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2013.11/23 樹脂材料技術

東京モーターショー2013で樹脂製ボールベアリングを見つけた。すでにハンドルの部品として実用化され、軽量化とコストダウンに寄与しているそうである。エンジニアリングプラスチックスの用途として過酷な使用環境である。実用化するためには、それなりの信頼性試験が要求されたと思われる。

 

 

樹脂は軽量化とコストダウンを実現する手段として自動車部品に使用されていることは知っていたが、金属部品しか使用できそうもない、と思っていたところにも樹脂が入ってきている。かつてセラミックスフィーバーの時に、自動車部品にセラミックスが普及したが、その置き換わったセラミックス部品の幾つかは、また耐熱合金に市場を奪われている。ファッション機能だけで普及した部品はコストダウンの波に勝てないのである。自動車部品の樹脂化は軽量化とコストダウンの2つの目的でどんどん進んでいるようだ。

 

 

国内の汎用樹脂事業は、統合に次ぐ統合で苦戦が続き、エンプラ分野も一部はコモディティー化が進み、コスト競争に移ってきている。素材会社は大変だが、部品メーカーは技術力があればそれなりの商売ができているのかもしれない。

 

 

ここで技術力とは評価技術である。すなわち自動車分野では軽量化とコストダウンの目的のため、金属から樹脂に置き換える動きは今後も続くが、その時に金属なみの信頼性を樹脂で確保できるかどうかが鍵になり、そのためには信頼性試験をうまくできなければならない。金属材料と同じ評価試験を行うのは当然だが、樹脂の弱点が信頼性に影響を与えていないかどうかを見るための評価技術が重要となる。

 

 

この評価技術は樹脂の問題点をよく理解していなければ構築できない。高分子科学についてはアカデミア以上の経験が要求される難しい分野である。評価技術で悩んだら弊社へご相談ください。自動車部品メーカーと精密機器メーカーで高分子材料の開発から評価技術開発まで多くの実績があります。

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2013.11/22 東京モーターショー2013(2)

モーターショーの一角で「Smart Mobility City 2013」を開催している。未来の自動車社会の提案コーナーだが、新聞等のニュースに登場した事柄以外に目新しい展示物は無い。車が都市と市民を結ぶ、というのがテーマのようだがすでに描いた夢の焼き直しを見ているようだ。

 

年をとったせいかもしれないが、わくわく感の少ないショーである。車の自動運転が全面に出てきて今後開発されるであろう技術を見せるような展示を期待していたが、特許の問題もあるのか、自動運転に関しては話題の中心になっていない。

 

自動車好きにはモーターショーは重要な催し物であるが、自動車も巻き込む大きなイノベーションが社会で起きているときには、それがメインテーマになり、各社そのテーマにちなんだ展示があったが、昨日も書いたように今年はそれがよく見えない。車の自動運転は大きなイノベーションのように思うのだが。

 

その中で燃料電池車の説明に小便小僧を用いて、排出されるのは水だけ、とこの先は説明の必要がないアクションを見せられたのには驚いた。やや***である。かわいい小便小僧ならばまだ良いが、スクリーンも兼ねているので3m以上もある巨大な「小便怪物」である。それが水を排出する前に不気味に目を光らせる。この展示の評価については意見が分かれるかもしれない。

 

自動車にあまり興味が無い当方にとっては、感動が少ないモーターショーだが、部品メーカーの展示に面白い提案が幾つかあった。例えば西館のデンソーのブースである(注)。電気自動車が普及したときの街の様子を展示し、非接触による給電方式などすでに公開された技術以外に全てが電気自動車となったときに生じる問題のソリューションを提案していた。

 

詳細は足を運んで見て頂きたいが、車のエネルギー源をガソリンから電気に置き換えたときに充電時間の問題以外に、様々な問題があり、その解決に幾つか細かいインフラが必要になる。それを模型でうまく説明していた。地味な内容だが、この展示を見に行くだけでも勉強になる。さすが自動車部品大手のデンソーである。社会的使命を心得ている。

 

車好きならスバルのブースが面白い。新車レヴォーグのデザインとそのスペックを見るとすぐに買いたくなるかもしれない。また、エクシーガはクロスオーバーSUVとして置き換わる。そのデザインが運転したくなるかっこよさだ。昔スバルのデザインや内装は今ひとつだったが、最近のスバルは別会社のようだ。

