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2023.08/22 データサイエンスの力(3)

入社時の初任給は10万円程度だった。それなのに会社の業務を行うために上司から命令されて80万円のローンを組んで独身寮にMZ80Kのシステムを揃えた。工人舎のフロッピーディスクは本体よりも高かった。


それに第二精工舎のユニハンマー方式のプリンターも高かった。インターフェースはパラレルカードを購入し自分で作る必要があった。純正品はプリンターに近い価格だった。プロッターやデジタイザーまで揃えている。


ただし、周辺機器はフロッピーディスクドライブとプリンター以外九十九電機の中古サービス品である。当時の秋葉原には、新品同様の訳あり品が店頭に並んでいた。当時のデジタル製品はパラレル接続が中心だったので、コネクターの技術資料さえあればパソコンとうまく接続できた。


しかし、会社のOA用のプログラム開発を行うために部下にローンを組ませパソコンを買わせた上司は、今ならば問題になると思っていたら、ビッグモーターでは新入社員に車一台購入させていた、という記事が目についた。ちなみに80万円でオプションがついていないカローラ1台購入できた時代に社会人になっている。


ただ、この投資は当方にデータサイエンスを教養ではなく強要する力となった。問題解決をローン期間中だけでも必死にパソコン中心に考える習慣となった。


さらにローン返却のために休日自由にできるお金など無かったので、勉強する以外に時間をつぶす方法がなかった。ビールも夜食もあり食べ放題の独身寮だったので食費を気にすることなく過ごせた。


8ビットのパソコンではあったが、多変量解析のプログラムを動かすことができた。奥野忠一の「多変量解析」を参考書として、重回帰分析と主成分分析のプログラムを開発し、さらに実験計画法も簡単にできるように直交表をいくつか打ち込んだ。


電気粘性流体の耐久性問題は、この時の8ビットコンピューターシステムが活躍した。すでに16ビットのPC9801の時代になっていたが、PC9801とはパラレルインターフェースを介し、MZ80Kがつながっていた。


LOTUS123を使い界面活性剤のデータを一覧表にして、MZ80KへCSV形式でデータ転送し、MZ80Kで主成分分析を行い、その結果をLOTUS123に送り、グラフ化した。そのグラフの結果と、一晩徹夜して実験を行った結果とが一致した。そして1か月後には某自動車会社にテスト納入可能な電気粘性流体が完成していた。


MZ80KとPC9801をつなぎ、MZ80Kで多変量解析を行っていた理由は、PC9801で動作する統計システムが未完成だったからである。LOTUS123があれば、8割ほどの業務はプログラムレスで可能だった。


2割の業務は、MZ80KかあるいはPC9801でCによるプログラムで解決していた。材料設計にコンピューターが必要なのか、と問う同僚がいたが、逆にデータ処理をどうしているか尋ねて失望していた。


2次元グラフ書いておしまい、の仕事では、アイデアの種を半分捨てているようなものだ。当方は捨てられた種を拾い集め考察することが趣味になっていた。ゆえに当時の研究所のテーマにはすべてに精通していた。


各個人が秘密主義の研究所(注)ではあったが、毎月の研究発表会の資料はシュレッダーにかけられず捨ててあった。それをもらい受け多変量解析にかけていた。


科学に固執した担当者のデータは、ある意味ご都合主義でまとめられていた。しかし、科学の視点では気がつかない相関がその中に隠れていた。データサイエンスでは、そのような相関を気づかせてくれる。


(注)高純度SiCの研究開発を続けながら、研究所内の様々なテーマを担当させられた。しかし、毎度決まったセリフは言われたことだけやればよい、で、テーマ周辺の説明は何も無しである。課内会議にも呼ばれないことがあった。会社の業務においてプロジェクト内のコミュニケーションは重要である。転職してゴム会社の研究所内の秘密主義が異常であったことを知るのだが、それでもうまくコミュニケーションできていないケースがあり、製品化直前にドタバタ劇が繰り返されていた。そもそも研究開発者にはコミュニケーションベタが多いので、マネージメントでは他の組織に比較し過剰なぐらいのコミュニケーション促進を行わなければ、技術の伝承さえもできない。写真会社では公となっている典型的な技術の伝承の失敗ケースがあり、機会があればそれをどのように回復したのか紹介したい。日本化学会で講演した内容である。MOTにおけるコミュニケーションの重要性はゴム会社で十分に学ぶことができた。組織内のコミュニケーションは現場でコミュニケーションの必要が生じない限りうまく進まない。ホンダのわいがやが話題になった時にゴム会社の研究所でも管理職が率先してその場を設けてやってはいたが、葬儀場のワイガヤ運動と揶揄した人がいた。表現が当たっていたが、そもそもテーマの奪い合いが問題とされその解決もないまま研究成果を他のグループに秘密にするマネージメントを行いながら、一方で他グループから有識者を集めてワイガヤをやっても活性化するはずがないのだ。

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