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2012.10/01 会社の留学制度

入社して2年目に会社は創立50周年を迎え、CIが導入され、社名からタイヤが消えました。そして、非タイヤ部門を強化する方針が発表され、メカトロニクスと電池、ファインセラミックスの3分野を事業の柱とする戦略が発表されました。同時に50周年記念論文の募集(1980年)があり、私は有機無機複合材料から高純度セラミックスを合成し、それを基盤技術としてファインセラミックス市場に進出するシナリオを提案いたしました。この提案は、入選しませんでしたが、海外留学のチャンスを頂きました。

 

留学し学位を取得するのは一つの夢でしたので、このチャンスは夢実現につながる朗報でしたが、日本が先端を走っているファインセラミックスフィーバーの状況と会社の方針を考慮すると、留学先を日本とし会社の事業戦略に直結する研究テーマを選ぶべき、という思いが浮かび、アカデミアの先生3人に最良の留学先について相談いたしました。すると3人の先生方全員が研究環境の観点で無機材質研究所(現在の物質材料研究機構)を一番の留学先であると教えてくださいました。

 

しかし、無機材質研究所の留学では研究所に学位審査権が無いので学位は取れません。学位取得の容易さと会社の方針、そして会社が用意してくださいました海外留学先も含め悩みましたが、30年以上担当することになるであろうファインセラミックスの仕事を中心に考えを整理し、S人事部長とご相談しました。すると、無機材質研究所から留学許可が得られるならば、海外留学制度にとらわれる必要は無い、という見解を示され、研究所の上司にも調整してくださいました。

 

その後手続きを進め、無機材質研究所へ留学することになりましたが、当時国内の大学以外の研究機関への留学は全社の留学制度として前例が無く、海外へ毎年研究所から1名留学するのが常態化していましたので、研究所の同僚からは今回の国内留学が前例となったなら、海外へ留学しにくくなるのではないかとの批判も聞かれました。また、仕事中心ではなく学位取得と語学を成果として考えればよい、とアドバイスしてくださる先輩もいました。

 

会社に留学制度がある場合に、その目的の一つは人材育成ですが、それ以外は会社により様々と思います。研究所の上司からも柔軟に考えるように、ともアドバイスを頂きました。その後学位取得に苦労しましたから、当時の自分の判断が正しかったのかどうか悩むこともありましたが、無機材質研究所へ留学し、高純度SiCの新合成法を完成することができ、そしてその事業が現在も続けられていることを思いますと、海外留学と学位のチャンスを見送り、無機材質研究所を留学先に選びましたのは、正しかったのではないかと思っています。ただ、発明の成功により先行投資2億4000万円が決まり、高純度SiCの新合成法のパイロットプラントを建設することになり、3年間の留学予定が1年半になりましたのは誤算でした。

 

上司の説明による当時の全社留学制度は、語学留学が目的で、将来の海外派遣要員育成という目的があったようです。将来のキャリアプランとして社内ベンチャーを起業したい、という夢もございましたので、全社留学制度の趣旨どおりの留学でも良かったのかもしれません。しかし、SiC半導体の原料となる高純度SiCの新合成法のアイデア実現が、社業に貢献できる成果として具体的に見えておりましたので、無機材質研究所への留学を決意しました。また、当時の無機材質研究所は、ファインセラミックスフィーバーの中心研究機関で、セラミックスメーカーからのビジターが多く、留学先のSiC研究グループは、海外の留学生も含め満杯の状態でした。ところが小生のビジョンを理解してくださった猪股先生が田中無機材質研究所長と調整してくださり、受け入れてくださいました。さらに、田中所長は、留学の挨拶で訪問した会社幹部に、高純度SiCの用途が、パワー半導体やLED、半導体冶工具に広がり、将来一大マーケットが形成されるという説明をして、高純度SiCの研究の後押しをしてくださいました。この詳細は「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」(1)あるいは「問題は「結論」から考えろ!セミナー」(2)に紹介してあります。

 

