2025.05/01 若者よ、強くなれ!
日本カーボンで入社2年目の新入社員が自殺し、労災が認定された。そして、両親が会社を訴えているという。上司のパワハラが原因で労災が認定された、と報じられており、裁判の行方を見守りたい。
日本カーボンは、その社風も含め優良企業である。ゴム会社在職中に一緒に仕事をする機会があったが、ゴム会社の研究所の雰囲気よりも良好な印象を受け、会議後年齢の近い方に羨ましい、と声がけした記憶が残っている。
ゴム会社も悪い会社ではない。創業者のレガシーが生きており、タイヤ部門は良い風土の会社である。しかし、研究所はおかしな上司が多かった。FD事件が起きたときの本部長は、3人が転職する事態になっても事実を隠蔽化した。
当時はバブル崩壊前であり、当方も高純度SiCの事業を立ち上げてから、30社以上からお声がかかるほど転職には困らなかった。当時転職した他の二人も希望通りの職種へ転職している。
ところで、当方が新入社員の時には、入社10カ月後に世界初の難燃性ポリウレタン発泡体を開発せよ、と無理難題のテーマを与えられている。
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指導社員も、係長職にあたるその上司も、さらに課長職の主任研究員もどのように調査企画するのか、指導してくれなかった。また、ポリウレタンの基本配合を事業部門の現場にヒアリングしなければいけないレベルだった。
新入社員には困難な現場技術のヒアリングでは、係長職の人物が関係する職場の調整をしている。その時、良いものができたらすぐに工場試作させてくれと、お願いしている。ただし、具体的な難燃化手法など重要な技術について具体化されていなかった。
ヒアリング後、A3用紙1枚に企画をまとめるため3人のメンバーで会議が行われた。ホワイトボードには、世界初や他社を圧倒的に凌駕する、などと景気の良い言葉が躍っている。そして10カ月後の新入社員発表会で成果発表する、などという計画が作られていった。
このままでは具体的な中身のない会議で終わりそうだったので、当方はたまりかねて、具体的にどのような方法で難燃化するのか、と質問したら、それを考えるのが当方の仕事だと言われた。
3か月前に研究所へ配属されて樹脂補強ゴムを担当した時と大きく異なっていた。その時には、すでにゴールの事例が出来上がっており、それは誰にも言ってはいけない、と言われた。
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完成している事例について、それよりも良い配合が無いか、また、耐久性の良いものができないか探索することが当方の仕事だと言われた。
この時はあまりにも仕事が詳細な部分まで具体化されており、当方は、ひたすら基本配合の1成分を変えて実験を行うだけでいいのですか、と質問している。
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指導社員は、ゴム配合は試行錯誤となり、1年後にできるかどうか分からない場合も出てくる。まず、目標となる配合を組み立ててから開発を行うと失敗しない、と当時は概念すら存在しなかったオブジェクト指向とアジャイル開発の考え方を指導してくださった。
この神様のような指導社員は、日々の指導では仏様のような人だった。そして歩く姿は、研究所員の誰もが敬意を表し道を空けたので、モーゼのようだった。しかし、40歳近くの年齢でありながら当方が初めての部下だった。
3カ月の幸せな時間はあっという間に過ぎて、グループが突然解散し、当方はとんでもない課長と上昇志向の係長、研究所一の美人で5歳年上人妻指導社員という環境へ異動となっている。
さて、抽象的な内容の議論だけで終わりかけた会議で、我慢に限界が来た当方はホスファゼン変性ポリウレタンを提案している。
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ホスファゼンについては、大塚化学はじめどこの企業も事業化していなくて、市販されていなかった。但し、ファイヤーストーン社がPNF100をジェミニに搭載したことが、かつて話題になっていたので先端材料として知られていた。
すぐに係長も指導社員も食いついてきて、当方にホスファゼンの合成ができるのかと質問してきた。当方は、修士修了後就職するまでのヒマな3週間大学に残って新規ホスファゼン3種を開発し、ショートコミュニケーションとして論文投稿した自慢話を述べている。
その直後、ホワイトボードの最上部にホスファゼン変性ポリウレタン発泡体開発プロジェクトと書かれ、1年後には工場試作する計画が立てられた。このような調子で企画会議は終わり、その後は当方に自由に仕事をして良いと言われた。
自由に仕事ができたおかげで3カ月で基本処方を完成させることができた。すると突然2か月後に工場試作すると告げられている。
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そして、工場試作に成功すると係長は特許草案作成を当方に命じ、主任研究員は誇らしげに役員へ世界初のホスファゼン技術が工場試作に成功したと発表していた。工場試作が前倒しになったのは、この主任研究員の都合だった。
ところが、その場で、ホスファゼンが世界初ならば市販されていないのではないかと質問が出たらしい。主任研究員はホスファゼンの合成ルートなど知らなかったので外部から調達すると適当なことを回答している。
世界初の化合物なら販売されていないだろうとさらに突っ込まれて、主任研究員は新入社員に始末書を書かせると回答してその場を乗り切ったようだ。同期から、役員会の様子を聞かされた時に、あまりの状況に驚いた。
この主任研究員が当方に始末書を書かせると答えたために、1週間近く当方ともめている。そして、当方が新たに考案したホウ酸エステル変性ポリウレタン発泡体の企画を始末書として提出することになった。
このホウ酸エステルポリウレタン発泡体は、半年後工場試作され成功している。ホウ酸エステル合成用の簡単な反応釜を工場の片隅に置き、ホウ酸が使用禁止となるまで生産が続いた。
会社は素晴らしくても、中間管理職が一流とは限らない。日産自動車のように社長の資質が話題になるケースもあるのだ。神様や仏様のような人が上司になるとは限らない。若い人は、パワハラ程度に負けていてはいけないのである。
当方は6年解決できなかった電気粘性流体の耐久性問題を一晩で解決したところ命を狙われるような状態になったので転職している。自ら命を会社に捧げるようなことは考えなくてよいのである。パワハラ上司など数年我慢すれば、目の前からいなくなるのだ。
当方に始末書を書かせた主任研究員はコロナ禍直前にお亡くなりになったので葬儀に参列したが、ゴム会社の関係者はコロナ禍前でも誰もいなかった。
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当方は友人からこの上司の葬儀の連絡を受け友人の勧めもあり参列している。当方に始末書を書かせたパワハラ元上司をとりあえず涙で送り出した。パワハラ上司より先に死んではいけないのだ。
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(注)日本が、かつて「Japan as No1」と言われた時代は、もう終わっている。戦前の優れた経営者が亡くなり、戦後教育を受けた「優秀な」人たちが、経営を担うようになった。本当に優秀な人が経営者になっているのかは、ニュースを見れば明らかである。またGDPがバブル崩壊後30年日本だけ上がっていない状況を若い人はどう考えるのか。当方が新入社員の時、本当に優秀で神様のような人格者は5年以上出世が遅れ、中間管理職で定年を迎えている。ゴム会社だけではない。転職した会社は多面評価だったが、リストラを行わなければならないほどの状況である。パワハラを受けても将来ある若者は自ら死んではいけない。
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