PPS/6ナイロンのストランドがべとべとしていないのは、6ナイロン以外の添加剤がPPSに添加されていないからだ。そのうえ6ナイロンのTgが室温よりも十分に高いためである。
これは高分子添加剤がブリードアウト防止に使えるという一つのヒントを示している。しかし、高分子添加剤の問題点として常に改質対象となる高分子の改質ができるわけではないのだ。
換言すれば、改質したい高分子に相溶する高分子を見つけることが至難の業で、異なる高分子の組み合わせを相溶しようとしたときにフローリー・ハギンズ理論による制約をどのように乗り越えるのかという問題が出てくる。
そこで高分子の改質に低分子が用いられているのだが、なぜか低分子を用いるときにこのフローリー・ハギンズ理論を忘れている。少し物理化学に造詣のある人は、SP値でこの問題を考えようとする。
SP値で考えてることは、科学的視点で材料開発を行う時に間違ってはいない。しかし、SP値で選択された低分子を添加してもブリードアウトは起きてしまうのだ。
低分子では、室温以上で分子運動性が高分子よりも大きいので、改質しようとする高分子内部において拡散速度が速く、その結果内部に分散した低分子が、表面に移動してくることになる。
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ブリードアウトという現象は、高分子材料で成形体を製造する時に、耐久性や加工性向上のため添加した成分が成形体の表面に滲みだしてくる現象である。
少量であれば問題とならないが、べとべと感を感じるまで出てくると商品として使えなくなる場合もある。電子マッサージ器の電極パッドのように常時べとべとしていてほしい場合にはブリードアウトは大切な機能だが、多くの商品では気持ちの悪い手触り感となり敬遠される。
ブリードアウトという現象は、高分子材料に添加剤を用いる限りそれを0とすることはできない厄介な問題である。解決方法はブリードアウトしても手触り感が悪く感じない程度に工夫する以外に方法は無い。
添加剤を用いる代わりに、その機能を高分子材料の一次構造にグラフとした化合物で代用する、という技術や、添加剤のブリードアウトを遅らせるために高分子材料を化学修飾する方法は、良い方法だがコストがかかる。前者は一応ブリードアウトを0にできるが、いつも使える方法ではない。
高分子材料が広く普及してから今日まで、ブリードアウトは困った品質問題としてその対策が検討されてきたが、いまだに解決できていないのが現状である。
単相だったPPS/6ナイロンが2相に分離した話を紹介した。この現象で面白いのは、6ナイロンがブリードアウトしていてもよいはずだが、白濁したストランドの表面を触ってみてもべとべとしていない。
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本日ブリードアウトについて書き始めたが、昨日のほとんど何も語らない森友問題の証人喚問の衝撃があり、忖度について改めて考えた。佐川氏の忖度は職務を離れても続いていたが、野党の質問があまりにもお粗末で、自民党丸川議員の佐川氏に配慮した質問が光った。
仕事の都合でインターネットに配信されている映像で確認したのだが、佐川氏は、良くも悪くもプロフェッショナルとして証言台に立っており、一部質問者の無能さをさらけ出すような結果となった。
恐らく佐川氏は、書類を書き直す直接的な指示を出していないと思われる。冷静に考えても、公的文書を書き直せ、などというバカな指示を出すような人に見えない(注)。ただし、間接的なパワーハラスメントがあったのかもしれない。そして、これは想像になるが、追い詰められた人が忖度して書類を書き直し自殺した、という構図だろう。
当方が高純度SiCの事業を6年間の死の谷を越えて、社長印をもらい住友金属工業とのJVとして立ち上げたのは、忖度以外の何物でもないと佐川氏の答弁を聞いて思い直した。
そもそも40年ほど前に社長方針として、電池とメカトロニクス、ファインセラミックスを3本の柱として事業を推進するといわれても、当時の研究所はファインセラミックスに対して具体的な貢献シナリオを描けなかった。
その背景で高純度SiCを提案し、2億4千万円の先行投資の決済を社長から直接頂き、スタートしている。その後、ファインセラミックス研究棟を電池事業に明け渡せとか、いろいろ研究所内で言われても、毎年社長訪問が研究所で実施されたときに社長が必ず研究棟まで足を運んでくださったのでJVまで持ちこたえた。
しかし、FD事件だけはまいった。解決の出口が無くなったのである。死ぬか生きるかの選択に等しい転職を忖度して選んだのだ。早い話が、組織で忠実にならんとしたときに、組織の責任者が誰も責任を取らない状態では、何もなかった状態を受け入れるしかないわけである。しかし被害者の立場で何もなかった、と忖度できるのは、一回だけの特殊な状況と我慢できる場合だろう。
