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2023.06/15 プログラミング環境の重要性

小学校でもプログラミング教育が始まったので、10年後の技術開発の現場ではPythonを自由に扱えることが常識になっているのだろうと想像する。


Pythonはコンピューター言語として必ずしも優れた言語設計が成されているわけではない。同時期に登場したC#のほうが洗練されたオブジェクト指向言語として優れている。


C++からC#へ進化したのに、PythonはC++へ逆戻りしたような、あるいはC++よりいいかげんな設計の言語に戻ったような印象すら受ける。また、オブジェクト指向でプログラミングを行おうとするとC++の軽快さが無い。


ただC++をちょっとよいC的な言語としてそれが登場した時に使いやすいと感じたような心地よさがこの言語にある。すなわちオブジェクト指向として洗練されていないのだが、BASICのような使い方もでき、BASICよりも優れたデータ構造のおかげでデータ処理では扱いやすい言語である。


しかし、他の言語には無いPythonの一番大きなメリットは無料の豊富なライブラリー群の存在である。このようなプログラム環境ゆえにPythonは、10年後も技術者の標準言語として使われているに違いないと予想している。

カテゴリー : 一般

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2023.06/14 ポリマーブレンドでできる相

2種類以上の高分子を均一に混ぜたポリマーブレンドあるいはポリマーアロイについて考察するときにχが用いられる。χ>0の場合には2相以上に分離すると言われている。相の数は混ぜた高分子の種類の数となる、と言うようなことが一般的にいわれている。


教科書にはこの見解が正しいような説明がフローリー・ハギンズ理論として説明されている。一方1種類の高分子だけでも細かく見ると幾つかの構造が存在する。


結晶性高分子であれば、結晶相と非晶質相の2相が少なくともできるが、結晶相はラメラの集合体であり、多少の非晶質相を含んでいることが分かっている。


高分子の非晶質相は、無機材料の非晶質相と異なり、密度が不均一である。最も密度が低い部分で室温において得られるエネルギーで分子運動している相は自由体積あるいは部分自由体積と呼ばれている。


1種類の高分子でもこのように複雑なので2種類以上のポリマーブレンドではさらに複雑になる。力学物性では遭遇する機会が少ないが、それでも同一組成でありながらプロセス条件が異なると異なるSSカーブとなるケースが観察されることがある。


電気電子物性になるとその頻度は高いはずなのだが、測定パラメーターが直流の体積固有抵抗だけであるとばらつき程度に考えて深く追求しない。


18年前に中間転写ベルトの開発を行っていた時にインピーダンス測定を行っている。どのような測定を行ったか秘密であるが、その時面白い現象を発見している。


この発見は、中国ナノポリスでローカル企業が電子部品の外装材を開発している時にも類似と思われる現象の解釈に役立った。同じ高分子素材を使用していてもローカル企業のコンパウンドが優れた特性を示したのだ。ご興味のあるかたはお問い合わせください。


今日の話題は、今の科学の体系では典型的なトランスサイエンスの問題と捉えることもできるが、そもそも50年前とそれほど変わらない内容の高分子材料に関する教科書にも問題があるように感じている。


高純度SiCの反応速度論を中心とした学位論文を書いているが、無機材料の視点で高分子材料を眺めてみると、LGBTの問題以上に複雑な問題が見えてくる。

カテゴリー : 一般 高分子

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2023.06/13 材料設計

金属材料やセラミックス材料の設計には相、細かくは結晶に着目して配合組成を設計する。それでは高分子ブレンド(以下ポリマーブレンド)あるいはポリマーアロイの設計の実情はどうか。


ポリマーブレンドの高次構造の相に着目して設計するところは金属やセラミックスと同じように見える。しかし、そこから先が無いのだ。ポリマーブレンドでは相といっても金属やセラミックスのように結晶相ではなく、ブレンドに用いたポリマー種が構成する複雑な相である。


フローリー・ハギンズ理論はこの時重要な理論として50年ほど前から専門の教科書に登場していた。当方の時代には、この理論が1行も登場しない高分子の教科書が存在した。


40年ほど前からそのような教科書は無くなり、説明の量の違いが教科書の特徴となっていた。すなわち、高分子物理の教科書ではフローリー・ハギンズ理論の解説が数ページに及ぶが、高分子合成に関する教科書では一言である。


