会社では、二律背反の問題が好んで技術テーマとして取り上げられていた。日本では、すりあわせの技術などがTVでもてはやされたこともある。ただ、その共通点は、科学で考えると解けない問題をどのように技術で解くのか、と言うことである。
 
科学と技術は同等という考え方で支配されていた、20年以上前のゴム会社の研究所では、研究所以外の開発部隊が二律背反の問題を解決する、というプレゼンを軽蔑していた。これは、科学で解けない問題ならば、あきらめるのが最善という考え方である。
 
あきらめる、という回答が許されないとしたならば、考えられる一つの方法は、妥協である。しかし、技術が科学と異なり、現象から機能を取り出す行為であることに気がつくと、科学の知識で考えて問題が解けない、という状態は、深刻ではないのである。技術的にどうしようもない状態より、どうにかなる。技術的にどうしようもない状態は、適当な完成レベルで妥協する以外に道は無い。
 
iPS細胞のヤマナカファクターを例に、このあたりを説明すると、機能を調べるために、実験を担当した学生は、24個の遺伝子を一度に細胞へ組み込むという無茶な実験を行っている。その実験で細胞に初期化が起こり、科学的な理由は不明だが、iPS細胞という機能が見つかった。そしてこの機能を洗練されたモノにするために、さらに科学的ではない消去法で、4個のヤマナカファクターの組を見いだしている。
 
技術開発とは、まさにこの例のように実行することである。科学的な意味が無くとも目的とする機能を取り出す実験を行うことが大切である。論理的プロスではなく、ヒューリスティック(heuristic注)プロセスによる実験が重要である。技術では、仮説が真であることよりも、機能実現が重要なので、理由は不明でも機能が発現すればそれで良い。科学こそ命という人がこのようなことを聞くと鼻血を出して怒りそうだが、新しい技術の多くはそのように生まれている。
 
但し、再現性が乏しい機能は、経済的な技術に創り上げることは難しい。すなわち技術開発とはロバストを改善することだ、というのは田口先生の名言だが、機能の再現性を上げるために開発するのが技術開発で、企業では科学の研究よりもこれを優先しなければ21世紀は生き残れない。
 
(注)いつも正しい答えが得られるわけではないが、すなわち論理性は保証されていないが、ある程度のレベルで正解が得られる、と言う意味

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