(1)(2)は、クリックして頂くと、リンク先からサンプルを閲覧できます。

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2012.09/27 学会発表の意義

企業活動において学会との関係は、経営者の考え方や各企業の方針で大きく変わるかと思います。32年間研究開発に携わり、学会活動も行ってきた経験から、知財との関係で学会発表の長所の例について。

 

学会発表は、企業活動において短所もありますが、積極的に活用しますとその長所の方が大きいことに気づきます。特に知財面では、特許出願で抑えきれない分野を科学的に公知とすることで、「奇妙な」特許出願を抑制することができます。公知化には、学会発表以外にもいくつか方法がありますが、学会発表における公知化では、実用化しようとする技術の権利範囲が科学的に不明確である場合に特に有効です。

 

例えば結晶と非晶質の境界は曖昧です。分析技術が高度化し、ナノ結晶の実態も明らかになってきました。ナノ結晶を非晶質に入れるのか文字通り結晶にするのか、物質ごとに意見が分かれる場合があります。先願の実施例に書かれた合成法では、ナノ結晶しかできないことに着目した後発メーカーが、ちゃっかりと結晶を権利範囲とする特許を多数出願し、気がついたら後願の特許群に権利範囲を全部抑えられていた、ということを経験しました。当然ながら、このような特許群に対して、科学的証拠で対応すれば、先願の権利範囲周辺についてぽっかりと穴を開けることができますが、科学的証拠を集めにくい状況では、学会発表が有効です。学会発表で科学的事実を積み重ね、特許の不明確な境界を過去から存在したであろう客観的事実で記述できれば、特許の権利の境界を明確にすることができます。

 

また、あまり知られていない古い情報があり、新概念で生み出した技術とその関係が不明確の場合に、学会で議論を行うと情報が掘り起こされるとともに、新概念の客観的位置づけを知ることができます。硼酸エステル変性ポリウレタンフォームの特許は、硼酸エステルの文献情報が多数存在し、現物は見つかっていませんでしたが、リン酸エステル系難燃剤との組み合わせ技術の存在が疑われましたので、かなり権利範囲を限定し出願いたしました。しかし、ガラス生成による難燃化技術として学会発表を行いましたところ、概念そのものが新しいとわかったので、特許出願を工夫すればもう少し広い範囲の権利化ができたのではないか、と反省しています。

 

すなわち、当時まだアルコキシドによるゾルゲル法が登場したばかりで、高分子マトリックスを活用し無機材料を合成する技術は、この難燃化技術が生まれてから5年後に学会発表が活発化しています。有機無機ハイブリッドの研究発表は、1980年代のセラミックスフィーバー以降活発になりました。ゆえに硼酸エステル変性ポリウレタンフォームの発明の内容を有機無機ハイブリッドとし、高分子前駆体をセラミックス原料に用いる発明まで拡大すれば、基本特許とすることができました。もったいないことをした、と現在後悔しております。学会発表は、単なる情報収集だけでなく、知財権の観点で積極的に活用する場として見直してもよいのでは、と思っています。

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2012.09/25 不可解な現象を前に人はどのように考えるか(2)

科学論文に書かれている常識と異なる現象と対面したときに、研究者ならば真理を追究するアクションを取るでしょう。しかし、技術者は、ロバスト性(注)が高く再現するならば、新技術として活用しようとします。また、堅実な経営者あるいは実務の管理者ならば、自己の使命に照らし合わせ、使命と無関係ならば、何も考えず避けて通ります。

 

仕事で遭遇した不可解な現象に対し、その立場や職業により、人は考え方が異なります。社会におけるこのような問題認識の違いを理解できるかどうかが、技術者の成長の尺度のような気がしています。

 

大学を出てきたばかりの理系の社員は、長い学校生活で科学の姿勢を学びますので研究者的思考をし、それ以外の思考を理解できません。少なくとも私はそうでした。しかし、新入社員発表会におけるCTOの言葉や樹脂補強ゴム開発における指導社員のレオロジーという学問の説明、そして難燃性ポリウレタンフォームにおける指導社員との衝突を通じ、研究者と技術者の姿勢、問題認識の違いを理解することができました。また、それを理解することができましたので、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの解析を中断し、新しい難燃システムへのチャレンジを受け入れたのです。

