2013.06/22 科学と技術(混練5)
無溶媒で行う混練については、そこで発生している現象について不明点が多い。混練のシミュレーション技術も進歩しつつあるが、いまだ科学的シミュレーションと言えるレベルではない。混練中の二軸混練機の中を可視化した装置を用いて研究している現場を見学しても、何をやっているのか分からない状態である。2色の樹脂が混練されて単色になってゆくのは見ればわかる。しかしそれは想像していた様子と変わらず、それ以上の情報が得られない。
想像していた様子と同じであるから価値がある、と言われてみてもスクリュー形状が変わっても大きな変化が見られない実験ではシミュレーション結果との整合性を取ることができない。ロール混練で観察される現象に比較すると、お金がかかっている実験であるにもかかわらず得られる科学的情報が少ない。
混練を科学的に研究しようとすると実際に起きている現象をモデル化するところが難しい。それでも単純な系では科学的なデータが集まりつつある。しかし、まだ技術開発に大きく貢献した、といえる事例は少ない。これが低分子溶媒を用いた高分子の混合の世界になると科学的に体系化され、技術開発に役立てることが可能である。
例えばラテックスについては、その合成から2種以上のラテックスの混合まで科学的に実験が行われ実際の現象との整合性がとれる質の高いデータが公開されている。ラテックスの合成はミセル内で行われるが、その動力学的成果は四塩化スズの加水分解でゾルが生成し沈殿する系に応用したところ技術的実験データと相関したのには驚いた。
混練の世界で科学的データが参考になり技術開発に結びついた経験は1度しか無いが、ラテックスの分野では科学的成果に助けられた。約20年前にセラミックスの研究開発をあきらめなくてはならない状況になり、転職した会社でフィルムの表面処理技術を担当したときに科学的情報の多い分野だったので助かった。専門外の人間でも一ヶ月ほど科学的情報を中心に勉強すれば、技術者として新しい成果を出せるようになるのである。
高純度SiCの開発を行っていたときには科学と技術が同時進行していたような時代であったが、ラテックスを用いたフィルムの表面処理については、科学的に質の高いデータが多くすぐに新しいアイデアを考え出せる環境だった。おかげで転職した2ケ月後には新たな企画を提案でき、20年間に200件以上の特許を書くことができた。科学の成果は普遍的真理の体系であると実感した。
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