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2016.03/16 企画を実現するために(続編)

「企画を実現するために」と題して、当方の体験をもとに企画という業務について連続してこの欄で書きましたところ質問がきました。個人を特定できるような情報を書きますとまずいので、質問の要点だけ書きます。質問内容は「事業部門における企画では、人間関係論は不要ではないか」、すなわち「事業目的が明確なので企画内容に人間関係の影響は出ないのではないか」という質問でした。
 
方針管理が徹底し、方針に基づく企画を行う限り、当方が書きましたような問題が起きないかもしれません。特に製品の組み立てを中心に行っているメーカーでは、ロードマップが社内で公開され、そのロードマップからブレイクダウンされて作られる技術企画では、企画内容はすんなり周囲に共有化されるでしょう。
 
しかし、当方が中間転写ベルト用コンパウンドの内製化企画を立案しましたときに、最初に立案していた企画を誰にも見せませんでした。それはコンパウンド内製化企画という内容ではコンパウンドの基盤技術の無い会社で認められないばかりか、反発をされる場合も想定されたからです(注1)。
 
一度周囲にダメだしをされた企画は、ほとぼりが冷めてから再提案しない限り、受け入れてもらえません。そこで最初は、外部のコンパウンドメーカーに企画内容を説明し、新たな混練技術でコンパウンドを製造してもらえるように働きかけを行っております。
 
外部のコンパウンドメーカーが当方の提案を受け入れてくださっていたら、子会社でコンパウンドのプラントを慌てて建設するような仕事のやり方を進めていなかったと思います。しかし、外部のコンパウンドメーカーは、「コンパウンドに技術的な問題は無く、あくまでも押出成形技術に問題がある。」という立場を変えませんでした。
 
かつてゴム会社の現場で学んだ、当方の実践知(経験知)では、「押出成形は行ってこいの世界」すなわちコンパウンドの性質がそのまま成形体に現れてしまうプロセシングです。押出成形技術のあるべき姿として、成形体物性の問題をコンパウンド技術までさかのぼり解決するのは当然のことだったのです。
 
そのコンパウンドメーカーは6年の開発期間で選択されてきたメーカーであり、そのメーカーとの調整が難しかったので、単身赴任してすぐに担当テーマが失敗する、と結論を出しました。そしてその結論を各部門の管理職と共有化し、対策を考えなければいけませんが、最初に上司であるセンター長に準備していたコンパウンド内製化企画を見せて、相談しています。
 
この時、相談相手としてコンパウンドメーカーの役員クラスと調整する道も残っていました(知財の所属を検討しなければ行けない開発契約は締結まで最低1.5ケ月かかる)。しかし過去の経験から、その道は早々とあきらめました。理由は時間がかかるからです。時間は経営資源としてお金と異なり取り返すことができません。当時中間転写ベルトの量産化めどを周囲の納得する形で完成させるために残された時間は6ケ月を切っておりました。
 
当方の役割として早々と白旗をあげセンター長に相談するのは、管理職として社外調整できない無能な管理職というレッテルを貼られる可能性が高かったですが、現状を正しく理解し残された時間が無いという問題を共有化できる人間関係の対象として直属の上司を選んでおります。
 
相談の結果、センター長の意思決定で「他のカンパニーの子会社からコンパウンドを購入し開発を進める」という企画に変更されました。ゆえにコンパウンド内製化企画は日の目を見ることなく、基盤技術も何も無い中で粛々と子会社でコンパウンド製造ラインの建設を当方が進める事態になりました(注2)。
 
事業目的が明確な環境下の企画であっても、人間関係が仕事の成否を左右することはまれにあります。特に時間という要素がかかわるときに最初の相談者の選択は重要で、その相談者への説明に特化した企画資料は大切です。
 
(注1)どこまでの領域を自社で行うのか、という議論はよくおこる。例えば、コンパウンドはコンパウンドメーカーで行うべきで押出成形技術だけやればよい、という杓子定規の意見である。中間転写ベルトの開発では、開発期間の制約とそれまでの経緯から外部に依頼している、あるいは他のメーカーを探すという選択肢は無くなっていたのである。自前で開発する、というのは難しいとかリスクがあるとか考えがちであるが、情報が容易に入手出来る時代では簡単である。だから技術のコモディティー化の進行速度が速くなっているのである。ヒトモノカネの経営資源さえ調達できれば自前開発が有利な時代になった。中間転写ベルトでは子会社に工場建設を行ったが、このあと担当した環境対応樹脂については、外部に生産を委託している。これは生産量が桁違いに多く設備投資が嵩むためである。現在の情報化時代には、自社で行う領域を杓子定規で即断しない方が良い。
(注2)基盤技術も無い状態で工場建設ができるのか、という質問はナンセンスである。ここはゴム会社で実績のある会社に協力をお願いしている。know whoが重要という原則を実行しただけである。成功するための仕事のやり方については弊社へお問い合わせください。

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