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2014.11/20 問題解決プロセスとしてのタグチメソッド(4)

基本機能を商品の唯一のもの、と考えている間は、タグチメソッドを自由に取り扱うことができない。換言すれば、タグチメソッドを科学として捉えているとタグチメソッドを正しく理解できない、あるいは肩すかしを食らう。

 

生前の田口先生と喧々諤々の議論ができて幸せだった。故田口先生は婉曲的に基本機能は商品にいくつも存在している、あるいは商品のシステムの考え方の数だけ基本機能が存在する、と言われていた。

 

ところが、教科書の記述や講演では「基本機能はシステムに一つ」というものだから、これが誤解の原因になっていた。商品はいくつものシステムの集合体である場合が多い。実験室では、開発ターゲットとなる商品の一つのシステムを切り出し、切り出されたシステムの基本機能を用いてタグチメソッドを適用する。

 

商品からシステムを切り出すときの考え方は幾つも存在するはずだ。技術者は商品を設計するときに幾つかのシステムに分割するが、そのとき技術者の考え方でシステムは変わる。ある特定の商品で定まったシステムなど存在しないのだ。

 

新商品を企画するときに、既存の商品のシステムを見直すだけでも全く異なる商品が生まれることを経験するとこのあたりのことが理解できる。そしてその時発明が生まれる。システムがいつも固定化されている、と考えている技術者は二流である。商品のシステムを見つめ直す作業は重要であり、技術者の訓練になる。

 

商品を構成するシステムの捉え方は、極端な表現をすればそれを見つめる技術者の数だけ存在する。だからシステムの基本機能は一つ、といっても商品の基本機能は一つとはならないのだ。また商品の捉え方でシステムが変わるならば、商品の基本機能の数も変わることになる。これが重要なポイントである。

 

教科書にここまで書いて欲しいが、タグチメソッドを科学として捉えていると、こんな事を書けないのである。故田口先生はタグチメソッドの体系を科学的に説明されていたが、あくまでも「メソッド」であることを強調されていた。商品から技術者が切り出したシステムから論理を展開されているのである。

 

もし技術者が複合システムを取り扱っている場合には、それこそ基本機能はいくつか存在することになる。故田口先生は基本機能が唯一存在するシステムを事例にタグチメソッドを説明しているのであって、技術者が複合システムにタグチメソッドを適用した場合で議論を展開していないのである。

 

 

カテゴリー : 一般 連載

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2014.11/19 問題解決プロセスとしてのタグチメソッド(3)

商品の品質が安定している、とはユーザーの使用環境で商品の機能が安定に発揮されている場合を言う。そのような商品の開発の現場で、タグチメソッドという問題解決プロセスは一度体得すると、すぐに商品開発をすることができるので便利である。ただし、それは基本機能や、誤差因子、制御因子を理解している場合である。

 

誤差因子や制御因子は現場を調査すればわかるが、基本機能は研究活動が必要で、故田口先生もそれを推奨していた。また、商品の基本機能の考え方の難しさは、品質工学会の初期の会報において竹トンボの事例を用いて説明している。一読すると面白い記事であることが分かる。故田口先生は技術者の責任と述べただけでこの世を去り、この竹トンボの正解は示されていない。

 

実はタグチメソッドで難しいところは基本機能として何を取り上げるかという点である。ここを乗り越えることができればタグチメソッドは体育会系のノリの技術開発を可能とする便利な方法である。

 

竹トンボの記事を読んで頂くと分かるが、基本機能が一つの真理として存在しているのではなく、それを技術者の責任としている点でタグチメソッドはヒューマンプロセスの問題解決法だと思う。

 

1990年頃初めて故田口先生のご講演を拝聴した時に、会場から基本機能に関するしたり顔の質問がでた。質問は基本機能を直接扱った内容ではなく、最適条件で製造したところうまく最適化されていなかった、という内容だった。田口先生は、その質問に対し一言「基本機能が間違っている」と切り捨てられた。鮮やかだった。

 

ところが質問者はひるまず「それでは何を測定すれば良いのか」と半ば腹立ち気味に追加質問していたが、それに対しても、「それは技術者であるあなたの責任だ」と、ばっさり一刀両断だった。

 

当初サクラかと思っていたが、質問者の顔は赤くなり、明らかに腹を立てている様子が伝わってきた。故田口先生のコンサルティングでは、基本機能を技術者の責任で考えることが前提になっている。そしてそれはコーチングで進められた。

 

ただ、このやりとりでタグチメソッドの重要な点をすぐに理解できたので、優れた質疑応答と思った。長年タグチメソッドを使用してきたが、基本機能さえ間違えなければ、最適条件をうまく選択することが可能な便利な方法と思っている。

