火災と言う現象と高分子材料について研究するテーマは、どれもトランスサイエンスとなる。しかし、うまくテーマ設定して科学的結論を出せるような雰囲気も感じたりする。
実はこの感覚が、誤った評価技術を生み出したりする。むしろ、トランスサイエンスを前提に評価技術を開発したほうがアウトプットを間違えないと思っている。
このあたりの感覚をお伝えすることも難しいかもしれないが、高分子の難燃化技術は、ほとんどが経験知ぐらいに思っておいた方が研究を進めるときに誤った結論に陥る確率を小さくできる。
例えば極限酸素指数(LOI)はJIS規格が存在し、大抵の材料についてこの規格に準じて測定すればおよそ0.5程度の偏差で再現よく求めることができる。ところが、規格に基づき測定すると測定不能となるケースがある。
この時、科学の姿勢としては測定不能とするのが正しい姿勢である。LOI以外の難燃性評価規格にも測定不能となる規格が存在する。しかし、これでは研究開発を進めることができない。
難燃性高分子の開発では、測定不能であってもその難燃性を何とか数値化したいという場合が多い。難燃性評価規格もそのために作られているのだが、例えばフィルムや発泡体のLOI評価では、多くの場合に測定不能となる。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
住友金属工業と始めた半導体治工具用高純度SiCの事業化を一人で推進しているときに、研究所を管理する役員が退職のため交代した。そして新しく役員になられた方から電気粘性流体の仕事も手伝うように指示された。
電気粘性流体に用いられている材料についてプロジェクトリーダーに情報を尋ねたら、外部との共同開発テーマであり、機密情報のため見せられない、と言われた。
仕方がないので、電気粘性流体に用いる粒子について独自に材料設計し、3種類の機能性粒子を発明した。前任の役員から「まず、モノ持ってこい」式のアジャイル開発マネジメントを指導されていたので、企画書を書く前に3種の機能性粒子を合成したのである。
大成功であり、実験を初めて1か月ほどで3種の機能性粒子の高い電気粘性効果が確認された。とりわけ、傾斜組成の効果で粒子内部から表面にかけて電気抵抗が10000倍変化している粒子は、極めて低電力で高い電気粘性効果が発揮された。
この成果で、それまで社外から調達していた粒子をこの新技術で内製化することになった。こうなってくると一人で推進するには荷が重い。そんな大変なときにFDを壊されたりする妨害を受けている。
住友金属工業との半導体治工具事業とこの傾斜機能粒子は、当方の置き土産のようになったが、転職後それらの展開を外部から眺めていて、高純度SiCの事業と電気粘性流体の進捗は人間の欲を描いたドラマをみているようだった。
どのようなドラマだったのか、いつかまとめて発表したいが、圧巻はこの仕事も含めて学会賞の審査員に小生が偶然選ばれていた、神様のいたずらのような出来事だろう。最初の推薦書は高純度SiCの仕事に無機材質研究所も住友金属工業も書かれていない、とんでもない内容だった。
カテゴリー : 一般
pagetop
火災は高分子にとって急激に進行する酸化反応だ。非平衡反応の科学の形式知について完成していないので、一般の火災をモデル化して実験室で科学的に研究を進め、科学的に満足できる解答を出すことができない。
また、多くの火災は出火原因を特定することも経験知に頼っており、現象をモデル化することすら難しい。それで建築研究所は時々実際に家一軒丸ごと燃やしてデータを取得し、それを基に研究を進めている。
大変お金のかかる研究だが、出火して燃え広がるまで消火もせずに黙々とビデオカメラに収めることなど一般の火災でできないからだ。半世紀前に比較すると火災に関する建築規格も大きく改訂されている。
それでもまだ見直しが続けられているのは、火災が無くならないからだ。すなわち火災に関する建築基準について完成することはないのではないかと思っている。
火災に関する研究が進んだので、最近建てられている家は震災があっても燃えにくくなっている。ヘーベルハウスのように30年以上前から独自基準で燃えにくい家を目指している企業もあるが、少しでも他社より燃えにくいことを示すことがセールスポイントになるからである。