 

研究者的思考、価値観では、経営者や実務管理者の理解は容易です。むしろそれを理解し、研究者であることを優越感に感じる人もいるかもしれません。しかし、不可解な現象を前に、真理の追究をしないで、それをすぐに活用しようとする技術者の思考や価値観の理解は、研究者にとって大変難しいことだと思います。新入社員発表会におけるCTOの言葉の意味を真に自分の成長のための言葉と理解できましたのは、新しい難燃システムへチャレンジを始めた時で、たった一言を理解する為に1年近くかかりました。3年近く前の葬儀では、御礼の気持ちを込めて末席で献花をさせて頂きましたが、技術者とはどのように考えるべきかをよくご存じであった経営者の一人だと思います。

 

「カンと経験と度胸」これは、真理の追究をしないで現象の活用ばかりに走る技術者を研究者が軽蔑して言っていた言葉のように思います。しかし、科学の無い時代における技術の進歩を見るにつけ、「カンと経験と度胸」でも技術開発ができるように思われます。問題となるのはイノベーションのスピードで、「カンと経験と度胸」以外に現代の技術者はもう一芸を身につける必要があるように思います。

 

多くのイノベーションが、科学の世界で起きていることに着目しますと、イノベーションを起こすことのできる技術者とは、大学までの長い学生生活で培った研究者の心を忘れない技術者だと思います。研究者の心を忘れず最先端の科学の成果を技術へ昇華させることのできる技術者がイノベーションを起こすことができる技術者ではないかと思っています。

 

科学の最新情報の入手は、情報化時代の今日難しいことではありませんが、それを取捨選択し知恵を働かせて技術へ昇華させることは容易ではありません。推論を重視した問題解決力を鍛えることも大切です。数学の受験参考書には、「結論からお迎え」という標語でまとめられておりましたが、大学入試で活用していた「逆向きの推論」は重要で、「問題は「結論」から考えろ!セミナー」でも紹介しています。

 

この推論のスキルは、科学の最新情報から自分の技術領域へ推論を展開するときにも応用できます。科学の成果を技術へ展開したり、技術成果を科学の成果にまとめたりして、このスキルを高めてゆけば、イノベーションが可能な技術者になれるのではないかと思います。

 

(注)外乱や環境変化に対して、それを阻止するように、即ち外部因子の影響に対して安定であるシステムのことをロバスト性が高い、という。ロバストネスともいう。

 

 

弊社では本記事の内容やコンサルティング業務を含め、電子メールでのご相談を無料で承っております。

こちら(当サイトのお問い合わせ)からご連絡ください。

カテゴリー : 一般 高分子

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2012.09/18 技術屋の心眼

「技術によって生み出された人工物に含まれている知識は、どんなものであれ科学がもたらしたものにちがいない-科学の時代と言われる今日、こうしたあまりにも安直な考えが一般的となっている。これは現代の俗説の一つであり、そうした俗説は、技術に携わる人々がわれわれの住んでいる世界を形づくるに際して、科学的とはいえない多くの決定ー大きなものも小さなものもーをしていることを無視している。日常使用している多くの物体が科学の影響を受けていることはたしかである。しかし、それらの形状、寸法、外観は、技術に携わる人々ー職人、技術者、発明家ーによって、科学的ではない思考法を用いて決定されてきたのである。」

 

以上はE.S.ファーガソン著「技術屋の心眼」(平凡社)の序文であります。この本はバブルがはじけた1995年に、翻訳の初版が発行されました。ちょうどコニカ(現在コニカミノルタ)へ転職して4年目の時で、酸化スズゾルの帯電防止技術を製品に搭載することに成功し、新たな製品化テーマを担当したときです。通勤電車の往復で一気に読んでしまいました。(「問題は「結論」から考えろ!」でも紹介しています。)

 