 

注意点として、どのような基本機能を用いるかは技術者のノウハウであり、この点を明確に書いてある参考書を見たことが無い。直接田口先生から御指導頂いたが、頑固に見えるご指導だが、奥に柔軟な姿勢を持っておられた。基本機能は一つでは無いのである。

 

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2014.11/18 問題解決プロセスとしてのタグチメソッド(2)

電気抵抗R0の材料を開発したいときに、まずV=RIという式を思いつく。安定な材料であれば、電流を変化させたときに電圧は電流に相関して変化する。そして集められたデータについて横軸を電流、縦軸を電圧にしたグラフにプロットしてその様になっているのか確認する。

 

たいていは0を通るほぼ一直線のグラフが得られるが、材料には非オーミックな領域があるので相関係数は1にならない。材料の問題と測定者のスキルも含めた測定環境の問題も影響する。これらは制御因子や誤差因子の影響を受けている、などと言われる。

 

実験者がコントロールできない場合は誤差因子と呼ばれ、制御可能な場合には制御因子と呼ばれる。但し誤差因子は制御できないが、最悪状態や最良の状態は予想がつくのでその状態に誤差因子を設定し、誤差が管理された条件における実験は可能である。例えば、氷点下の乾燥した室内や高温多湿な室内は、開発したい電気抵抗の用途からどの程度が最悪あるいは最良になるのか情報があるはずだ。

 

予想がつく誤差因子をならべ、用途から考えた最良と最悪の条件を書き上げる。そして最良の条件と最悪の条件をそれぞれ組み合わせた二組みの条件で誤差を管理した実験を行いV=RIのグラフを書いてみる。

 

大きく異なるグラフが得られるはずである。材料や抵抗を製造するプロセス因子を変えて,同じように誤差因子の最良条件と最悪条件で実験を行いV=RIのグラフを書いてみると最初の実験と異なるばらつきでグラフが得られる。

 

さらに制御可能な因子を変化させて、誤差因子の最良条件と最悪条件でデータを集め、誤差因子の最良条件で得られたグラフと最悪条件の時のグラフとの差異が最も小さくなる制御因子の組を見いだすのがタグチメソッドの実験方法である。

 

すなわちV=RIという基本機能について、管理された2組以上の誤差条件で、電流を変化させた動的な実験を行い、制御因子を2-3水準変化させて、この動的な実験における基本機能のばらつきを小さくする制御因子の組を見いだす、という手順がタグチメソッドである。

カテゴリー : 一般 連載

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2014.11/17 問題解決プロセスとしてのタグチメソッド(1)

タグチメソッドは、科学的プロセスとして習ったが、目標仮説を設定して実施する「まずやってみよう」精神のヒューマンプロセスだと思っている。田口先生は機能の選択は技術者の責任といい、タグチメソッドのプロセスから切り離している。タグチメソッドはあくまでも機能の改善方法を効率良く見つけるための問題解決プロセスである。

 

基本機能の選択は、ドラッカーの「何が問題か」という問いに相当する。基本機能がわかり誤差因子と制御因子を割り付け、まず実験をやってみる。ここで目標仮説は基本機能のSN比を改善できる制御因子の組とその条件が見つかる、ということだ。

 

田口先生の著書を読むと、SN比の求め方から制御因子の寄与や誤差についてまで科学的に説明されている。タグチメソッドは統計ではない、と田口先生は生前の講義の中で説明されていたが、確率ではなくSN比を導入した時点でもはや統計ではなくなっている。しかし、その説明は統計学に似ている。田口先生のタグチメソッドを説明した初期の著書と先生が書かれた統計の教科書を比べるとよく似ている。

 

タグチメソッドを習い始めたころ思い出したのは新入社員時代のタイヤ軽量化の技術研修だった。タイヤの設計知識が無くてもQC7つ道具さえ知っておれば、なんとか問題解決できた。タグチメソッドでは科学知識が無くてもその手順さえ知っておれば誰でも機能の改善ができる。ただし基本機能を選び間違えると失敗する。タグチメソッドの難しいところは基本機能の選択のプロセスであり、それ以外は手順通り実験を行うことで容易に機能の改善ができるので、優れたヒューマンプロセスといえる。

 

さらに基本機能と制御因子、そして実験を行うための誤差因子、必要に応じて調整因子を伝承すれば、技術の伝承になる。ただしこれは科学の伝承ではない。あくまでも技術の伝承で、もし伝承された人が不思議に思ったならば、基本機能の研究を行う必要が出てくる。また故田口先生もシステムにおける基本機能の研究は奨励していた。