科学的には燃えにくい序列を表現しにくいが、建築基準があるのでそれ以上の燃えにくさを実現していることをアピールしやすい。建築途中を見ていたが、台所周りの火災に対する配慮には感心した。
かつて台所用天井材の開発を行った経験があるが、某ハウスメーカーの意向によりコストダウンを優先し、当方のアイデアが却下された経験がある。火災の危険性を考慮したならばコストよりも火災対策の優位性をPRした方がハウスメーカーにとってメリットがあるように思い提案したのだが残念である。
その時代の規格が、科学的に普遍なレベルであれば、このハウスメーカーの考え方でも許されるかもしれないが、火災に関する規格は厳しくなることはあっても見直しで緩くなることはない。少しでも燃えにくい家を目指すことはハウスメーカーの良心である。ヘーベルハウスは少し高価だが。
カテゴリー : 未分類
pagetop
未だにテニスのボールガール問題がニュースになっている。これは失格とした判定を厳しすぎると誰もが思っているが、それを審判団が無視しているからである。また、無視していても審判団の非を責めるルールはない。
テニスではないが、広末夫人の不倫問題もくすぶったままだ。毎日のようにネットニュースになっている。この問題は週刊誌が報じたときに当人は全否定したのだが、その後状況証拠がニュースとして報じられ、今は不倫問題と言うよりも熱愛問題として報じられている。
テニスのボールガールの問題は誰もが現場を映像で見たのだが、不倫問題は週刊誌記者も含め誰もその現場を見ていない。かたやルールブックに記載されていないのでいつまでもくすぶっているのだが、不倫問題はマスコミが報じれば報じるほどますます燃えさかるような状況となっている。
実は高分子と火災の問題は両者の様子がごちゃ混ぜになったようなどろどろしたトランスサイエンス問題だ。出火元が分かっているならば、そこに用いられていた高分子材料が規格通りの適切な品質だったのか議論がなされる。
しかし、その後の議論が煮え切らないものになることが多い。それで、民間の保険会社が作ったUL規格が電化製品で使われるようになった。
一方出火元の目撃者が無く、燃え盛る火の手を早く消してほしいと願っても一度大きくなった火は、それなりの時間をかけないと消すことができない。そして火が消えてから、最も焦げていたところが出火元と判定される。誰もそこから火が出たことを見ていなくとも、である。
燃え盛る映像や、消火後の結果から火元を推定する方法が科学的に正しいのか知らないが、経験的に納得できるということで皆が信用している。
ゴム会社で初めて高分子の難燃化技術を担当した時に、このようなトランスサイエンスの分野であることを学生時代に知っていたので少しでもアカデミックに研究できるよう努力した。
昨日のらんまんで徳永助教授が学生を諭した、「どうやってここに来たかは問わない。だが、そこから変わっていけるかどうかだ」という名言がネットで話題になっている。
嫌な仕事でもどうやってそれを自己実現に結び付けて、そして社業に貢献するのかが大切とドラッカーにかぶれていたので高分子の難燃化技術研究のテーマを前向きに推進したが、この徳永助教授の名言を話題としたニュースの方がボールガールや不倫の話題をいつまでも流すより健全だと思う。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
パーコレーション転移という現象は数学者たちに1950年代から研究されてきた。1970年代にはスタウファーの教科書が発行されている。
日本では小田垣先生が有名で、このコロナ禍において元気な姿をワイドショーで見かけた。すなわち8割おじさんがクラスター理論でシミュレーションをやっていた知の基が1950年代の数学者たちのテーマだった。
このテーマはカリフォルニアの山火事について議論する過程で生まれた、と伝えられている。すなわち植えられた木がクラスターを形成しているから山火事が広がるので密とならないように木を植えればよいというわけだ。