 

(注)デンソーは東館にもブースを構えている。

 

カテゴリー : 一般 学会講習会情報

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2013.11/15 化学産業の課題と今後の政策対応の方向

昨日高分子同友会講演会で表題の講演を拝聴した。経済産業省化学課長茂木正氏が化学産業の現状と未来についてまとめられた成果の講演である。現状分析についてうまくまとめられており知識の整理に役立った。

 

このようなうまくまとめられた講演を伺うと、見落としていたところなどが改めてクリアになる。ただ講演者の立場から原発について踏み込んだ内容は当然語られていない。3.11前後で原発政策の見直しが必要になった、という程度である。実は3.11前後で変わったことは多数あり、3.11がサラリーマン最後の日であった当方は身に染みて感じている。

 

小泉氏が脱原発を叫び始めたが、将来の脱原発についてはもう国民の総意ではないだろうか。原発が一度事故を起こせば経済的な損失は計り知れなく、最終処分場の話も含め本当はエネルギー価格が大きな発電方法ではないかと国民は疑っている。ただ、今どうするか、これが議論の分かれるところで、こわごわ脱原発を達成できるまで原発を使うのか、第二の福島が発生したら日本は終わり、と考え原発をやめるのは「今でしょ」、という判断が難しい。

 

しかし、この難しい判断について国会で決められるように明快な指針となる情報を経産省は出すべきと思っている。すくなくともこの判断ができる情報だけでも経産省はまとめる義務がある。

 

化学産業を巡る状況は現在厳しさを増すばかりであるが、経産省がエネルギー自給自足政策の可能性について打ち出せば新しい産業が動き出す下地ができはじめている。すなわちエネルギー自給自足に役立つ産業に対して将来投資を国が行えば、化学産業にもその波及効果が及ぶ。なぜならエネルギー自給自足を推進するためには化学産業が中心にならなくてはいけないからである。

 

仮にこの4-5年発電コストが急激に上昇したとしても20年先にはそのコストが回収される。しかし、民間ではそのような息の長い投資は不可能で国のレベルでやるべきである。今までの産業は原料を海外から輸入して発電し、その発電エネルギーで付加価値を出した製品を作り輸出するのが20年前まで資源の無い日本の有効な戦術であった。付加価値を出した製品を輸出する戦略そのものは今でも有効で、ただ化学産業はその戦略の中で高度成長期に損な役割に置かれていただけである。

 

これは、アッセンブリー企業における材料屋は下請けとなり良い処遇を受けられないという経験から出てきた視点である。例えばPPSと6ナイロンを相容させる技術を開発しても評価されず、それを複写機の部材である中間転写ベルトに仕上げて初めて成果として認められる状況は化学産業とよく似ている。

 

化学産業は素材産業から部材産業へ転換する機能性化学の道をこの20年歩いてきたが、ここへさらに国がエネルギー自給自足政策という方針で投資すれば、化学産業も大きく発展する。エネルギー自給自足が可能か不可能かという議論は無意味で、それを実現しなければ島国日本は生き残れない、と考えている。またそれができる環境と技術の下地がこの2年半の間にできてきたのである。3.11を不幸な出来事のまま終わらせるのではなく、日本のエネルギー政策を大きく舵きるきっかけとして位置づけ、その後の日本が幸せになる、というシナリオを作れるのは経産省である。

 

 

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2013.10/13 機密情報

第54回電池討論会JFEテクノリサーチの発表について、別の側面からも感心した。それは機密情報に対する姿勢である。発表内容は、電極反応に関わる情報でその情報を得るための技術は高くどこの企業でも簡単に得られる情報ではない。このような情報についてともすれば機密情報として学会報告を認めない会社もある。

 

まず機密情報については、情報セキュリティーISO27001に基づくが、品質マネジメントISO9001に準拠して考えると、各企業の判断に任されていることになる。また、その判断の結果を文書として残し管理している情報がその企業の機密情報である。

 