カテゴリー : 一般 連載

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2014.09/25 高分子の難燃化技術(9)

ヤミ実験をやっていると上司の主任研究員から、新入社員には残業代は無い、と言われた。素直に、残業申請はしませんから実験だけやらせてください、と願い出たら、何も言われなかった。

 

翌日、夜7時頃楽しそうに仕事をしていたら、趣味で仕事をやるな、と注意された。いや、趣味では無く始末書のために実験をやっているのです、と答えたら、始末書を早く書くように、と言われた。

 

一週間ほど実験を行い、ジエタノールアミンとホウ酸とを無溶媒で2時間以上反応させると耐水性のあるホウ酸エステルが合成されること、このホウ酸エステルとTCPPと混合しTGAを測定すると、TCPPだけでは600℃で1%以下の残渣しか残らないが、混合物ではボロンホスフェートが生成し、リンの90%以上が残ることがわかった。残る課題はこれが軟質ポリウレタンフォームに配合されたときに、機能を発揮するかどうかである。

 

適当な配合で軟質ポリウレタンフォームを合成したところ、ジエタノールアミンが触媒として働くために発泡バランスをとることがかなり難しくなりそうだ、とわかった。しかし、うまくできなかったポリウレタンフォームのLOIを測定してびっくりした。1ポイントも向上していたのだ。さらにTGAを測定して、600℃における残渣にボロンホスフェートが生成していることを発見した。

 

守衛が部屋に入ってきて名前を聞かれた。気がついたら夜の11時を回っていた。翌日主任研究員に呼び出され、叱られた。そしてすぐに始末書を書くように言われた。目標仮説を実証できる機能の確認ができていたので、始末書にはホスファゼンの研究開発により実用可能な新しいシーズが見つかった、と書いた。

 

主任研究員からすぐにそのシーズを説明せよ、と問われた。始末書はこれで良いのか、と尋ねたら、しばらくすったもんだのあげく、新しいシーズの話を少しずつリークしていたら、始末書の末尾に謝罪文が付け加わえられ、始末書騒ぎは完了となった。

 

サービス残業や過労死などが社会問題になっている。労働基準法に照らして考えてみると新入社員の頃の行動と上司の対応には問題があった。しかし、楽しい思い出として残っている。

 

始末書など気にかけず実験をしている姿を見て、「少しは反省した姿を」とアドバイスしてくださる優しい先輩もいた。始末書に至る経緯を周囲は見ていないのだ。そもそも仕事は結果しか見られていない、という現実を学んだのもこの時である。

 

労働基準法を含む研究開発のマネジメントについて、この頃の経験で学んだ項目は多く、さらに高分子の難燃化技術について30年後の未来でも活用可能なレベルまで学ぶことができた。この体験から30年後の未来に向けてどのような技術開発テーマが存在するのか「www.miragiken.com 」で紹介しています。

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2014.09/08 防振ゴム(3)否定証明

有機高分子と無機高分子を均一に混合する技術を検討していたので、界面活性剤のキットを常に揃えていた。增粘した電気粘性流体の中にその界面活性剤を一滴ずつ添加した20組以上のサンプルを一昼夜放置しただけで結果が出た。

 

ある界面活性剤を添加したサンプルの粘度が下がっていたのだ。その界面活性剤と類似した構造の活性剤をいくつか取り寄せ検討したところ、增粘を起こさない界面活性剤を見つけることができた。ただしこの界面活性剤は界面活性剤というカテゴリーで販売されていない添加剤であった。

 

しかしこの添加剤の構造には親水性セグメントと親油性セグメントが存在したので界面活性剤と分類してもよい。界面活性剤で增粘を防ぐことができるとプロジェクトリーダーに報告したら頭ごなしに否定された。そして一年間の検討成果を丁寧に説明され、検討してもムダと言われた。

 

もの凄い人だと思った。目の前に問題解決ができている状態のサンプルを見せて説明しているのに、そのサンプルはやがてまた增粘すると理路整然と説明されたのである。状況を担当部長に相談したら、模擬耐久試験をすぐにやろうということになり、担当部長の指導で耐久試験をやることになった。

 

ある構造の界面活性剤が添加された電気粘性流体が3ケ月間の耐久試験でも增粘しないという結果が出てきて技術として使えることをプロジェクトメンバーに認めてもらえた。但し、增粘を防止している添加剤は界面活性剤ではなく第三成分と名付けられた。当方は3ケ月の耐久試験を行わなくても技術的イメージから使えることが分かっていたが周囲の視線を気にしながらも快く耐久試験を行った。