1950年代から知られていた理論にもかかわらず、材料科学の分野で知られるようになったのは1990年代になってからである。40年と言う月日が学問の境界を越えるために必要だった。
それまでパーコレーションの問題について材料科学者たちは、混合則(あるいは複合則)として考察を繰り返してきた。弾性率や線膨張率についてフィラーによる補強効果がこの混合則で議論されてきたのである。
高分子にフィラーを添加する時だけでなくポリマーブレンドで形成されるドメインについてもパーコレーションで議論されている例もある。
カテゴリー : 一般
pagetop
NHKの朝ドラ「らんまん」は、ドラマの山場を迎えている。研究者牧野博士の訴えたかったことなのかもしれない。当方は実際にはもっと醜いことが起きていたのではないかと想像している。
一方で博士を助けた方々もおり、それが人間ドラマとして今後描かれる重要な部分だろう。当方も高純度SiCの研究で学位取得のお話を某国立大から頂いたときに、当方の反応速度論に関する研究に全く関わっていなかった助教授により当方のデータを勝手に論文として出される被害に遭っている。
その後学位審査に関わる教授から奨学寄付金を転職先の企業から持ってくるように言われ、社会人が学位取得するにあたり裏側の苦労を知り辞退している。
その後学会の懇親会である先生から学位取得について話題が出て、正直に一部始終をお話ししたところ、中部大学に無機高分子の講座があることを紹介され、そこで学位取得することになった。
この時、様々な方のご援助があり、学位論文も高純度SiCの反応速度論だけでなく、高分子の難燃化技術など当方がゴム会社で自ら企画研究した内容を盛り込んだ学位論文をまとめ上げることができた。
この時の経験かららんまんのこれからの展開を楽しみにしている。すなわち世の中には他人の成果を平気で自分の成果のようにする悪人もおれば、真摯に努力する人物を支援してくださる偉い方々もおられるのだ。
おそらく今後のらんまんの展開はその中で描かれる人間模様が物語の中心になるのだろうが竹夫と綾の行方も気になるところだ。実話では一度酒蔵は倒産し再生している。
カテゴリー : 一般
pagetop
特公昭35-6616という写真感材の帯電防止技術に関する特許がある。世界で初めて酸化スズ薄膜を塗布で形成した透明導電膜の発明である。この特許の直前にITO蒸着技術の発明が多数なされている。
当方が写真会社に転職した時にこの特許技術を否定する否定証明の報告書が出されていた。すなわち高純度酸化スズには導電性が無いので帯電防止剤として使用できない、と結論された報告書である。
実験データと考察が優れた論文であり読んだ時に感心したのだが、写真フィルムの帯電防止技術に関する調査を行っていて特公昭35-6616特許を見つけた。
否定証明の報告書からこの特許はいわゆるペテントとなる。しかし、この特許が公開された後、ライバル2社から金属酸化物を用いた帯電防止技術に関する特許出願が増えているので疑問が出てきた。
そこでこの特許の実施例に基づき実験を行ったところ、パーコレーションの問題に気がつかなければ否定証明となる技術であることに気がついた。すなわち実施例通りに実験を行うと、二通りの結果が得られる。
一つは帯電防止層としての機能が発揮される実験結果であり、一つは否定証明通りの結果である。特許の実施例に書かれていない実験条件があり、それが新規技術と思われたので、あわてて特許出願をまず行った。
すなわち、特公昭35-6616に書かれた実施例の方法は不完全な記述で当方の特許の実施例通り実験を行えば、必ず帯電防止層を安定に製造できる。
当方の特許は改良特許として成立したのだが、昭和35年から平成3年の間に誰もこの改良技術を気がつかなかったことに驚いた。
それだけではない。その特許は当方が転職した会社の特許であり、大変優れた技術に関わらず、それがまったく伝承されていなかったことに転職した会社の技術経営に対して絶望感さえ感じた。
カテゴリー : 一般
pagetop
科学の形式知であれば、今時AIに尋ねると瞬時に回答が出てくるので特に伝承の必要は無いのかもしれない。しかし、経験知である技術は伝承されなければその企業から消えてゆく。