研究開発の情報を外部発表する場合には、外部発表の許可願を提出することになるが、その時の判断で研究開発成果がその企業にとって機密かどうかが決まり、何を機密としているかにより企業の判断能力の高低を知ることができる。すなわち何でも機密扱いにする企業は判断能力が低く、機密を管理していないのと同じ状況になる。なぜならそのような管理方法では企業活動でどんどん機密が増加しやがてコストの増大を招き管理できなくなるからである。ゆえにISO9001の文書管理が重要になってくる。

 

それでは技術情報の場合にどのような判断で機密扱いにするのか。それは機密にしなければ守れない技術についてである。例えば技術開発の成果の多くは特許によりその権利は守られるが、特許にできないノウハウは機密扱いにしなければ守ることができない。ゆえにそのようなノウハウは機密情報として機密文書に残し、しっかりと管理しなければならない。そしてこの管理されている情報がその企業の機密情報となる。

 

ちなみに公開された特許情報の技術は機密扱いにしない企業がほとんどである。但し、公開された特許情報の重要度や他社特許との関係性については機密扱いになる場合がある。すなわち情報の組み合わせについてその考え方が企業活動に大きな影響を与える場合には機密扱いにしなければならない。そしてこの結果は機密文書として残すことになり、機密文書として管理されている間は機密情報である。

 

ところで科学的成果は機密扱いにすべきかどうか。純粋な科学的成果は、いずれどこかの機関から公開される運命にあるので機密扱いにしない企業は多いが、ここで企業の技術力が試されることになる。すなわち科学と技術を正しく理解し、公開の判断を下せるかどうかは技術力に依存する。

 

JFEテクノリサーチの発表はこの観点で見事であった。純粋に科学的成果に絞って発表されており、そのメカニズム仮説については現在検討中としたのだ。昨日も触れたが、発表された成果から仮説を立てることは容易な状況である。しかしもし発表内容がどこかの企業の情報を参考にしていたときにメカニズムの仮説が機密情報に触れる場合がある。このような微妙な場合には、純粋な科学的成果だけに絞って情報公開するほうが無難である。その判断のメリハリが発表内容から伺われた。

 

科学情報や技術情報をどこまで機密扱いにするのかは、技術に関する判断になるのでその企業の技術力を知る尺度になる。また企業活動から得られた科学情報や技術情報の積極的な公開はその企業の技術力のPRになる。この時の判断において科学と技術を正しく理解しているかどうかが重要である。機密情報は文書管理で決まるが、その基準を決めるためにも科学と技術の目的を正しく理解する必要がある。

 

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2013.10/11 ボーイング787のLiイオン二次電池その後

昨晩高校の同窓生で東京在住者が毎月集まる東京旭丘会月例会(旧東京愛知一中会)の当番だった。そこでボーイング787の機長を務めた同期の小川良君(今年すでにJALを定年退職)に講演をして頂いた。彼はフジテレビの「矛x盾」で放送された飛行機マニアとJALの対戦にJAL代表として美人の客室乗務員町田さんと一緒に出演したTV映えのする二枚目である。

 

講演内容は同窓生対象なので表題の話題以外に彼の機長として、あるいはJALの元社員としての興味深い飛行機の話が大半であった。ただ、表題の話題については技術という側面を分かりやすくプレゼンテーションしていたことと、以前本欄で紹介したこともあるのでここで話の一部を取り上げた。

 

ボーイング787が最新鋭機として他の767や777はじめその他の7シリーズと比較しどこが優れているのか、という話の中でバッテリー不具合対策が紹介された。あくまでも同窓生対象なので、プレゼンテーションでは難解な技術用語は飛び出さず分かりやすい説明であったが、ここでは技術的に翻訳して要約する。

 

バッテリー事故では新聞でも紹介されたように原因解明には時間がかかり終結までの見通しが不明であった。但し、バッテリーそのものは本欄で紹介したようにGSユアサの技術力で、エラーが起きても火災を引き起こすまでに至らなかった(注1)。

 

そこでバッテリーに予想される不具合108項目(実際に発生するかどうかは別にして科学的に考えられることすべて)を再度見直し、対策が不十分と改めて判定された80項目(すでに対策が取られていてもリスクがあると思われる項目)すべてに新たに3重の対策を施したという。その一例が写真とともに紹介された。

 

