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2024.05/03 データサイエンスと私(13)

マテリアルズインフォマティクスを新帰納法と呼ぶ人がいるが、それは科学の概念を拡張している。科学とは何か。例えば、マッハ力学史には科学の定義およびそれが誕生した時代について書かれている。


イムレラカトシュは、「方法の擁護」の中で、科学の方法で完璧と呼べるのは否定証明だけ、と明確に述べている。この説に従えば、技術開発を完璧な科学の方法で行うとモノができない、となる。


ゴム会社に入社した時に、よくこのフレーズを耳にした。しかし、研究所に配属されたら、そこは異次元の科学一色の世界だった。否定証明が日常的に行われていたのだ。その結果、経営に貢献する成果が長年出ていないことが問題とされていた。


そのような部署で新入社員の研修で学んだ統計手法を用いて研究を進めていたら非科学的と言われたのである。これは、当然と言えば当然であるが、データ処理を科学的に行うためには統計手法となるのに、である。


すなわち、科学では仮説の真偽が重要であり、データのばらつきなどどうでもよいのである。部長の納得できるデータを出さないと今日は帰れない、と嘆いていた同僚がいた。


その部長は学会である理論を発表していた。そのためその理論に合うグラフを描けるデータが要求されていたのだ。ゴム物性は必ずばらつく。同僚のデータを見せていただいて、90%の信頼区間を書いたら十分にグラフの線上にそれが入っている。


しかし、それではダメだという。ズバリ線上に載った値が必要だと嘆いていた。そこで、物性測定にN数を3倍に増やし、当方に持ってきてほしい、と言って同僚の実験につきあった。


そして、各平均値がグラフの線上に載るように測定データを3点選びデータ処理を行った。同僚は無事終電車前に帰宅できて喜んでいた。


「統計でウソをつく方法」という本が出ているが、今回は嘘をついたわけではない。仮説に合うように実測データを選んだだけである。うまく仮説に合うデータが出ない時には、N数を増やすとよい。


偶然はN数が大きくなることにより、出会う可能性が高くなる。下手な鉄砲数打ちゃ当たる、という名言を活用すれば、セラミックスやゴムの物性では仮説に従うグラフを簡単に描ける。本日の内容を気持ち悪く感じた方は問い合わせていただきたい。

カテゴリー : 一般

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