財務省の自殺者の遺書に書かれた意味もそれに近い。おそらく、どうしようもない時に担当者が忖度して禁じ手をやった場合には、その後昇進できたのにそれができなかったから、というような意味が書かれていたという。忖度の連鎖がハッピーエンドに終わらなかったのが今回の事件の本質と思われる。
自殺された人に同情するが、業務上どうしようもできない時には組織を離れること、というのはドラッカーの遺言である。組織人として仕事をするときに、忖度をしなければいけない状況に一度はサラリーマンだれでも遭遇するだろう。
ただその結果が悪い結果として現れても決して死んではいけない。そっと組織を離れるべきである。当方は、1991年9月30日にゴム会社を退職し、10月1日に写真会社へ移った。年金手帳が写真会社に届いたのは、送別会が済んだ11月になってからである。ただし、高純度SiCの事業は今でも続いている。2011年3月11日という写真会社の退職日と同様に人生忘れることのできない思い出である。
(注)誰が考えても、状況によっては一つの答えしか選択できない場合が仕事として出てくる。そのようなときにドラッカーは「何もしない」というのも一つの選択であると語っている。すなわち、doで考えると一つの答えしかない場合でも、「何もしない」というもう一つの答えがある。ただ、この「何もしない」も選択できない、と考えるのかどうかは難しい場合はどうするか。もう組織を離れる以外にないのだ。責任者であれば辞職となる。我慢して居座るのも選択肢としてあるが、それが許されるのは、非責任者だろう。中間転写ベルトの開発では、外部からコンパウンドを購入していたなら絶対に成功できないことが、単身赴任してすぐにある結果として出た。センター長が8000万円の決済をすると決断してくださったので、子会社でカオス混合プロセスのプラントを建設し、業務を成功に導くことができた。リーダーの責任は、業務遂行において部下に忖度させるように迫ってはいけない。部下が仕事をやりやすいように決断してゆくのが優れたマネジメントである。
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23日の内容に驚かれたアカデミアの方は何人いらっしゃるだろうか。科学的ではないばかげた信頼のない情報とかたずけられた人は、イノベーションを起こせるような研究はできない。
特殊な混練プロセスでPPSと6ナイロンが相溶し、透明になったのは事実で、その時のストランドには分析しても結晶らしきものは見当たらなかった。今手元にある白いストランドについては分析をしていないが、おそらくそこにはPPSの結晶と6ナイロン相が観察されるだろう。
分析して科学論文にし発表するだけの価値のある内容と思っているが、面倒なのでそれをしない。ただ多少は貢献の意欲があるのでこの欄に紹介している。しかし、当方もまだコンサルタントとして仕事をしたいので、すべての情報を書かない。
この欄では知らリズム(昔の流行語チラリズムのパクリ)で世間に興味を持っていただけるような内容を紹介しているが、特許になるぎりぎりのところに関するキモの情報を書いていない。
PPSと6ナイロンの相溶については10年以上前に特許出願し、特許として成立しているので書いているが、脆いPPSがしなやかな材料になっていた。
このフローリー・ハギンズ理論に反する実験結果は、ブリードアウトとも関係している。しかし、そのすべてをここで書くつもりはないが、まだ知られていないぎりぎりのアウトラインの輪郭を明日から書いてみたい。
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イタリア・ミラノで行われた男子フリー。大会前に右足甲を痛めていた宇野選手はジャンプで精彩を欠き、転倒するなど苦しみながら演技を終え、リンク上でもインタビューでも涙を流した。
この宇野選手に対して、プロフィギュアスケーターの安藤美姫の、「痛かったよね…泣くよね…やり遂げたあなたは本当に強い」とたたえたツイッターが話題になっている。
安藤嬢は女子の公式試合で4回転ジャンプを世界で初めて成功させたスケーターだが、リンク外のニュースの話題が多くスケーターとしての功績が霞んでいる。ドラッカーが「どのように覚えられたいか、そう思って生きよ」と著書に書いていたことがよくわかる。彼女の今のような生き様では、彼女が偉大なスケーターであったことが忘れられてしまう。
安藤嬢が4回転ジャンプを成功させたときに、マスコミ界は真央ちゃんブームだった。それもあって、彼女の偉業はあまり知られていないが、その責任はその後の彼女にある。モロゾフコーチとの恋愛に走ったり、そのコーチのアドバイスに従い、4回転を封印し、プログラムの難度を下げロバストの高いプログラムに変更したり、と甘い人生を送っている。