高分子材料設計の教科書では、おそらく1ページ以上を割く必要があるかもしれない。この理論の解説は難しいというよりも悩ましい理論ゆえに、そこを正しく説明しないと新しい技術の発展を阻害することになるためである。


さて、金属やセラミックスでは結晶相に着目して材料設計が成されるのだが、ポリマーブレンドではポリマー種の結晶相まで考えないことが多い。


樹脂補強ゴムの開発を行ったときも同様であり、当方の書いた報告書では、樹脂の結晶相の割合が樹脂補強ゴムの弾性率を制御しているという結論が新発見として評価された。


架橋密度でゴムの弾性率を制御できることは公知だったが、耐久性も十分見込まれた実用化できたゴムでは、架橋密度よりも樹脂の結晶化度のほうが寄与が大きかった。


注意しなければいけないのは、ブレンドしたすべてのゴムを対象としていない点だ。耐久性も十分にあり、実用的にゴムとして利用可能な樹脂補強ゴムについてである。このようなゴムでは樹脂相は必ず海相となっていた。

カテゴリー : 一般 高分子

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2023.06/12 高分子材料とデータサイエンス

高分子材料の物性は金属材料やセラミックスよりもばらつきが大きい。セラミックスの力学物性は高分子材料と同じ程度にばらつくこともあるが、電気電子物性についてセラミックスは極めて安定している。


有機ELが実用化されたが、無機材料のLEDに比較してその寿命は短い。しかし、電流駆動という特徴と生産性の高さから有機ELがディスプレー材料として選ばれている。


高分子材料を機能性材料として実用化する時にはその1次構造を設計する必要がある。しかし、成形されたときに非晶質相が多く、その構造の特性ばらつきが機能性に少なからず影響を与える。


高分子の非晶質構造に存在する自由体積あるいは部分自由体積と呼ばれる構造を製造プロセスで制御することが難しい。


あるポリオレフィン樹脂をバンバリータイプの小型混練機でいろいろと条件を変えて混練し、その量のばらつき変化を調べたことがあるが3倍近くばらついたのでびっくりした。


自由体積の量が変化すれば、密度が大きく影響を受け変化する。密度の影響を受ける機能性は、その結果大きくばらつくことになる。


ゆえに高分子材料の物性についてインターネットから収集されたデータで物性予測を行おうとする時に問題となるのは、プロセス情報の公開が少ない点である。


良く知られているように、高分子材料の物性は成形体が製造されたプロセスに大きく依存する。金属やセラミックスも同様であるが、高分子材料の場合にコンパウンディングの履歴も引きずるので大変である。マテリアルズインフォマティクスを行う時にこの点に注意する必要がある。

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2023.06/11 腐ってはいけない

全仏オープン女子ダブルス3回戦で加藤未唯選手の不注意に返したボールがボールガールにあたり、対戦相手のスポーツマンシップのかけらもない直訴で失格となった問題は、その後同大会混合ダブルスで加藤選手の組が優勝する、というドラマチックな展開で終わった。


これだけでも十分なドラマだが、脚本家三谷氏は、「僕だったら優勝した瞬間に再びボールパーソンに向けて、ボールを打つ、そしてそれをボールパーソンがパッとつかむ、そのように書きますね」とTV番組の中で答えていた。


この全仏オープンの出来事には、様々な人が様々な視点でコメントを述べているが、実際のエンディングは、加藤選手とボールパーソンの笑顔の写真で終わっている。


脚本家はさらにそれを盛り上げるエンディングを提案しているのだが、今回の場合に脚本家のエンディングシーンでは、加藤選手がプロであることを忘れているように思う。


アマチュアならば脚本家のラストシーンは効果的かもしれないが、主人公がプロフェッショナルなので、残念ながらドラマチックなエンディングと言う評価を当方はできない。今回のようなボールパーソンとの笑顔による2ショットのエンディングが最高である。