科学と技術は車の両輪、とよくいわれます。しかし、科学につきましては学校教育という学ぶ場がありますが、技術につきましては、就職するまで真剣に学ぶ機会がありません。また、学校教育は、教育基本法など社会標準などが決まっており、皆同じ水準の教科書で勉強しますが、技術教育は企業ごとに様々です。日本の社会の常として、転職してよかったことはあまりありませんが、技術者教育について企業に差がある、ということを学びましたのは大きな収穫、と思いました。メーカーでトップになる企業は、やはり技術者教育に力を入れている、あるいはOJTで技術者を育成できる企業である、と痛感しました。技術者を大切に育てながら、営業活動も含め均等に力を入れることのできる企業が、世界のトップ企業になれるのでしょう。

 

どこのメーカーでも技術者教育のシステムを大なり小なり備えているかと思います。しかし、技術者を育てていこうという風土まで企業文化の中に根づかせるには、企業トップの努力が必要です。ブリヂストンの12年間は、それを体感できた貴重な人生経験として宝の期間です。

 

「この会社には技術が無い」と、入社半年で退職した同期もいましたが、その彼がイメージしていた技術とは科学の世界観の科学技術でした。「カンと経験と度胸(KKD)」を豪語する先輩社員も多く、現場現物主義の徹底した風土で、科学教育を受けてきた新入社員の目に「科学技術が無い」、と写っても仕方がない会社でした。企画書を持って行くと、一読もせず、「まず、物を持ってこい」と叱る研究部門のトップがいる会社でした。軽量化タイヤのスペックを科学的に求める新入社員の実習テーマに対して、「君が考える軽量化タイヤとは、何か」、と真剣に熱く質問するCTOのいる会社でした。

 

一方で、充実した大学への留学制度や、学会活動、学位取得など学術を極めようとする社員に理解がある会社でした。大学への寄付など学術方面への貢献も企業活動の中で積極的に推進している会社でした。学術の限界を語り、実技の神秘性や奥深さを学術の視点と技術屋の心眼で指導できるメンターがいる会社でした。

 

ブリヂストンには、科学と技術が車の両輪としてうまく動いているイメージがありました。少なくとも技術とは何か、を真剣に追求する風土だったと記憶しています。科学は、学校教育も含め十分すぎるぐらい学ぶ機会がありますが、技術については学べる機会や環境が少ないように思います。メーカーが唯一の環境かもしれません。その環境は企業により大きな差があります。各企業がこれまで培った経験知をうまく伝承し、企業に貢献できる技術者を育てることができるかどうかが、今後の日本の再生を左右すると感じています。

 

技術者教育に関し、社会標準は無いように思われます。技術というオブジェクトが、属人的であったとしても企業のノウハウまで含んでいるのなら、標準化は難しいかもしれません。E.S.ファーガソンの著書は、技術とはどういうものか、をわかりやすく表現しています。訳者あとがきでは、核エネルギーの開発の成功は科学的思考の産物で工学的な現場感覚を軽視していることを指摘しています。このあとがきは福島原発の事故よりも前に書かれたものです。3.11以降の状態から「技術」というものを今一度真剣に考えなくてはならないと感じました。弊社は、少しでもそのお役に立てるような活動をしたいと考えています。

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2012.09/17 高分子材料技術と高分子材料のツボ

「高分子材料のツボ」セミナー(以下高分子のツボ)の内容は、高分子材料技術を担当するときに覚えておくべきこと、少なくともこれだけは最低限記憶しておきたいことをまとめたものです。高分子の一次構造や、重合反応についてほとんど扱っていません。理由は、高分子の重合反応については、かなりのところまで科学的に理解されてきたからです。

 

実際に重合反応を100%制御できないにしても、重合様式については、ほぼ明らかになったと思っています。しかし、高分子のレオロジーはじめ実際の高分子材料の機能発現機構については、推定の域に留まっています。

 

2005年から2011年までの6年間、樹脂技術開発に専念することができました。社会人になって30年間疑問に思ってきた科学的成果にフローリーハギンズの理論(以下FH理論)があります。2002年にチャンスがあり、ポリオレフィンとポリスチレンを混合し、透明になる系を発見して以来、FH理論への疑問は強くなり、どんな高分子の組み合わせでも相溶できるプロセシング開発に対する思いがよみがえりました。

 

