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2012.11/15 実技と相関する評価技術(2)

タバコの灰付着テストで測定されるタバコの灰が摩擦帯電したフィルムにくっつき始める距離(以下タバコの灰付着距離)とインピーダンスの絶対値とが相関する現象をもう少し詳細に説明します。インピーダンスには周波数依存性がありますが、樹脂フィルムのインピーダンスは一般に低周波数領域で少し高くなります。特に測定周波数1kHz未満で周波数が低くなるに従い高くなる異常が観察されます。この低周波数領域については測定器や測定環境の影響を受けやすく測定が難しいので工夫が必要です。電極とサンプル、および電極と測定器までの配線にシールドを注意深く行わないとノイズを拾います。

 

タバコの灰付着距離とインピーダンスの絶対値との相関は、周波数20Hz以下で相関係数が1に近くなります。そして、例えば周波数が20Hzの時のインピーダンスの絶対値が500000Ω以上でタバコの灰付着距離は0になり、500000Ω以下でタバコの灰付着距離と負の相関を示します。この実験結果には最初戸惑いました。なぜならインピーダンスは交流の抵抗ですから抵抗が低いほどタバコの灰付着距離が延びる、すなわち帯電しやすくなる、という直感と異なる結果だからです。電気に詳しい方ならば容量因子の影響が出た、ということに気がつかれると思いますが、このあたりの測定結果の理解は、福井大学で客員教授の研究テーマとして完成させるまでよくわかりませんでした。

 

タバコの灰付着距離と20Hzにおけるインピーダンスの絶対値との負の相関が見いだされたのですが、インピーダンスの絶対値が大きくなるに従い帯電しにくくなるという結果に最初は戸惑いつつも、驚くべき結果ですから特許出願を行いました。俗に言うところのパラメータ特許になりますが、測定法自体も新しいので4件の特許を出願できました。この出願から2年後AGFAから特殊構造の電極を用いたフィルムの導電性評価法とその測定結果と商品を結びつけた特許が公開されました。

 

この測定方法は、等価回路とそっくりの電極の抵抗部分にサンプルをセットし、周波数を変えながら交流を印荷し、共振したところで抵抗の値を得るという方法です。これはインピーダンスの周波数依存性で低周波領域で異常がおきますが、周波数依存性に直線性が成立する最も低い周波数の時の等価回路で抵抗部分の抵抗を測定しているようです。特殊な電極構造がそれを行うために重要な働きをしています。特許では、こうして計測された抵抗が帯電防止と関係するという内容でした。

 

インピーダンスの値を帯電防止評価に使用する、というコンセプトでは両者はよく似ています。特許は半年ほどコニカが早かったのですが、両者の特許が成立しています。後日インピーダンスと帯電防止についてシミュレーションやパーコレーションの関係を書きますが、過去の帯電防止評価技術がどちらかと言えば直流の視点で測定されていたのに、同じ時期に日本とドイツで類似コンセプトの測定方法が出てきたことに感動いたしました。同時にドイツ人の科学に対するきまじめさに脱帽いたしました。AGFAの特許に書かれた電極構造は、明らかに抵抗とコンデンサーを用いた等価回路を前提にしています。そして測定器の周波数を変化させ共振点で測定する行為は、等価回路のコンデンサー成分をキャンセルする意味があります。

 

しかし、この考え方はロジックはきれいですが、実際のフィルムの等価回路がどのようになっているのか不明なので、真に科学的かどうかに疑問が残ります。素直にフィルムのインピーダンスを評価しているコニカ法で、測定値の背景に隠れている材料設計因子を探す技術的アプローチのほうが、泥臭いですが、科学的結果が得られるように思います。すなわちドイツの方法は、プロセスは科学的に見えますが、結果の解釈において科学的に疑問が残ります。しかし日本の方法は、プロセスは、ただ計測して得られた値と実技評価結果との相関を見ているだけなので、技術的色合いが濃いですが、考察して得られた結果は科学的成果が出ています。来年電子セミナーでも公開します。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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