この話は品質工学のFMEAという手法を3重に行っている、という内容である。このFMEAという手法は、科学の時代でも科学で解明されていない現象を含む技術の品質保証ではメーカー各社どこでも行っている“はず”の手法で、経験が積み重ねられれば品質の信頼度を急激に高めることができる。108項目についても初めてのフライト前に当然行われていた。しかし原因不明の事故が起きた、ということで重要な80項目についてさらに3重に対策を行った、という。一例では過剰品質といえるところまで行っていた(注2)。JALの安全に対する厳しさが伺われる説明であった。

 

電池というものは、イオンの拡散という現象で科学的に説明ができるが、その耐久性も含め、科学的に完全に説明がつかない現象も多数存在する商品である(高度な技術の商品は皆この問題を抱えている)。本欄で科学と技術を科学技術という曖昧な言葉で集約するのではなく、技術開発でそれぞれの目的が異なる点を重視している一因であるが、科学の成果と思われている商品すべてが実は技術の成果で創られており、その中には現代の科学で解明できない現象が商品に含まれている問題に改めてここで取り上げたい。

 

技術の成果に科学で解明されていない現象が含まれているかもしれないのでFMEAというヒューマンエラーを防止する対策を行うのである。ただ、ここで注意しなければいけないのはFMEAそのものは科学的視点で行われている、ということだ。すなわちFMEAを行っても科学で理解されない現象が起きればせっかくの科学的論理で導かれた対策をくぐり抜けてエラーが発生する。このようなエラーは科学で理解できないので「経験」という行為を積み重ねる以外に防げないのである。

 

ゆえに市場でエラーが発生する度にFMEAを繰り返しているのがメーカーの品質管理のやりかただが(注3)、それを一気に3重まで一度に行う、というやりかたは初めて聞いた。だからボーイング787は今無事に飛べるのである。

 

傾斜のある土地にタンクを並べその最上段に1個だけセンサーをつけて安心して汚染水を垂れ流していた東京電力はJALを見習うべきである。科学の初歩的な学力があれば分かる現象でミスが発生する間抜けな状態(注4)というのはFMEAが行われていないことを意味している。

 

(注1)飛行機には発電装置が8基あり、これがすべて壊れたときにさらに2基あるバッテリーが使われる、という安全に安全を重ねた多重の対策が成されている。ゆえに新聞で報道された事故で飛行機が墜落することは無いそうだ。

(注2)関連メーカー技術者を含めた企業の横断的プロジェクトで推進された、ということでGSユアサの技術者も加わっていたはずである。

(注3)車のリコールは恥ではなく技術を高める活動の一つである。ゆえにそれを隠蔽するのは罪だけでなく技術開発を放棄している行為である。

(注4)今回の汚染水漏洩は、連通管と同じ原理に設計してセンサーを1個にした、というならば間抜けな対策である。傾斜した連通管で一つだけセンサーをつけるならば傾斜した最も低い位置にある管にセンサーを1個取り付けるのが常識である。傾斜した連通管の最も高い位置に取り付けたのは、「間抜け」か「意図的」なのかどちらかである。もし後者ならば犯罪である。永遠に水を貯めることができるタンクと称して汚染水をこっそり垂れ流すことができるので今回の事件は犯罪の可能性もある。犯罪でなければ東電の技術者は中学生レベルと見なすべきである。

 

カテゴリー : 一般 学会講習会情報 電気/電子材料

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2013.10/09 第54回電池討論会

今週月曜日から水曜日まで大阪で表題の討論会が開催されている。昨日時間を調整できたので参加した。このような討論会の良いところは技術のトレンドを瞬時に把握できる点である。

 

例えばLiイオン二次電池の負極に数年前から注目が集まっていたが、Sn系はもう時代遅れで、Si系も技術開発のピークになって最終完成系ができているのでは、と思われる雰囲気であった。

 

Si系負極を採用した電池については昨年既に上市されたが、まだ理論容量に到達していない。実験室では到達していても実用系ではまだまだ問題がある。その問題解決につながるかもしれない、興味深い発表がJFEテクノリサーチからあった。

 

金属SiにLiイオンが拡散する時に<101>面から選択的に入り合金を形成するそうだ。貴重な分析データが公開されたが、このデータを見るだけでも新幹線代は高くない、と思わせる内容だった。

 