ドラマの中にはエンディングの凝り過ぎですべてをダメにしているケースがある。今回のドラマでは、不運な出来事に遭遇しても腐らずミッションをやり遂げたことがテーマではないのか(注)。加藤選手の優勝後のインタビューにもそれが現れていた。


(注)現実はドラマではなく全仏オープンの運営の問題を改善しなくてはいけない事件である。失格となった選手が、混合ダブルスに出場できたのである。また、実際の現場をビデオで確認もせず一方的に相手選手の訴えで失格という一番厳しい結論を出したのである。

カテゴリー : 一般

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2023.06/10 PPSと6ナイロン(2)

半年後に中間転写ベルトの生産歩留まりを100%にしなければいけない状況で、コンパウンド工場を基盤技術0の状態から立ち上げるには個人の力だけでは不可能だ。

 

生産用の二軸混練機を導入するだけでも新品であれば発注から半年以上かかる。発注するための社内手続きでも最低1か月以上かかる。高額であれば役員会の承認も得る必要があって常識的判断をしたならば諦めることになる。

 

この時のセンター長は腹の座った人で、単身赴任したての小生が、早期退職の覚悟でこの仕事を引き受けたこと、コンパウンドの開発から行わない限り半年後も歩留まりは今のまま、と説明したら、8000万円で何とかしろ、と決断している。

 

8000万円では新品の二軸混練機も購入できないので中古機で量産ラインを立ち上げることが決まり、サプライチェーンの問題からQMSに登録されていない子会社を間借りする方針までその日にすぐに決まっている。あとは成功させるだけである。

 

中途採用の若者といかにも頭のキレがよさそうな職人二人をメンバーとしたプロジェクトでカオス混合のプラント立ち上げを始めたのだが楽しかった。

 

3か月ほどでラインが完成したので、まずPPSと6ナイロンだけのコンパウンドを混練している。カオス混合装置の吐出口から透明な樹脂液が出てきたときに、中途採用の若者は腰を抜かした。彼は高分子科学をよく理解していたので採用したのだが、期待通りだった。

カテゴリー : 高分子

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2023.06/09 PPSと6ナイロン(1)

PPSと4,6ナイロンの相溶を証明したのは東工大扇沢研究室である。PPSへ4,6ナイロンが配合された混合物を二枚の反対方向に回転するガラス円盤に挟んでその場観察する実験を行っている。

 

この実験でコンパウンドは300℃になると周辺部が透明になる。円盤の周辺部は、中心部よりも剪断速度が速いので、この観察結果は、剪断速度があがるとPPSと4,6ナイロンが相溶することを示している。

 

PPS/6ナイロン/カーボンの配合によるコンパウンドで中間転写ベルトの押出成形を担当することになった15年以上前にこの論文を読んだ。

 

そして、半年後に当時の歩留まり10%未満だったベルトの生産をカオス混合によるコンパウンドで100%にできる確信をしている。

 

フローリー・ハギンズ理論によれば、2種のポリマーブレンドが相溶する条件はχが0にならなくてはいけないので、この確信は自信というよりも東工大の研究結果を信じて教科書を否定するぐらいの度胸が必要だった。

 

カオス混合によるPPSと6ナイロンのブレンドではχが0でなくても相溶し透明になってくれたのだが、予備実験も研究も何も行わず生産ラインでこの現象をいきなり確認しようとしたのは無謀といってもよい。

カテゴリー : 高分子

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2023.06/08 高分子の劣化

金属やセラミックスの劣化機構とその予測に関して、科学でほぼ説明できるレベルにあり、御巣鷹山の飛行機事故についてはフラクトグラフィーを用いた解析で、圧力隔壁の修理不適切な部分からの疲労破壊が原因だったことも裁判の判例として残っている。


同様のことが高分子材料で起きていたらおそらく判例のようにうまくまとまらなかったのではないか。例えば、10年以上前に複写機外装材のボス割れについて明らかにコンパウンド起因と技術的に解析できたが、科学的証明が困難だった。


コンパウンドメーカーと議論しても平行線となって結論が出ず、現場監査となって混練機の温度管理が不適切でスの入ったペレットを生産していた現場を動かぬ証拠とした。しかしそれでもコンパウンドメーカーは科学的な証明ができていない、と主張していた。