2005年にPPSと6ナイロンの系に出会いました。OCTAでシミュレーションしましてもきれいに相分離する系です。もし高温度でPPSと6ナイロンを相溶させて、急冷したならば非相溶系を相溶状態にできるのではないか、と考え、カオス混合にトライしました。仮説は的中し、非相溶系を室温で相溶した状態にできました。混練機の吐出部から透明の樹脂が出てきたときには感動しました。科学で説明できない現象に遭遇できる可能性があるので、技術開発という仕事は、刺激的で病みつきになります。しかし、この刺激による興奮を味わうためには、素人スポーツなどの遊びと同じく、ルールを十分に理解していなければなりません。

 

高分子の相溶について、高分子のツボでも扱っていますが、通常の高分子の教科書と少し表現を変えています。教科書を否定すると売れなくなるので、否定はしていませんが、FH理論に対する疑問がわくように表現しています。

 

高分子のツボの他の部分もそうですが、高分子材料技術に関わっている人が、まず頭の中に整理して入れておいて頂きたい内容と、疑問に思って頂きたい内容をとりあげまとめております。すなわち、高分子のツボをよく理解して頂ければ、技術開発で遭遇する現象を前に楽しむことやアイデアを出すことができるのではないかという思いで編集しております。

 

サンプルはこちら(Adobe Flash Player最新版がプラグインされている必要があります)

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2012.09/16 中国語の文法、会話

豊川へ単身赴任した時に、高分子材料分野で頼りにできる部下が、上海の大学院を卒業し日本に来たばかりの中国人であった。現地の人事部の情報では日本語と英語が話せる、との説明があったので、引き受けたが、日本語は読める程度で会話は英語か中国語で話さなければならない状態であった。たまたま部下に中国語が堪能でモラールが高く頼りになる部下がいたので彼をメンターにした。そして、日本語学校へ中国人をすぐに入学させた。

 

中国語が堪能な部下は、がんばって中国人を指導してくれた。機械系が専門なので高分子材料が分からなくて苦労していたが、丁寧に業務指導ができているのは、現場での人間関係から理解できた。早く日本語をマスターさせるために、中国人には日本語で話しかけるよう部下全員に徹底したが、業務を理解しているかどうか確認するためには英会話もしくは中国語を併用してのコミュニケーションになった。

 

私は中国語など全く分からなかったが、この際勉強しようと中国語会話の本を買い込んだ。数冊中国語文法や中国語会話の本を購入したが、四声でつまずいた。CD付きの書籍で勉強したにもかかわらず、部下の中国人に通じなかったのだ。録音して聞き比べて見たところ、文になったときに音程を正しく取っていないことが分かった。中国語は単文で覚えることが重要と気がついた。中国語基本5文型を開発しようと考えたのはこの時の体験からです。

 

優秀な中国人であったので、メンターはじめ周囲の配慮も有り、半年程度で日本語によるコミュニケーションができるようになった。ただ、日本語学校に入れたはずなのに、彼の日本語は三河弁であった。

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2012.09/12 比旋光度

不謹慎ですが、指導社員O氏からレオロジーについて指導を受けている時に眠くなった話から、弊社の目標まで。

 

 ゴ ム材料はダッシュポットとバネで表現できる、といきなり始まった講義は、新鮮でした。有機化合物であるゴム材料が機械の部品で表現できるのです。分子レベルで 考えるのではなくマクロの視点でとらえて高分子物性を理解するレオロジーは、おそらく当時の学問としてピークに到達していたのかもしれない。高分子物性のほとんどが、ダッシュポットとバネでモデル化でき、数値計算で解くことができる、というすばらしい成果が得られていたのです。

 

 しかし、マックスウェルの方程式を解くあたりから気が遠くなり、量子化学の授業風景へタイムスリップしました。なぜか卒論実験している風景も出てきます。E体とZ体の作り分けに苦労したゲラニオール、光学異性体の話と布施明のシクラメンの香り(小椋佳作詞作曲のヒット曲、ゲラニオールはシクラメンの香りの成分)がごちゃまぜになり、比旋光度の式が出てきたところで目が覚めました。O氏は会議室にはいらっしゃらなくて、人情味あふれる文字で書かれた講義録が机の上に置いてありました。

