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2018.11/10 PPSと6ナイロンのDSC

高分子の熱分析について連載で書いている。あるパーティーで分析機器メーカーの営業担当から熱分析装置が売れなくなった話を聞いたり、10年以上前にTMAを購入しようと、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂から生成された炭素材料をもちいて高純度SiCが生成する速度論解析のため超高速熱天秤の開発を依頼したメーカーに電話したところ、熱分析機器は取り扱っていないと言われてショックをうけたりした体験からである。

 

また、ある成形メーカーのご相談を伺ったときに熱分析装置を一台も持っていないと聞いたのでDSCぐらい持っていたほうが良い、とアドバイスし、一番安い装置を導入していただいた。ご相談内容に応えるためにも必要だったからである。成形問題の原因がコンパウンドにあるときにDSC一台あればそれを検出できる。

 

すなわちコンパウンドの品質管理にDSCを用いるのである。10℃/minの昇温速度で溶融温度(Tm)以上まで測定したデータがあればとりあえず、そのデータに関わるエラーを検出できる。Tm以上まで昇温しそこから降温したデータがあれば検出できるエラーも増える。さらに降温時にTcの直前で温度をホールドし結晶化ピークの現れる時間変化を追跡すれば結晶化速度に影響を与えている因子のエラーが分かる。

 

このエラーは、大きい時には昇温時のデータだけでも日々検査として行っておれば見出すことができる。例えば某R社から納入されたPPSと6ナイロン、カーボンのコンパウンドではTcのエンタルピーの変化がロットごとにあった。

 

またピーク位置が変わったりしたこともあった。Tgは6ナイロンとPPSのそれぞれが観察され、大きな変化が無かったが稀にPPSのTgのエンタルピーが小さくなることも観察された。

 

これらのことから、高温度におけるPPSと6ナイロンの相溶の可能性を疑った。実際にはR社の二軸混練機の温度がPPSのTm近辺に設定されて運転されており、これがばらつくことから生じていた現象である。

 

当方からカオス混合の提案をする前に過去に納入されたコンパウンドについてDSC測定を行い、コンパウンドの品質管理の問題を指摘している。しかしD社同様にR社もコンパウンドの品質問題について指摘された事項を受け入れてくれず、結局現場監査を行うことになった。

 

案の定、二軸混練機の温度はPPSのTmに設定されており10℃前後でばらついていた(注)。非相溶系でUCSTの相図になる系ではTm以上で相溶する場合がある。PPSと6ナイロンの相溶現象がばらつきとして起きていた可能性があり、それが過去ロットのDSC測定におけるTgやTcのエンタルピー変化となって表れたのである。

 

R社の技術者は優秀だったが、高分子の相溶現象における相図の知識は乏しかった。フローリーハギンズ理論やLCST、UCSTという言葉を知っていてもそれらが日々の現象としてどのように表れるのか考えた経験がないからだ。

 

これは大学における高分子の授業にも問題がある。高分子物理について完成された学問のごとく教えている現状ではこのような技術者になってしまう。高分子物理について理解されていない形式知の多いことを教えていただきたい。また高分子技術者はボーっと生きていてはいけない。最近は複雑なポリマーアロイを扱わなければいけない時代である。

 

(注)実際には設定された温度を中心にPID制御され5℃以内の変動におさえられるのだが、吸熱あるいは発熱の相変化が起きている場合には、PID制御で追いつかない場合がある。そうすると設定温度よりも10℃以上外れることがある。DSCデータでエラーが検出された場合にコンパウンダーの現場監査は重要だ。その時のコツは混練機の設定温度や樹脂圧のチェックである。特に設定温度はシリンダーごとに設定されているので、指示温度の変動を15分ほど見ておればどのくらいの温度変動があるのかわかる。PID制御が正しく設定されておればまったく指示温度が変動しない場合もある。これが5℃以上変動していたらアウトだ。しかしこのような場合でもコンパウンダーは素人は黙っとれ、というかもしれない。10℃程度の変動はタマにあるとしたり顔でいうのだ。ここで議論してはいけない。したり顔の相手をおだててどのような場合か、とか日々それがどのゾーンで起きるのかなどの情報を聞き出すのだ。日々問題があっても本人がエラーとして気がついていない情報をいくつか教えてくれる。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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