この問題は、科学的になかなか結論が出せず、結局混練プロセス管理の徹底によりスの無いペレットを納入することとして幕引きとなった。


その後ボス割れが発生していないことから、技術的に予想されたスの入ったペレットが原因だったことの証拠と思われたが、それでもコンパウンドメーカーは非を認めなかった。


高分子成形体の劣化の場合に、コンパウンド起因と科学的に説明が難しい理由は、高分子材料について科学的に完璧な記述が難しいことによる。


溶融状態の高分子科学についても未解明な現象がまだある。それが成形体となってもその成形体物性を科学的に完璧に説明できない。これに時間の要素が加わった高分子の劣化問題について、科学の研究は易しいが実務における現象を説明することは難しいトランスサイエンスである。

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2023.06/07 二軸混練機とTM

二軸混練機を用いて高性能ポリマーアロイのコンパウンディングを行う時に、その条件を決めるためにタグチメソッド(TM)は大変便利だ。カオス混合機を取り付けた二軸混練機のスケールを大きくしてもその再現性は高い。ただし、カオス混合機が取り付けられていないと苦労する。


二軸混練機については、反応器であるにもかかわらず、化学工学的に相似形として扱えないことを現場の技術者はよく知っている。すなわち時間当たり10kgの処理能力の二軸混練機で吐出量が1時間当たり300kgスケールを予測することができない。


これはバンバリーとロール混練を組み合わせて用いる場合でも同様であるが、二軸混練機の場合には全く予測できない場合が多い。バンバリーとロール混練を組み合わせた場合には、ロール混練時間を多少伸ばす程度で大スケールで小スケール時の検討結果を再現できる。


しかし、二軸混練機では小スケールのコンパウンド性能を全く再現できないことすらある。結局小スケールの再現ができるレベルまで生産量を落とし量産に入る場合が多いのではないか。あるいは、大スケールで妥協ができる程度に改めて条件の変更を行う場合もある。


これはTMを用いても同様である。TMを用いた場合に大スケール化した時にうまく再現できる場合もあるが、複雑なコンパウンドの場合に大スケール化により機能を実現できない場合がある。


これは、二軸混練機が大きくなると混練性能がスケールとともに劣化するからである。1時間当たりの吐出量を100kgから300kg、すなわち3倍程度のスケールアップでもうまく再現できない場合がある。


しかし、カオス混合機をつけてTMを行うと、そのような場合でも再現できた経験が多い。全く手におえないという経験は現在のところ無い。

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2023.06/06 難燃化技術と耐熱性高分子

高分子の難燃化技術が急速に進歩したのは1970年以降である。1970年代中ごろには高分子の難燃化手法に関する書籍も販売されている。そして1980年代には各種リン酸エステル系難燃剤が上市され、1990年代には臭素系難燃剤のブームとなった。


修士2年間の研究で当方はPVAの難燃化技術の論文を1報書いている。当時珍しいLOIの装置を近所の女子大被服科で研究している、と指導教官から教えられて、装置を借りてLOIの評価を行っている。


PVAは接着剤や塗膜として用いられているがその難燃化が難しいということでどこかの企業が研究を持ち込んできた。それを担当する学生がいないということで小生が引き受けた次第。


ホスフォリルトリアミドの重合研究を行っていたので、そのホルマリン付加体を新規に合成しPVAの反応型難燃剤として用いたのだが、1か月もかからず研究をまとめることができた。


この時無機高分子で耐熱性高分子を合成しようと研究していたのだが、耐熱性高分子よりも難燃化技術の方が社会的に貢献度が高いと予感した。


ホスファゼンのジアミノ体の調査をはじめ、修士課程を修了後、4月1日にゴム会社へ入社する前の3週間ほどで、ショートコミュニケーションやホスファゼンの環鎖状型重合に関する論文をまとめている。


残念ながら400℃を越える耐熱性高分子を製造することはできなかったが、この時の高分子難燃化技術に関する調査研究がゴム会社入社後にポリウレタンの難燃化技術で活かされている。

カテゴリー : 一般 高分子

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