金属Siをそのまま負極に用いることができないのは充放電で大きな体積変化が生じる為で、Liと合金化すると負極がダメージを受ける。ただ一度膨張した後収縮はせずそのまま充放電ができる点が少し不思議だったが、発表内容からその現象を理解でき、新しいSi系負極のアイデアが浮かんだ。

 

Liイオン二次電池はブリヂストンから発売されたポリアニリン正極の二次電池が最初だが、登場してから30年以上経ち性能は著しく向上した。時期尚早と思われていたが飛行機にも実用化された。そしてGSユアサの技術力もあり、万が一電池が壊れても火災の原因にならないことを証明した。

 

これはNAS電池の事故後の事件でもあり、あの程度で収まったことは驚くべきことである。恐らくLi二次電池の負極開発競争はあと2-3年で終了し、電池の部材のコストダウン競争が始まるものと思われる。

 

昨年電池材料を開発している友人から面白いジョークを聞いた。海外で学会がある時に電極材料メーカーの社員はエコノミークラスに搭乗するが、電解質メーカーはビジネスクラスに乗っている、という話である。

 

電池討論会を聞いているとLi二次電池の液体電解質についてはもう企業の技術開発が完了している印象を受けた。今Li二次電池のホットな話題は、電解質を固体にした全固体Liイオン二次電池に移っている。

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2013.09/26 国際セラミックス総合展2013

表題の展示会が東京ビッグサイトで27日まで開催されている。かつてセラミックスフィーバーの時代には、年に2回ほど類似の展示会があっても満員盛況の状態であったが、この会場では出展者も少なく閑古鳥が鳴いていた。時代の流れを知るために時間のある方はその様子をご覧になると勉強になる。ゴム会社も小さなブースで代わり映えのしない展示物をならべていた。

 

そもそも30年前のセラミックスフィーバーは、断熱セラミックスエンジンの開発を目標としたムーンライト計画がきっかけとなり勃発した。このフィーバーでセラミックスに関する材料科学は大きく進歩したが、この科学の進歩を牽引したのが企業の技術である。

 

金属材料科学は古くから着実な進歩があり、20世紀中頃から石油化学の急速の発展で高分子材料科学が発展し、最後に登場したのがセラミックス材料科学のイノベーションである。大学まで科学を学び、社会に出てセラミックスフィーバーを体験し、科学の進歩が実は技術の進歩に牽引されている実態を知った。学生時代に科学は技術を牽引している、と学んだが、現実は新たな挑戦による技術開発で新たな現象が見いだされ、それが科学の発展を促していた。

 

マッハ力学史を読んでみても、科学と技術について技術は古くから存在していたが、どこから科学が生まれたかを明確にすることはできない、と書かれている。ニュートンでさえ非科学的な思考を行ってニュートン力学を完成させた、と表現されている。科学の発展により技術の進歩が加速されることはあったが、科学が無ければ新たな技術が生まれない、ということは人類の歴史を見る限り起きていない。

 

確かに新たな科学的発見と言われている成果により、技術のイノベーションが引き起こされてきた事実は多い。しかしイムレラカトシュの「方法の擁護」を読むと科学で完璧に証明できるのは否定証明だけ、と書かれており、「発見」そのものは非科学的であった可能性がある。

 

学生時代に科学を学んできた目にはセラミックスフィーバーは新鮮な世界であった。新たな技術により新たな科学が生まれる、という学校で学んだ流れとは逆向きの潮流が起きていたのだ。経済性を無視すればセラミックス断熱エンジンの車「セラミックスアスカ」は公道を走ることに成功した。これはセラミックスフィーバー初期に生まれた技術である。

 

セラミックス材料の展示会の低調ぶりは、材料科学の進歩が止まった、と見るのか、新たな技術開発が行われなくなった、と捉えるべきか。ゴム会社の展示物を見る限り20年ほど前から技術開発が止まっているかのようである。ところがゴム会社が商品の販売まで辞めてしまったSiCウェハーについては、事業を開始したときのパートナー住友金属工業から液相による結晶成長法という新たな技術について特許出願が行われている。特許を読むと着実に技術が進歩していることを理解できる。

 