浅田選手のトリプルアクセルも最初はロバストが低かった。「あの子は大事なところで転ぶ」と森元首相が発言し大炎上しているが、やがてそのロバストも上がり、キムヨナとの名勝負を繰り返すことになる。ロバストを求め努力を続けた浅田選手と、ロバストを求め難易度を下げた安藤選手とはスポーツに対する姿勢や考え方が異なるのだ。
トリプルアクセルに拘った浅田選手はその後、スケート選手として選手生命を左右する膝を痛め引退することになる。確かに安藤選手も脱臼に苦しんだ過去があるが、安直な選手人生を送った彼女に「痛かったよね」と言われても宇野選手は迷惑ではなかろうか。
一流を目指すスポーツ選手ならば、ロバストを高めるために、その技術レベルを下げるような取り組みをしてはいけない。浅田選手が今も国民に尊敬され愛されているのは、練習量を多くしロバストを上げ挑戦し続けたからである。
今回のK.オズモンドやネイサンチェンの優勝で終わった世界選手権は、転倒者続出の大荒れだったが、その荒れた試合を見ながらいろいろ考えさせられた。
技術開発もこのスポーツと同様にロバストが要求されるが、その時に目標スペックを下げるシステムと、高い目標を狙いながらロバストをあげるシステムとどちらを選択するのかは技術者の責任である。
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昨晩ミラノで開催されていた「フィギュアスケート・世界選手権」男子フリーのライブ放送が夜8時から行われた。平昌五輪銀メダリストの宇野昌磨は昨年の世界選手権に続いて2位だった。
オリンピック終了後、靴を新調した影響か、はたまた右足故障の影響からかジャンプで転倒が相次ぎフリーは179・51点、SPとのトータルは273・77点で、300点越えはならなかった。
ただ、終盤にはジャンプを成功させており「失敗が多く終わったが、最後の方、何とか耐えられたのは練習の成果と考えたい」とインタビューに答えていた。銀とはいえ満足な演技ができなかったので悔しかったのか、その目には涙があふれていた。
出場枠確保の戦いでもあり、期待された田中刑事は13位だったにもかかわらず、宇野が2位、初出場の友野一希ががんばって自己ベストの記録で5位に入り、来年日本で開催される世界選手権の3枠を確保した。
ちなみに、オリンピックでその実力を根性で見せたネイサン・チェンは321・40点でダントツ1位だった。
1位と2位が大差となったのは、2位以下6位までの選手でパーフェクトに演技ができたのは友野一人で、彼はFSだけ見れば3位と健闘していた。
期待された4回転ジャンパーたちは、皆複数の転倒が相次ぎ、SP上位の選手が6位以下に沈み、転倒してもSP4位の宇野が銀メダルをとれた原因となっている。
同じ4回転ジャンパーでも安定性(ロバスト)が実力差として現れた。上位陣で4回転ジャンプを転倒せず飛べたのが、友野とネイサン・チェンだけだったのだが、友野はその実力の余裕というよりも初出場の挑戦者という真摯な姿勢が実を結んだ。
理論的には人間の能力で5回転ジャンプまでできるそうだが、現在の男子フィギュアスケートがその能力の限界ギリギリのところで戦っている状況を今回の世界選手権は見せてくれた。
荒れた大会は、女子も同じで、SP2位でスタートした平昌五輪金メダルのアリーナ・ザギトワはフリーで3度の転倒が響き128・21点と、合計207・2点の5位に終わった。
オリンピックで批判が噴出し、ルールの見直しが提案されるまでになった、後半に7本のジャンプを固め打ちする演技構成が、1.1倍の得点増を狙うという彼女の”せこい特徴”である。
その最初の高難度のコンビネーションのジャンプのトリプルルッツでまず転倒すると、ダブルアクセルからのトリプルトゥループも転倒。トリプルループにも果敢に挑戦したがこれも転倒するなど、まさかの3度の転倒となった。
解説によれば、後半にジャンプを詰め込んだために、ミスの立て直しが難しく、曲に合わせようとすると複数のミスが出るのは避けられないという。
これは策士、策に溺れる状態だが、引退した浅田真央がトリプルアクセルに拘ったチャレンジ精神と異なり、フィギュアに求められる芸術性を無視した得点増という狙いが見えすぎであり、同じ極限への挑戦だとしてもザギトワに対して世間の見方は厳しい。
ちなみにフィギュアスケート女子の成績についてSP首位のコストナーはFSで精彩を欠き、FS3位だったオズモンドが優勝し、樋口が2位、宮原が3位だった。
女子フィギュアスケートでは、人生において運が半分、という厳しさを毎年見ることができる。オズモンドの信じられないという笑顔が、その人柄も感じさせて、あのゴールドよりも一瞬美しく見えた。
