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2016.05/30 科学の知識(1)

科学の知識体系は、真理が一つの前提で作られている。だから自然現象の理解を科学で行い議論し結論を導き出すことができる。ところが技術はいつでも一つの真理で成り立っているとは限らない。現象の理解は不十分であるが、技術として活用されている機能は身の回りに幾つかある。
 
例えば、ゴム会社で30年近く続いている高純度SiCの技術は、当方がスタートして以来その中心となっている前駆体について科学的解明は成功していない。たまたま展示会で前駆体を見たときに、当方が担当していたときと品質が落ちていることに気がついた。
 
すなわち展示されていた前駆体が不均一だったのである。展示説明員がいたのでそのことを指摘したら、これで問題なく生産が続いています、という。当方は有機スルフォン酸を触媒に用いていたが、SOxが問題になるということで触媒は有機カルボン酸に切り替えられた。
 
しかし、その時でも前駆体の均一性は維持されていた。その後前駆体の合成条件について改良が加えられたかどうかは聞いていないが、少なくとも展示物は、30年前のそれと少し変わっていた。
 
品質管理項目が純度だけならば前駆体が多少不均一でもポリエチルシリケートとフェノール樹脂をリアクティブブレンドする限り問題は起きない。ただし、30年ほど前シリカが析出するほど不均一にすると酸素不純物が残ってくることを確認している。
 
しかし、前駆体の反応や生成物について十分な研究ができなかったのでそのあたりの因果関係は仮説程度を報告書に書き、転職した。十分な研究ができなかった理由はフロッピーディスクをいたずらされるような研究環境もあったが、一つの真理を導く難しさだった。すなわちかなり許容範囲の広い反応だったのである。タグチメソッド風に言えばロバストの高い技術だった、となる。
 
このような技術の場合には、モデル反応をとりあげそれを科学的に解析し、結論を出す手法が用いられる。しかし当時一人で担当していたので、超高温熱天秤を開発し速度論の研究を行うのが精一杯だったのである。ゆえに前駆体炭化物のSiC化の反応については形式知としてまとめたが、前駆体合成のリアクティブブレンドについてはノウハウのままになっている。
 

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