 

技術的に可能性あるシーズを科学的観点から懐疑的に見たり、あるいは科学的論理で否定したりすることが何故起きるのか。これは義務教育時代から学んでいる科学的姿勢が大きく影響していると懸念している。イムレラカトシュはその著書「方法の擁護」の中で科学的に完璧に証明できるのは否定証明だけである、と指摘している。さらに「できない」ということを科学的に証明するのは簡単であるけれど、否定証明された事実と反する実験結果がでてきたなら、真摯に新たな仮説で証明をやり直さなければならない、とも述べている。

 

これは当たり前のことであるが、ものすごく大切な指摘である。これはまた科学のカテゴリーの中で技術を構築することは簡単だが、科学的ではない技術を創り出すことは難しい、とも言っているのと同じである。しかし冷静に考えて頂ければ、科学の無い時代にも技術は生まれ発展してきたのである。科学でサポートされた技術だけで世の中が動いているわけではない。

 

否定証明を得意とする人は知らず知らずのうちに新しいアイデアの芽を摘んでいることに気がついていない。科学を尊重することは大切である。しかし、科学に支配されその奴隷になってしまうと科学で解明されていない新しい技術を生みだすことが難しくなる。この問題については「未来技術研究部( www.miragiken.com )」で少し説明しています。

 

 

 

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子

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2014.09/06 防振ゴム(2)否定証明

自動車のエンジンマウント用防振ゴムには省エネタイヤと同じように二律背反の要求があり、その解決策の事例として樹脂補強ゴムの開発や、電気粘性流体との併用技術の開発体験があることを昨日書いた。

 

電気粘性流体との併用技術では、電気粘性流体へ抽出されるゴムの配合物による增粘が問題になった。この問題では、界面活性剤による解決方法が1年間検討されたが、結局解決できず、解決できない理由を説明した報告書があった。

 

この報告書については見せてもらえなかった。ゴムと電気粘性流体を併用したデバイスで生じる增粘問題を解決するために助っ人としてかり出されたときには、科学的には正しくても商品として成立しない技術の検討をやらされていた。

 

世の中には科学的に正しくても商品として成立しない技術を平気で企画し推進する科学者がいる。このような人に技術開発を担当させると研究成果は出ても新商品は完成しない。研究成果が出るだけでも良い、と考える経営者もいるからびっくりする。このような人は、実は、否定証明も得意で否定証明までも研究成果と考えている。

 

33年間のサラリーマン生活で出会った企業の研究者の何人かはそうであった。商品開発ができない人は、否定証明も好きだ、という事に気がついたのは、技術者生活11年目に担当した電気粘性流体のテーマを担当した、このときだ。プロジェクトにはこのような技術者が3人いた。

 

助っ人を含めた技術者10数名のプロジェクトで3人もこのような人がいると商品はできない。若いプロジェクトリーダーを支えていた担当部長は頭を抱えていた。ゆえにヤミ研実施の相談をしたときにはすぐに賛成してくれた。一度は否定されていた界面活性剤の検討をすぐに行い、1週間で成果を出すことができた。短期間で成果を出すことができたのは、コンビナトリアルケミストリーの手法を使ったからである。

 

 

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子

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2014.08/19 高分子の難燃化(5)

ホウ酸エステルとリン酸エステルを組み合わせた難燃化システムは、軟質ポリウレタン発泡体の効果的な難燃剤だった。また、中間体である、ボロンホスフェート誘導体も単離することに成功した。燃焼面にきれいなガラス相の薄膜を形成するのだ。ゆえにドリッピングも防いだ。

 

このヒントは始末書を書かされた開発成果ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームから得られた。すなわち通常のリン酸エステルを高分子に添加すると、燃焼時にリン酸エステルは熱分解してオルソリン酸を生成する。このオルソリン酸は250℃前後で揮発するので、燃焼時には燃焼している系外へ放出される。

 

これが空気を遮断して高分子の炭化を促進すると説明した教科書もあるが、この説明にはやや無理がある。なぜなら三酸化アンチモンとハロゲン系難燃剤の組み合わせほど難燃性が高くないからだ。このシステムで生成するハロゲン化アンチモンは強力な難燃剤である。

 

リン系の難燃剤は主に燃焼系内で機能して炭化促進に機能している、と考えた方が実際の現象とあってくる。またこのように考えると、オルソリン酸を系内に固定化するアイデアが出てくる。ホウ酸エステルとリン酸エステルの組み合わせシステムはこのような発想から生み出された。

 