 

 翌日から講義ではなく、演習の毎日。地獄でした。しかし、習うより慣れろ、とはよく言ったもので、高分子の一次構造を考えずにマクロ領域から考える気持ち悪さのため理論は良く理解できないが、ゴムの高次構造をモデル化し式を立てるところまで、教えられたことはできるようになりました。そこまでできるようになって、O氏は、「おそらく、君が第一線で活躍する頃には、こんなことやってないだろうな」と申され、当時のレオロジーの考え方が高分子分野で破綻する可能性をレオロジーの最前線の情報とともにお話ししてくださいました。実際に2000年頃高分子のメソフェーズシミュレータ-OCTAが登場し、高分子の粘弾性については分子1本の挙動から積み上げる試みが現在なされています。

 

 どのような分野でも似ているところがあると思いますが、目の前のテーマを解決するためには、直前まで蓄えられている知識や知恵を総動員することが求められます。その上で新しいことを創造してゆく活動が科学の研究であり、技術の開発だろうと思います。昔の人は良かった、覚えることが少なくて、というのは亡き母の口癖でしたが、覚えた知識が新しい成果のため無駄になる、と錯覚するぐらいに最近は進歩のスピードが早くなっています。単なる情報はゴミとなって捨てられる運命ですが、知識や知恵は整理されていればいつまで経っても役に立ちます。

 

 弊社が現在出版しています、「高分子材料のツボ」セミナー、「電気化学の要点」セミナー、各種中国語入門書、問題解決の書籍などは、単なる情報では無く、目前のテーマを解決するために必要なスキル向上をめざす内容を目標にしています。学問に王道は無い、と言われますが、弊社がめざすところは、単なる学問の王道ではなく、技術から芸術まで新しいことを創造するための王道です。

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2012.09/10 高分子とセラミックスの類似点

高分子とセラミックスの両方の材料について研究開発を行い、両方の材料分野の開発成果は、学会から賞を頂いております。また学位論文は、有機無機複合材料という内容です。両方の材料開発を経験した感想として、高分子の技術革新の方向について考えました。

 

高分子とセラミックスについては、相違点が多いですが、大局的に見ると類似点もたくさんあります。

 

例えば、材料物性のプロセス依存性。これは、金属も含め、材料一般に言えますが、金属よりも高分子やセラミックスは、プロセス依存性が大きいです。材料の混合から始まり、成形するプロセスまで、一定条件で取り扱ったつもりでも、できあがった成形体物性のばらつきは、金属よりも大きくなります。高分子とセラミックスでは、組成によりますが、ばらつきの大きい組成で比較しますと大差は無いです。ばらつきの小さい組成の場合には、高分子の方が小さいですが、ばらつく場合には高分子もセラミックスもおそらく同じくらいばらつき、品質安定化技術が重要になります。

 

ゴム材料はプロセス依存性の大きい材料です。企業を分類するときにゴム業界と窯業業界か一緒に分類されている例には思わず納得することもあります。ゴムにしろセラミックスにしろ品質管理技術が参入障壁になっている可能性もあります。

 

次に材料の壊れ方、破壊の様子が、高分子とセラミックスは似ているように思っています。このように書きますと破壊力学の専門家からは叱られるかもしれませんが、高分子もセラミックスも金属に比較しますと、材料の破壊についての信頼性は低いです。材料物性は総じてプロセスに依存しますので、プロセス依存性が大きいので、物性である材料の破壊に対する信頼性の低さが似てくることになるのですが、無頓着の方が多いように思います。自動車の構造材料に高分子材料が使用できる、という事実は、大きな技術革新が必要でした。

 

1980年代にガスタービンの部品をすべてセラミックスで作ることを目標にしたムーンライト計画と呼ばれる国のプロジェクトがあり、エンジニアリングセラミックスの技術は大幅に進歩し、オールセラミックスガスタービンエンジンの開発には失敗しますが、包丁までセラミックスで作れるようになりました。当時エンジニアリングプラスチックスは実用化されていましたから、高分子の方が技術進歩が早かったわけです。

