2025.02/07 オブジェクト指向(9)
昨日の続きとして、電気粘性流体の研究事例をとりあげる。電気粘性流体の研究は、高純度SiCの研究と同じ頃にスタートしていた。しかし、当方が転職した1991年まで6年近く研究していてもモノとして完成していなかった。
U本部長からI本部長に代わった時に、「加硫剤も添加剤も何も入っていない電気粘性流体用高性能ゴム」という研究企画が研究所の重要テーマとなり、2年後には課長である主任研究員に昇進するかもしれない当方が担当することになった。
当方のキャリアから当方が担当しなければいけないことを理解できていた。当時アメリカのタイヤ会社を買収し、その経営建て直しのため、研究所でゴム技術を担当した人材はアメリカへ送られた。
当方も新入社員の半年間樹脂補強ゴムの研究、3年間難燃性軟質ポリウレタンの研究を行った経験があり、ゴム技術のキャリアがあったが、高純度SiC事業を始めてからはセラミックスがキャリアとなり、日本に残っていた。
「加硫剤も添加剤も何も入っていない電気粘性流体用高性能ゴム」、このようなテーマをU本部長ならば、実際に作ってどうなるか示せと言われたであろう。
当方は、このテーマを命じてきて来た主任研究員に荒唐無稽のテーマであることを伝えたところ、I本部長が認めた重要テーマだという。しかし、U本部長の時のように企画会議が設定されて決められたわけではなかった。
この主任研究員が長年研究してきて、「ゴムからのブリードアウトにより、電気粘性流体の寿命が1日と持たない、その原因は加硫剤や添加剤である。電気粘性流体にあらゆるHLB値の界面活性剤を添加しても増粘した電気粘性流体を回復できず、加硫剤も添加剤も入っていないゴムが重要な技術である、という結論に至った」という。
この主任研究員は、京大出身の博士であり、大変優秀な方であった。研究報告書もI本部長が高い評価をされて、科学的に完璧な論文と言われていた。
しかし、U本部長からご指導いただいて身についた感覚からはおかしいのである。1週間企画を練る時間を欲しい、と伝えた。U本部長時代に立ち上げた住友金属工業とのJVの仕事を抱えていた。
このJVは、U本部長印ではなく社長印で始められていた。このあたりのマネジメントは秀逸である。U本部長は、退任されるときのことを考えられて社長印とされたのであった。
その結果、住友金属工業も社長印となっており、新日鉄との合併時にはゴム会社と3社で話し合いが進められ、ゴム会社で高純度SiC半導体治工具事業を継続することになった。その時住友金属工業から3名の技術者がゴム会社へ移籍している。
転職後の話までずれてしまったが、「加硫剤も添加剤も何も入っていない電気粘性流体用高性能ゴム」のテーマ企画は、大変困った問題だった。まず、動的部品として活用する時に耐久性を満たせないことは経験知としてすぐに理解できた。
そこで、モノを示すために、耐久試験で実際に増粘した電気粘性流体を主任研究員から頂いたのだが、これが非常識な人で、廃棄処理予定だった一斗缶をそのまま持ってきた。
当方は、それを20ccの小瓶にとりわけ、そこへ手持ちの300種類ほどの界面活性剤を、1種類1滴ずつ添加し、良く振り一晩放置して観察した。同時に用いた界面活性剤についてデータサイエンスで処理して、4種類ほど増粘を回復できる可能性のある界面活性剤があることを見出した。
この時データサイエンスの処理はMZ80Kで行い、結果をパラレルインターフェースでPC9801Fに転送し、LOTUS123でグラフを書いている。なぜこのような面倒なことを行ったのか。
これは以前の活動報告を読んでいただきたいが、80万円のローンで1年間独身寮に蟄居しなければいけなかった時に、データサイエンスの環境を作り始め10年近くMZ80Kでデータサイエンスしていたからである(続く)。
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