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2024.05/01 データサイエンスと私(12)

1970年代に耐熱性高分子の研究から、高分子の難燃化研究へと流れが変わった。当時耐熱性高分子の総説が発表されている。そこには、燃えない高分子を作り出すのは不可能と書かれていない。


但し、耐熱性の評価尺度をどのように決めるのか難しい点に触れられている。理由は熱天秤の評価がばらつくからだ。


高分子の難燃性についてもその評価ばらつきの問題があるが、極限酸素指数法は、再現性の高い評価法として今では認められている。


1980年代にISOが制定されているが、1970年代にスガ試験機から全自動酸素指数測定装置という怪しい評価装置が販売されて、ゴム会社の研究所に設置されていた。


多くの燃焼試験法では、試料への着火方法が問題となる。燃焼試験の経験のある方ならご存知と思うが、着火する炎の大きさやその燃料まで細かく規定されている。


この全自動極限酸素指数測定装置は、そこまでの自動化はなされていなかったが、試料への着火後の制御にはそれなりの工夫がなされていた。


ただ、この装置の欠点は、燃焼速度が速い試料の測定ができないのだ。発泡体の燃焼速度は速いので測定できずゴム会社の研究所でホコリをかぶっていた(注)のだが、それを発泡体の測定が可能なように改造した。


この装置の優れていたところは0.05%まで酸素濃度の微調整ができたことだ。ここまでの精度の装置は現在市販されていない。ガスクロマトグラフィーで酸素濃度の変動を測定し驚いた。


ところが酸素濃度の微調整ができても、極限酸素指数測定データの分散を0.1以下にすることができなかった。それでも学生時代に某女子大で使わせていただいた試験機より精度が高いと思われた。


学生時代には、0.5程度の誤差は出る、と教えられた。しかし、ゴム会社にあった自動極限酸素指数測定装置についていた流量計は、学生時代に借りた装置よりも細かいメモリがついていた。マニュアルにも0.01%の精度と書かれていた。


極限酸素指数測定について、精度の高い実験装置があったのは幸運だった。また、自動化するための各種センサーがついていたので測定環境のばらつきを小さくすることもできる。データサイエンスで解析しようと思っていたので喜んだ思い出がある。


(注)ゴム会社の研究所では残業代の申請上限は20時間まで、となっていた。しかし、その20時間の申請さえも難しい雰囲気だったので、12年間ほとんど残業申請をせず、サービス残業で時々徹夜の過重労働をしている。しかし、研究設備への投資を惜しまない体質だったようで、研究所では購入しても使われないまま廃棄される設備があった。全自動極限酸素指数測定装置も汚れは全くなく新品で2年以上放置されていた。3年間高分子の難燃化研究を担当しているが、この測定装置は研究装置の中でも一番よく使った装置である。熱天秤も使用頻度が高ったが、毎日のように使用していない。使用されていなかった装置を喜んで使っていたら、「君のために買ったのではない」と上司に叱られている。新入社員研修では、成果主義のような説明を受けていたが、成果を出したら始末書を書かせられたり、それ以外にもいろいろと注意を受けている。某建築メーカーへ供給するフェノール樹脂天井材の開発では、開発計画が1年前倒しになり、サービス残業の毎日で成果が出ても良い査定を頂けなかった。給与明細書を見れば、査定評価が分かるのである。「学会発表は君だけ優先している」と上司に言われたが、当方からお願いしたわけではない。学会発表に耐えうるデータを出していたのが当方だけだったのと上司が学会の研究会で運営委員をしていたからだろう。「科学的に実験をやれ」とよく言われたが、「どのような実験を行うのか」具体的に言われたためしはない。統計的にデータ処理したり、N数を増やしたりしていた実験をよく非科学的と言われたが、統計手法は科学的にデータ処理するときに必要である。統計手法が科学的と思われていなかった時代がある。タグチメソッドが日本で普及が始まってから30年以上経過したので品質工学を非科学的という人はいないだろうと思うが、科学とは何か、ということを充分に理解しないで技術者を指導すると喜劇が生まれる。まだこの欄で紹介していない喜劇は多い。

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