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2016.08/27 否定証明(1)

命題の証明を科学的に完璧にできるのは、否定証明だけである、とイムレラカトシュの「方法の擁護」に書かれている。この彼の説明によらなくても、日常の開発では、否定証明、すなわち「できない」という証明は、「できない」ことを示せば良いので「できる」ことの証明よりも楽である。
 
だから頭のいい人たちに開発を任せると「否定証明」ばかり出てきて、開発は失敗しがちである。例えば電気粘性流体(ERF)をゴムのケースに入れた実用デバイス開発における事例。ERFの主成分であるオイルにより、ゴムから抽出された成分でERFが増粘する問題において否定証明がなされた。
 
それによると、この増粘問題は界面活性剤を添加する手法ては科学的に解決できない、と結論された。もっともこれが書かれた論文に接することができたのは、増粘の問題や傾斜機能粉体、微粒子分散型粉体、コンデンサー分散型粉体、ホスファゼン絶縁オイル開発などERFの問題をさっさと解決し転職を決意した時である。
 
ところで、増粘問題が発生した一年前、界面活性剤による解決が開発方針として出され、その報告書として否定証明の論文が提出された後、当方へERF開発のお手伝いという業務指示がきた。しかし、どのような仕事をするのかプロジェクトリーダーから説明が無かったばかりか、研究報告書の類も見せてもらえなかった。ただ、言われたことをやればよい、というおよそ担当者のモラールなど考慮しない説明だった。
 
当方は、たった一人で高純度SiCの仕事を住友金属工業とJVとしてたちあげようとしていた時である。その仕事を止めて手伝えという。
 
ここに至る5年間一人で我慢して死の谷を歩いてきたので、ERFの増粘問題を早く解決して自分の仕事に専念したかった。ゆえに界面活性剤を用いた解決法を提案したらプロジェクトリーダーから頭ごなしに否定された。その方法ではできないので人手がいる、と一方的な物言いだった。
 
当方はそのプロジェクト所属まで一週間の余裕がある間に、界面活性剤で解決「できる」証明をしようと考え、増粘したERFをもらい、多数のサンプル瓶にそれを分けいれ、それぞれに手持ちの界面活性剤を1%程度適当に添加して一晩おいた。
 
翌朝たった一つだけ見るからに粘度の下がっているサンプル瓶を見つけた。ただし、そのサンプル瓶には界面活性剤として表示されていなかったコポリマーを添加したものだった。この物質は界面活性剤として販売されていなかったが、親水基と疎水基として分子構造を定義できる立派な界面活性剤の構造を持っていたので一晩の実験に採用したのだった。(続く)

カテゴリー : 一般

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