バブルがはじけて20年以上経ち、新たなイノベーションが期待されているが、それを科学に期待するよりも、新たな機能にチャレンジする技術に期待した方が良いかもしれない。積極的に新たな技術にチャレンジする活動が新たなイノベーションを引き起こす。ゴム会社の高純度SiC技術は歴史の時計が止まったように見えるが、基本特許が多数切れ始めたので新たな技術開発のチャンスが生まれてきている。

 

前駆体法による高純度SiC合成法は、まだ新たな機能を生み出す技術開発の余地がたくさん残っている面白い技術である。弊社では研究開発必勝法プログラムに新たな技術をセットしたメニューも用意していますのでお問い合わせください。ちなみにこの場合は温故知新戦略となる。

 

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2013.06/01 科学と技術(脱原発国家ドイツのエネルギー戦略)

昨日ウィメンズプラザで開催された熊谷徹氏の講演会を拝聴した。氏は早稲田大学出身元NHKドイツ特派員などを勤められてベルリンの壁崩壊時にドイツに帰化、現在はフリーで活躍されているジャーナリストである。ドイツに関する著作が13冊ほど。久しぶりにジャーナリストらしい講演を伺った。

 

恐らく日本人ならば現在ドイツに関しては彼に聞け、と言っても過言ではない。日本人の視点であるにもかかわらず、偏らず世界の実情とのバランスもとれた感覚の持ち主である。話題が当方の関心事で情報をそれなりに持ち合わせていたので余計にジャーナリストという職業をまざまざと見せつけられたような状態であった。なぜなら当方が収集していたのは新聞情報がメインで二次情報だったからである。新聞情報の大元の素材を見せつけられた講演会であった。

 

ご存じのようにジャーナリストの情報はそのまま本人の名前とともに公開される場合とジャーナリストの記事を新聞社が加工して新聞社の情報として出てくる場合がある。2年前のドイツの脱原発の話題であったが、なぜか鮮度が落ちていなくて新たな情報に接した感動すらあった。

 

さてその中身であるが、大枠はすでに新聞情報でご存じのように2011年3月11日(小生のコニカミノルタ最終出勤日。)に福島原発事故が発生して直後の3月15日には、ドイツ連邦政府が「原子力モラトリアム」を発令、80年以前に運転を開始した7基の原子炉を停止、7月8日には原子力法の改正案など7つの法案を可決し、急速に脱原子力政策へ転換した背景と今後のエネルギー戦略の話題である。

 

新聞報道にもあったように原子力推進派のメルケル首相が市民の視点で原子力政策を見直した結果であるが、そこにはなぜ迅速に動けたのか、という疑問が残っていた。新聞やニュースでは詳しく報道されていなかったパラダイムシフトがドイツで起きていたのである。講演者の表現では、次のようであった。

 

「原発で大事故が起きても、被害の規模を特定し限定できるという考え方は、福島事故以降説得力を失った。」

 

「福島事故は、この発電所が作られた時に想定されていなかった規模の自然災害によって発生した。この事実は、技術的なリスク評価に限界があることを白日の下に曝した。現実は、地震や津波についての想定をやすやすと越えてしまうことがあることもわかった。」

 

日本で発生した事故であったが、日本よりも政治家はじめすべての国民(アンケート調査結果)がこのようなパラダイムシフトと呼んでいい考え方になったのである。日本人はどうであろうか。ちなみにドイツでは日本のような津波の心配どころか地震の心配の無い国である。その国が、である。

 

講演の詳細レポートを機会があれば公開したいが、この講演の感想を一言で述べれば、日本人は未だに科学の世界で原子力をとらえているが、ドイツ人は技術の世界で原子力をとらえていた、と考えさせられた。地震や津波の発生確率を元にした対策で充分と未だに考えている科学的思想に固まった原子力技術者がいるかぎり、原発事故は日本でまた起きる可能性は高い。

 

原発を科学的判断でとらえるのは間違っており、技術の視点で考えなければならない。技術の視点においてリスク評価に限界があることを本当の技術者はよく知っている。だからフェールセーフという設計の考え方がある。それでも100%の安全は保証されず常に誤差がリスクを発生する、というのが技術者の確率に対する考え方である。これは田口玄一先生の品質工学の根幹にある教えでもあり、SN比を重視した技術開発の重要性でもある。

<明日へ続く>

 

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