2025.06/13 基礎研究に対する誤解
昨日配信の女性自身電子版で、「キリノミタケ」の人工栽培に、世界で初めて成功した「日本きのこ研究所」の活動が、『首都圏ネットワーク』の6月9日放送で紹介され、その時のNHKアナが活動をバカにしたような発言をした記事を報じていた。
一橋アナの「あぁ~、7年って言ってましたよね」と驚いた様子を見せ、首を傾げながら「食べられるのか何なのか、何の役に立つのか分かりませんけど。」とした発言が切り取られ拡散している(注)。
これは、バカにした、というよりも「王様の裸」という逸話そのものである。当方は、このような発言が増えることを期待している。これはバカにした発言ではなく、基礎研究を正常に維持するために重要である。
ただし、問題は研究者の中に、このような発言に対し怒りを感じたり、モラールダウンする人がいることである。また、このような研究者は、基礎研究ならば応用分野が不明でも許されると勘違いしている人が多い。
さらに、基礎研究が何に役立つか分からなくても良い、という基礎研究擁護の立場をとる人も未だにいる。個人の資金でやっている限り、これは許されるが、国民の税金で行われる研究において絶対に許してはいけない時代である。
税金で行われる限りは、国民の未来に有益な研究であることが明確に説明できなくてはいけない。屁理屈でも何でもよいから、明確に説明できることが求められる。
仮にそれが夢物語であっても未来に役立つ研究と誰もが認める説明がなされれば、国民の税金で研究を行っても許されるだろう。素粒子物理の研究は、それゆえ多額の税金がこれまで使われて実施されてきた。
宇宙の成り立ちや物質の基本はあらゆる科学の基礎となることを誰もが認めているので、その研究が直接産業に役立たなくても研究テーマとして許されている。
問題は屁理屈の夢物語の中には、本当に屁とわかるようなものまで存在し、時々そのような研究が基礎研究として行われたりする。やはり、臭いということを国民は声を出して言わなければいけない。
かつて、配合で成形体の物性が一義的に定まる技術開発の目的が設定されて数十億もの税金が投入された国研があった。この欄でそのプロジェクトの胡散臭さを説明し、リーダーが合成化学者であり、高分子を良く知らない人間であることを指摘している。
高分子材料は、プロセシングの影響を強く受ける。セラミックスでも熱処理過程で異なる材料ができる事例が知られている。すなわち、配合と成形体物性が1:1に対応する技術目標は、こうした材料の事例を知っておれば、おかしな研究目標であることがわかる。
例えば、PPS/6ナイロン/カーボンの配合では、カオス混合の有無で、異なる高次構造のコンパウンドとなる。また、SiCでは、前駆体や熱処理条件で、粉体の結晶構造や粒度分布などが変化する。すなわちプロセシングのデザインが重要となってくる。
古い話となるが、電気粘性流体の耐久性問題では、ゴムからのブリードアウト物質で電気粘性流体が増粘する問題について、界面活性剤で問題解決できないことを証明する研究テーマが基礎研究で実施された。
そして、あらゆるHLB値の界面活性剤を用いても電気粘性流体の増粘を回復することができない、という結論を科学的に完璧に証明している。
このような否定証明は、それを否定する現象さえ見つかれば、例え科学的に完璧な否定証明であってもひっくり返る。実際に一晩で電気粘性流体の耐久性を解決できる界面活性剤がデータサイエンスにより見つかっている。
この事例では、否定証明を基礎研究のテーマとしていることや、HLB値を科学の形式知の範囲でしかとらえていない問題があり、研究テーマをよく吟味すれば、ダメなテーマであることはすぐにわかる。
この問題では、京都大学や大阪大学の博士号研究者や東大修士の優秀な研究者達が一年かけて完璧な答えを出している。ドラッカーは、その著書の中で、「優秀な人はしばしば成果を上げられない。その理由は、間違った問題を正しく解くからだ。間違った問題の正しい答えほど害のあるものは無い」と明確に語っている。裸の王様には、裸であることを教えなければいけない。但し、それには勇気と純粋な心が必要である。
(注)公共財で基礎研究を進めるためには、キリノミタケの研究がどのような役に立つのか、研究者は分かり易く説明する義務がある。番組を見ていないが、おそらくそれがなされていなかったので、NHKアナの発言になった可能性がある。視点を変えれば、取材の仕方が悪い、ともとれて、NHKアナの発言は自己批判ともとれる。
カテゴリー : 一般
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