技術革新の激しい時代なので技術の伝承は不要という考え方の社長もいるかもしれない。しかし、そのような考え方は正しいのだろうか。
今台湾企業などから半導体工場を誘致し、再度日本において産業の米技術を開発しようとしている。工場誘致に国費を投入していることについて大きな批判は出ていない。
しかし、世界に後れをとったかつての半導体企業の経営者たちが再度チャレンジしようとしている様子を見るにつけ複雑な気持ちになる。
さて、何が問題であったかは明らかである。半導体事業について、日本は技術開発競争に負けたと言われたりしたが、現在世界の半導体生産に使われる設備や周辺技術について日本は決して世界から遅れているわけではない。
日本の半導体事業がダメになったのは、明らかに技術経営の失敗である。失敗しただけではなく、かつての半導体産業を牽引してきた東芝などは技術の伝承もできず、さらに苦境に立っていることを今更書かない。
技術の伝承にだけ限定してみると東芝などの半導体産業だけでなく、日本の大企業はうまくなされていないのではないか。事業に関係する技術について特許を整理してゆくとかつてその企業に存在したであろう技術の消滅している様子が見えてくる。
カテゴリー : 一般
pagetop
ゴムや樹脂の耐久性について、誤った認識や研究は多い。例えば高分子の稀薄溶液中で酸化速度を調べた研究結果をもとに高分子の酸化速度は早いので、屋外暴露試験による物性劣化は酸化劣化のためである、と考察してしまうケースだ。
樹脂の屋外暴露試験を行ったときに樹脂には酸化劣化以外に結晶性樹脂では球晶の成長が起きたり、ボイドの成長が起きたりしている。そしていずれもが強度を劣化させる原因となる。
また、屋外暴露試験後の樹脂の赤外吸収スペクトルを調べても溶液中の酸化試験データから期待されるほどの酸化による赤外吸収ピークが観察されないことに驚いたりする。
バルクの樹脂ではてんぷら油の自動酸化のような現象が起きているはずだが、それが表面だけだったりして疑問点がいろいろと出てくる。実は、ゴムや樹脂の耐久劣化問題は未だにトランスサイエンスと捉えた方が良い。
高分子単体でこのような状態なので、FRPになってくるとさらに複雑であることを容易に想像できるのだが、タイタン号のような事故が起きている。
FRP製のタイタン号で初めて深海に潜る行為を冒険と呼ぶことができても、繰り返し使用したタイタン号で潜る行為は冒険というよりも無謀である。繰り返し使用した場合の劣化がどの程度なのか不明だからである。
オール金属製ならば、劣化程度の評価が可能だが、FRPの劣化評価技術は科学的な検証ができていない。すなわち非破壊検査ができない材料なのでリスクの予想が不可能なのだ。
カテゴリー : 未分類
pagetop
技術開発において日々発生する問題をどのように解くのか、そのスタイルにより開発スピードは左右される。まず、どのような立場あるいは役割にあっても、問題が正しい問題であるのか検討することが優先される。
目の前に問題が発生すると、すぐにその問題を解こうとする人がいるが、そのようなスタイルで開発を進めているとモグラたたきになるケースが多い。
仮に、誰もが同じ問題を指摘したとしても、それがいつでも正しい問題である保証は無い。技術開発で発生する問題の中には、それを解決しなくても経営に影響を与えない場合がある。
一方で、問題として顕在化していないが、嫌な予感がするような、すなわち第六感として経営に大きな影響を与えそうなことが気がかりとなる場合もある。
これらは、現状を再度整理しなおしたり、技術開発のゴールを再確認することにより具体化できる。このような第六感といものはあまり外れないものである。現状と開発のゴール見直しにより、新たな正しい問題が見えてきたりする。
正しい問題をいつも解く習慣とすることが大切で、そのためには問題そのものよりも現状やゴールを常に具体化するスタイルを身に着けたい。
ドラッカーは優秀な人が成果をあげられない理由として間違った問題を正しく解いている点を指摘している。間違った問題が正しく解かれて得られた正解が何の役に立つのか、それを考えるだけでも時間の無駄である。
カテゴリー : 一般
pagetop