 

壊れにくい成形体を作る技術として、高分子もセラミックスもある程度まで技術進歩したのですが、材料の高純度化技術という点で、高分子はセラミックスよりも遅れているように感じています。コストをかければ、高分子も高純度化できます。しかし工業製品に占める高純度材料という観点では、高分子はセラミックスに負けています。パーフェクトな単分散の分子量分布をもつ高分子とか一次構造が完全に制御された高分子とかは、工業材料に登場していません。ニーズが無いのでしょうか。光学部品には意外な恩恵があるかもしれません。またエンジニアリング分野でも信頼性向上という成果や、二律背反になっている物性を両立させたりできるかもしれません。高分子にはまだ技術革新しなければならない分野が残っているように思っています。

 

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2012.09/05 温故知新(2)

温故知新は知財分野で有益な指針となります。少なくとも材料分野では温故知新の観点で知財を眺めると新しいアイデアが出てきます。

 

知財の有効期間は20年ですので、20年以上前の知財から技術を探し出し、新たな視点で知財網を構築するという方法は、アイデアマンでなくとも少しの努力で多大な成果が得られます。具体的な方法は弊社の研究開発必勝法プログラムでご指導いたしますが、新技術アイデアが無くて困っているときに重宝します。

 

組み合わせ特許とかの問題が残りますが、20年以上前のスジのよい技術からアイデアを拝借し、新しい技術に仕立て上げる力は実務上大切なスキルです。

 

 

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2012.09/04 温故知新(1)

酸化スズゾルを用いた帯電防止技術の開発事例では、

1.科学の成果が無い時代に、経験知で「モノ」を創れる技術があった。

2.科学の成果が知られていても、経験知が無ければ、「モノ」を創ることはできない。

ということを示しているように思います。

 

1960年頃どのような技術があったかは、特許の実施例を検証すれば理解できます。1990年には、スタウファーらのパーコレーションの研究成果に関する書籍が販売されていましたから公知であったと思います。また、酸化スズゾルも新素材として販売されており、塗布技術も揃っておりました。

 

経験知も技術のカテゴリーにいれれば、1990年に存在した塗布技術は、1960年に存在した塗布技術よりも劣っていることになります。しかし、生産技術として塗布技術を捉えると、30年間の進歩は確かにありました。技術開発は進められたが、経験知は忘れ去られた、あるいは経験知を見ることができなくなった、というのが実態では無いかと思います。このような事例は、他にもあるかもしれません。

 

科学が進歩した時代であっても、技術が無ければ「モノ」を作れません。ゆえに科学と技術は車の両輪にいつも例えられます。科学は学術論文と教育でその成果が未来へ継承されてゆきますが、技術はどのように未来へ伝えられるのでしょうか。

 

どこの企業でも技術開発報告書があります。報告書で技術は未来にうまく伝わるのでしょうか。技術の継承を考慮し、報告書に工夫をしている企業もあるかもしれません。一方ISO9001の普及で、報告書は単なる技術開発の証拠として形だけになっている企業もあります。また、一般に報告書は科学的知識で論理を展開するはずですから、報告書で技術を伝えるのは、結構難しい作業になるかと思います。

 

E.S.ファーガソンは、その著書「技術屋の心眼」の序文で、技術に含まれる知識には科学がもたらしたものと、科学的ではないものが含まれることを指摘しております。1960年に発明された酸化スズゾルを用いた帯電防止技術は、まさにその典型であり、科学的知識など無い時代に、技術で帯電防止薄膜を完成させております。ファーガソンが指摘している、技術には科学的ではないものが含まれる事実は重要で、これをどのように継承してゆくのかというのは、技術開発で重要と思います。また、この要素が多い技術ほど独創性が高く、他社との差別化技術になるのではないかと思います。

 

また、技術には科学的ではないものが含まれる、という認識は重要で、この認識を持つことで、「温故知新」という古人の知恵をうまく生かすことができるように思います。酸化スズゾルの帯電防止層を科学的に技術開発し商品化できましたのは、「温故知新」によるところが大きいです。

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