2012.11/01 パーコレーション転移
絶縁体である高分子に導電性粒子を分散すると、導電性粒子の添加量に応じて抵抗が下がるが、この抵抗の下がり方が、高分子と導電性粒子との相互作用や、導電性粒子の形状など分散状態に影響を与える因子に大きく影響を受ける。さらに、ある添加量のところで急激に抵抗が変化する現象が生じる。この現象をパーコレーション転移といい、この転移が生じる添加量はパーコレーション転移の閾値と呼ばれている。また、パーコレーションという呼び名も急激に電気が流れる現象からコーヒーのパーコレーターになぞられてつけられている。
パーコレーション転移については、数学や物理の分野で古くからボンド問題やサイト問題として研究されてきた。これは小さな立方体を組み合わせてできた大きな立方体について、小さな立方体の中心に粒子を入れていった場合と、小さな立方体の陵に粒子をおいた場合で粒子のつながりができ始める確率が異なることから研究が進められた。計算科学として研究が進められたが、材料科学分野に知られるようになったのは、バブルがはじける1990年前後である。材料科学分野では、パーコレーション転移の理論の代わりに混合則というものがあり、粒子を高分子に分散した時にはこの混合則で議論されてきた。
高純度SiCを武器に住友金属工業とのジョイントベンチャーを立ち上げ、サブテーマとして担当していた電気粘性流体でも成果を出し意気揚々と仕事をしている時にFDを壊されるという事件に巻き込まれた。事件の被害者であったが事件の収拾の仕方に疑問があり転職を決意した。セラミックスを研究してきたので、会社の規定に従いセラミックス以外の会社へ転職することにしたが、その転職先で最初に担当した帯電防止技術がパーコレーション転移の問題に関わる技術でした。
最初に混合則で問題を扱わず、パーコレーション転移の問題として素直に考えることができたのは、趣味のプログラミングのテーマとしてボンド問題やサイト問題の論文を読んでいたからで、芸が身を助け、ではないが趣味のおかげで、転職してすぐに成果を出すことができた。面白いと感じたのは、実際の材料の分散とよく一致するパーコレーションのシミュレーションプログラムを作成し論文発表しようと過去の論文を調査したところ、同じ時期に同じコンセプトのシミュレーションプログラムの論文が発表されていたこと。この時論文調査をさらに進めましたところ、材料分野への応用論文は3報ほどであったので、おそらく混合則からパーコレーション転移への概念の転換点だったのだろうと思います。
学際という言葉の重要性が叫ばれるようになったのは1970年代で、境界領域の学問の重要性が注目を集めた。パーコレーション転移はまさに学際領域の技術で、この材料分野における研究は1990年代から活発になる。材料の導電性の変化だけでなく、強度変化についてもパーコレーション転移で議論されるようになった。思想や技術、あるいは重要なコンセプトが一般に普及し常識になるには20年前後かかる、と言われているが、パーコレーション転移は学問が生まれてから普及までに30年程度かかっています。時間がかかった理由として初期の理論展開は材料技術者には難しく、すぐに材料物性の示す現象との関係に結び付けることができなかったため、と思われます。しかしコンピューターが普及し、理論内容を可視化できる現代においては直感で理解できる理論のように思います。
弊社では本記事の内容やコンサルティング業務を含め、電子メールでのご相談を無料で承っております。
こちら(当サイトのお問い合わせ)からご連絡ください。
現在パーコレーション転移シミュレーションプログラムを作りながら学ぶPython入門セミナーの受講者を募集中です。
PRセミナーについてはこちら【無料】
本セミナーについてはこちら【有料】
カテゴリー : 高分子
pagetop