ホスファゼンは高温度で重合するので気相に放出されない。これは燃焼後の残渣を調べるとPNOが検出されるのと、組成分析から得られる80%以上のPが残っている事実とで証明できる。

 

リン系難燃剤を効果的に利用するには、燃焼時に生成するオルソリン酸をうまく系内に固定化して効果的に難燃化できる方法を考えれば良い。詳しくは弊社へ質問してください。またリケジョが活躍する www.miragiken.com でも未来の高分子難燃化技術として扱う予定です。

 

カテゴリー : 連載 高分子

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2014.08/18 高分子の難燃化(4)

UL94規格ではドリップの有無で評価が大きく変わる。例えばV0試験では、ドリップがあった場合にいくら燃焼時間が短くとも硝化綿が燃焼するとV2となってしまう。この規格は実火災を念頭においた規格であり、科学的な見地から開発されたLOI評価法と相関が無い。

 

環境対応の必要性からノンハロゲン化技術に関心が集まり、リン系難燃剤の開発が進められ、耐熱性の高い新たなリン酸エステル系難燃剤もこの十年にいくつか開発された。リン系難燃剤では、その難燃化機構からリン原子の濃度とLOIとは相関する傾向にある。ポリウレタンや、PS、PC、ABS等でそのような実験結果が得られている。

 

しかし、LOIが24を越えたあたりから、リン原子の量が増えてもLOIが増加しなくなる場合がある。LOIが18前後の樹脂の場合では、21未満と21以上では相関係数が変化する。すなわちLOIが21は変曲点であり、それ以上では傾きが小さくなる傾向がある。

 

その結果、UL試験のV0以上を狙おうとした場合に難燃剤を20部近くも添加しなければいけなくなる場合が出てくる。コストも物性も考えなければこのような材料設計でも良いが、コストや物性のバランスを取ろうとすると難燃剤の添加量はせめて15%未満にしたい。

 

そうすると難燃助剤(と書いて良いのか知らないが)の添加という発想が出てくる。有名なところでは、ドリップ防止を狙ったフッソ樹脂の添加や、イントメッセント系の設計でメラミン樹脂との組み合わせを考えたりする。また、PC系ではシリコーンをグラフトしたPC樹脂を用いるアイデアも特許出願されている。

 

こうした考え方がいろいろ研究されてきて、特許出願が2000年頃から増えてきた。当方は、1980年にポリウレタン発泡体をホスファゼン変性して、10部未満で高い難燃性の発泡樹脂を開発し特許では無く始末書を書いている。そして始末書の汚名挽回策として燃焼時にガラスを生成するコンセプトで、硼酸エステルとリン酸エステルの組み合わせシステムを開発した。世間より20年早い発想でノンハロゲン難燃システムを完成した。

 

 

カテゴリー : 連載 高分子

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2014.08/17 高分子の難燃化(3)

高分子の難燃化には難燃剤が用いられている。難燃剤の添加で高分子材料の物性は低下する。特に靱性の低下が著しいので注意を要する。また難燃剤が可塑剤として働く場合があるので、弾性率の低下を心配しなくてはいけない。弾性率が低下すれば、引張強度や曲強度に影響が出る。

 

物性への影響を小さくして高い難燃レベルを達成する方法は、三酸化アンチモンと臭素系あるいは塩素系難燃剤を併用する方法である。経験的には、物性への影響を小さくしたいときにこの方法で最も高い難燃化レベルを実現できる。

 

しかし、最近環境への影響からこの系を用いることができなくなってきた。各種規制から制限を受けていないハロゲン系難燃剤も存在するが、実火災の安全性という観点からはハロゲン系難燃剤は1%未満の添加に抑えるべきである。

 

ノンハロゲン系難燃剤として三酸化アンチモンに匹敵する有効な難燃剤の探索が進められた。しかし、未だ見つかっていない。リン系難燃剤は炭化促進型として知られ、イントメッセント系の難燃剤もこの系であるが、炭化型で満足な難燃性を得ようとすると高分子材料に10%以上添加しなければいけない。多いときには20%も必要になる。

 

LOIを21以上にするだけならば5%程度の添加で実現できる場合も存在する。しかし、UL94-V0レベルまで達成しようとすると一般的に10%以上の添加が必要になる。面白いのはリン系難燃剤の種類で高分子材料との相性が存在することである。

 

難燃剤メーカーから代表的難燃剤について技術資料が公開されており自分が難燃化したい高分子材料の難燃剤選択に便利である。しかし、こうした技術資料だけで開発がうまく進めばありがたいがたいていの場合に技術資料の再現ができず悩むことになる。

カテゴリー : 連載 高分子

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