かつて、キムヨナと浅田真央の熾烈な戦いでは、限界よりもロバストを追求したキムヨナが、スポーツゆえにチャレンジを重視した浅田真央に勝利回数で上回っている。しかし勝利しても、それが当然というキムヨナの姿勢(注)を思い出すと、勝利した時の浅田真央や今回のオズモンドの笑顔には何か救われるものがある。
(注)浅田真央が一位になっても、間違えてキムヨナが一位の表彰台に乗ろうとしたシーンも過去にあった。
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昨晩高分子同友会の勉強会でセルロースナノファイバーの講演を拝聴した。面白い内容だったが、聴講者が少なかった。せっかくの機会をもったいない、と感じた。実はセルロースナノファイバーは、今3度目のブームである。だから過去のブームを知っている人にはつまらないテーマに見えてしまう。
しかし、今回は少なくとも20年ほど前の菌セルロースのブームとは一味も二味も異なる。小生も理解しているつもりでいたが昨晩の講演を伺い、少し認識を変えた。目から鱗というわけではなく、過去のブームと大きく違うところである。どこが過去のブームと異なるか、大切な点は商売のネタになるのでここでは書かない。興味のある方は問い合わせてほしい。
昨日の講師の方は若かったので過去のブームを御存じなかった。まずそこから紹介する。実はファインセラミックスブームの時にナノセルロースのささやかなブームがあった。1990年代に入り、ティラミスのブームが去ったら若い女性たちがこぞって健康食としてナタデココを食べて火がついた、という流れである。
ナタデココと寒天の違いが判らない人は田舎者扱いされたぐらいである。ようやく味と名前を覚えたティラミスをデートで話題に出したら、今はナタデココと言われた。ナタデココになじんだら、菌セルロースのブームとなった。第一のブームから第二のナノセルロースへのつながりはスムーズで、様々な工業用品への応用が検討された。この時主に複合材料としての研究開発が行われている。
オンキョーのスピーカーはこの時の成果で、現在もその技術は使われている。当方も味の素からナノセルロースを提供していただき、ゼラチンとの複合材料を研究した。残念ながらコストの問題があり実用化には至らなかったが、ゼラチンの高靭性化と高弾性率化に成功している。
今は第3のブームでこれは本物である。2010年ごろ日本化学会から依頼され、「教育と化学」にセルロースの簡単な総説を書いたが、その最後に現在のブームを予告している。それが当たった。ナノセルロースの新展開が始まる。
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高分子の結晶化速度論についてアブラミの式で解析されるが、いつも不思議に思っている。PPSを扱って10年以上になるが、この材料の結晶化速度は、単純にアブラミの式で解析できないのでは、と思ってしまう。
そもそも高分子の結晶化速度論は、無機材料の結晶化速度論からの借り物ではないか。無機の結晶について、その速度論の論文を読むとデータとの対応が美しくわかりやすい。SiCの速度論的解析を行ったときにもたいへんきれいなデータが得られ、解析結果もアブラミ式でうまく整理できた。
しかし、高分子の結晶化速度論の論文を読むと、速度式からのずれがすっきりと説明されない、という欲求不満になる。無機の結晶化に比較してその機構が複雑なためであるが、ここで一つ大きな問題が出てくる。
速度論の解析では、その結晶化の機構を暗黙のうちに仮定して行う。換言すれば、結晶化機構が不明な場合には、速度論の解析が難しくなる。
シリカ還元法によるβSiCの速度論的解析を当方が行うまで誰も成功しなかったのは、シリカとカーボンの均一な前駆体が無かったからで、不均一な場合にはSiOガスの発生など反応機構が複雑になり速度論の展開が難しくなる。
無機材料の場合、その単結晶はひずみを内蔵しているが、一応シャープなX線回折信号が得られる。しかし高分子結晶ではこのようなシャープな結果が得られない場合が多い。
13年ほど前にコンパウンディングしたPPS/6ナイロンの透明ストランドがいつの間にか真っ白になっていた。おそらくPPSが結晶化したためにスピノーダル分解が進行し6ナイロンが析出したためと思われるが、その結晶化速度は極めて遅い。
Tg以下でも結晶化するのか、と驚かれる方もいるかもしれないが、障子のノリに使用されるPVAが一年かけて球晶となる姿を観察していただくと、この事実を納得できると思う。朝目が覚めて頭がすっきりしていないときに書く話ではない、と思いながら書いている。
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過去に高分子の難燃化についてこの欄で書いているが、リンについてその効果を今日は書いてみる。リン系難燃剤については大八化学が有名で1980年ころ縮合リン酸エステル系難燃剤を多数開発している。ポリウレタンの難燃化を2年間担当していた時に多くのサンプルを頂いた。
このリン酸エステル系難燃剤の大半は燃焼時に熱分解し揮発する。その分解挙動は様々だが、600℃まで熱処理を行ったときにほとんど残らない。それでもポリウレタンはじめ多くの高分子を難燃化できているので、300℃前後で炭化物生成反応が開始していそうなことが推定でき、たいていの教科書には、その触媒作用の機構が書かれている。
面白いのは、ホウ酸や水酸化アルミニウムなどを組み合わせてやるとホウ素やアルミがオルソリン酸と反応し、600℃に加熱しても難燃剤由来のリン酸が残っている。また、ホウ酸や水酸化アルミニウムの併用でリン酸エステル系難燃剤添加量も半分程度に減らすことが可能である。
ただこれには多少ノウハウが必要で、高分子材料を扱うスキルが低い場合には再現しないようだ。このような少し怪しい技術だが40年近く前にいろいろと実験を行い、科学的に正しそうな知見を得た。
まず、多くのリン酸エステル系難燃剤は、280℃前後で熱分解し、オルソリン酸を発生する。オルソリン酸はこのあたりが沸点なので600℃で難燃剤由来のリン酸のユニットが存在しない理由を説明できる。また、ホウ酸や水酸化アルミニウムが均一に分散しておればオルソリン酸と反応し、これを系内に保持することが可能である。
ボロンホスフェートは耐熱性が高いので600℃までリン酸ユニットを保持していることも説明可能である。面白いのは、ボロンホスフェートの構造でポリウレタンに添加しても難燃効果は低いが、ホウ酸と縮合リン酸エステルの組み合わせでは難燃効果が高くなることである。
これは、300℃前後でオルソリン酸の構造をとっていないと炭化促進の触媒効果を示さないのでは、ということを想像させる。オルソリン酸が炭化促進効果で触媒作用を示すことは知られており、この想像は間違ってはいないだろう。この想像を膨らませると未知の難燃剤システムを設計可能で、高分子の難燃化技術は奥が深いと改めて感じる。
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学生時代に高分子科学の授業といえば高分子の合成が中心で、高分子物理については大学院2年間でその香りに触れることすらなかった。ただ、フローリー・ハギンズ理論が教科書に一言書かれていたという理由で、それが試験問題として出た。
これは、生涯忘れることのない高分子物理の苦い味だった。授業中に寝ていたのか、あるいは友人との交流に時間を取られ授業に出られなかったのか記憶にないが、授業では聞くことがなかったその言葉と試験用紙でいきなり遭遇し慌てた。
就職したゴム会社の研究所はアカデミアのような雰囲気で、知識の多さが第一という風土だった。ある日フローリー・ハギンズ理論について知っているか、と尋ねてきた先輩社員がいた。先輩社員は、当然当方のトラウマなど知らないので、完璧な説明にびっくりしていた。
1970年代の高分子科学の状況は社会人1年目でフローリー・ハギンズ理論を知っていることができる技術者の証の様な時代だった。今書店で大学の高分子科学に関する教科書になりそうな参考書を見れば、たいていは1ページ以上この理論の説明がある。
昔のように、一言教科書に触れていた程度の理論ではないのだ。高分子材料を扱う技術者には必須の知識の一つになっている。この40年間の高分子材料科学の進歩は著しい。
一方無機材料科学も1980年代のセラミックスフィーバーで著しい進歩をしたのだが、教科書の状況は高分子科学ほどの大きな変化はない。無機化学は、コットン・ウィルキンソンの著書である教科書に代表される錯体化学が中心のようである。
ただ、無機化学の教科書は、結晶関係やセラミックスなどが独立して存在し、おそらく大学の授業では基礎科学の一つとして授業が行われ、昔あったガラス工学などの授業は無くなったのだろう。
書店で教科書の類を眺めていると、実務で要求される材料科学という有機材料から無機材料まで俯瞰した優れた書籍が無い。一方で40年前優れた材料科学の教科書と言われた複合材料入門がいまだに書店に並んでいたりする。
結局材料技術については、セミナー会社が開催するセミナーでそれぞれの分野の技術について学ぶ以外に方法が無いようだ。セミナーの講師として呼ばれるときにはこのあたりの事情も考えて講義をしなければいけないと思っている。
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